リョーとケイのアイドルユニット 3

 彼らが来ると女の子達は騒ぎ出す。
「リョー! ケイー!」
「押さないで押さないで」
 榊太郎も困惑気味だ。
「リョー君、ケイ君!」
 駆けて来たのは二人のマネージャーの関と言う男。
「おう、関君」
 助かったとばかり榊は関にバトンタッチする。リョーとケイは関の車に乗り込む。ファン達の歓声が見送ってくれた。
「それにしても、すごい人気だねぇ。まぁ、これ程イケメンでしかも歌が上手いとくれば当然かもしれないけど」
「跡部さんとテニスしたいな……」
「まぁ、無理言いなさんな。リョーもケイもこれじゃテニスどころじゃないだろう?」
「――いつでも跡部さんとテニスが出来るって言うからこの話OKしたのに……」
 リョー、いや、越前リョーマは不満顔だ。
「跡部さんからも何とか言ってやってくださいよ!」
 ケイ――跡部景吾は、寝ている。
「ありゃ……」
「じゃあ、この話はまた後で。あ、そうそう。ケイ――跡部はこの頃すごく寝つきが良くなったと聞いてるよ」
 ぐぬぬ……と睨みつけるリョーマに関はバックミラー越しに大人の余裕で微笑む。
「……にゃろう」
 後で跡部さんにテニスでぶちかましてやる――そう思ってリョーマは跡部の寝顔を覗き込む。
 そして、息を飲んだ。
 確かに歌っている跡部もかっこよかったけど――。
(寝顔も一段と綺麗になったな。跡部さん……)
 いや、ケイと呼ぶべきか。睫毛も長いし色も白い。
(ケイ――)
 アンタの一番のファンは俺だよ。
 ――リョーマは跡部の頬に手を滑らせた。
「ん……」
 な、何? 今の色っぽい声!
 もう、何だか俺もいっぱいいっぱいなんだけど――。
「んだよ……もう次の目的地に着いたのか?」
「跡部さん……まだ眠いんでしょ。まだ寝てたら?」
「寝てなんかいねぇよ」
「嘘ばっか。よだれ垂れてるよ」
「げっ?! マジかよ!」
 跡部が慌てて口元を袖で拭う。勿論嘘である。運転席の関がくすくす笑った。
「面白いね、君達。うん。君達のマネージャーになって良かったよ」
「ねぇ、関さん……俺達、テニスしたいんだけど」
「――俺様もしてぇな。こいつに勝つまではテニスはやめねぇって決めてるんですよ」
「じゃあ、アンタは一生テニスやめらんないですね」
「一生現役か。それもいいな」
「――俺もやめませんから」
「わかったわかった」
「ははは、君達、噂と違っていい子達だな」
 跡部とリョーマのじゃれ合いに関も混ざる。
「あーん、噂?」
「どんな噂っスか?」
 跡部とリョーマがほぼ同時に訊く。
「二人とも実力があるけど生意気で扱いにくくてその上属性王族だって」
「何それ……」
「俺様はキングだぜ」
「……噂は一部はほんとみたいだな」
 夕空が車を照らし出す。関が笑った。リョーマも目を細めながら言う。
「でも、ケイ――跡部さんがあんなに歌上手いとは思いませんでした。ソロでもいけんじゃないスか?」
「あーん? 俺様は何でも出来るんだよ」
 この性格さえなけりゃあな――リョーマは密かに思った。けれど、ちょっと褒めると有頂天になるところも跡部の可愛いところで……。
(な、何考えてんだ? 俺。跡部さんは二つも年上なんだ。オジンだよ)
 けれど、惹かれていくのは止められない。やはり、王様として氷帝学園でも崇めたてられるだけのことはある。
 しかも苦手科目がなくて得意のテニスはプロ級なんて――。
「跡部さん、俺、絶対アンタに負けないっス」
 俺にはテニスしかないのだから――。後、英語は結構喋れるけど、古典や現国は苦手だ。特に古典が苦手だ。
 リョーマはしょっちゅう青学での先輩、不二に古典などを教えてもらっている。けれど、この間小泉八雲を教えてもらったせいで少しそれがトラウマになっている。
「おう、俺様も負けねぇかんな!」
 跡部とリョーマはグータッチした。
「いやぁ、青春だねぇ――」
 また笑いながら関が言った。

「じゃ、またね」
「おう。あまり宿題とか根詰め過ぎんなよ」
「跡部さんこそ」
 跡部はこう見えて結構真面目で努力家なのだ。しかも財閥の御曹司。リョーマは跡部の体が保つかの方が心配である。
(ま、大丈夫か。跡部さん、結構タフだし。――俺には敵わないけど)
 跡部の頬は滑らかで快かった。――本当は跡部の唇にキスしたかったが。でも、関がいたし。
 リョーマが玄関の扉を開けると、愛猫のカルピンが走ってくる。
「ほあら~」
「いつも元気だな。カルピンは」
 リョーマはご機嫌でカルピンを抱き上げてやる。
「おう、青少年」
 兵児帯姿の南次郎が姿を現す。
「ただ今、親父」
「ビデオ、録画しといてやったぞ」
「まだビデオなのー? DVDレコーダー買ってって言ったじゃん。今時ビデオなんて……」
「ばーか。もう何十年もしたらプレミアが付くからいいんだよ。それにまだビデオだって使えるんだぞ」
「自分が操作出来ないだけじゃん」
「ああ。俺の目の黒いうちは何とかレコーダーなんて訳のわからんもんは家の敷居を跨がせねぇぞ」
「――自分が機械に弱いだけじゃん」
 それでも、南次郎はビデオは何とか使えるらしい。録画自体はいつも妻の倫子に任せているようであるが。
「――それだからスマホも使えないんだよ、アンタは」
 リョーマは呆れてはぁ、と溜息を吐いた。
「ぐっ……」
 テニスでは天才と呼ばれたサムライ南次郎も、息子にかかっては形無しである。
「ま、いいや。ビデオ観せてよ」
「おう、勝手に観ろ」
 そう言って南次郎は縁側へ向かう。その前に振り向きざまに、
「母さんが和食作ったぞ。ビデオはその後にしたらどうだ?」
 と、伝えてくれた。何だかんだ言っていい父親である。母親にも恵まれた。
(いつか跡部さんを招待したい。そして言うんだ、これが俺の家族だって。従姉妹のお姉さん、菜々子さんのことも――)
 まるで、『俺、この人と結婚します』と宣言するみたいなシチュエーションを思い浮かべ、リョーマはかっと頬が熱くなった。
 ビデオでは自分とケイが軽やかに舞っていた。ケイのダンスは上手い。リョーも初めのうちからそれなりだったが、どんどん上手くなってきたと言われる。リョーマは運動神経が鋭いのだ。
 けれど、リョーマはケイの動きに釘付けになっていた。時々見える腹チラにも――。

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2017.7.29

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