忍足クンと一匹の猫 9

 越前リョーマくんがカルピンを抱えながらやって来ました。
「コシマエ~」
 金太郎クンは今にも飛びつきそうな勢いです。
「あ」
「何や。越前。やっぱカルピンも一緒におったんやな」
「うん。おばさん達が会いたがってたから……」
「ふぅん」
 忍足クンとリョーマくんが話しているところへ、カルピンが「ほあら~」と鳴きます。金太郎クンが嬉しそうにカルピンを見ています。
「コシマエ。何なん? その狸」
「ほあら~」
「カルピン。こう見えてもヒマラヤンなんだけど」
 リョーマくんは少しムッとします。
「それにしても、今日はぞろぞろと……何かあったの?」
「あ、そうそう俺ら、アトベに会いに来たんや」
 フレンドリーに白石クンが接します。そういうところは部長なだけあって如才ないのです。
 リョーマくんは帽子のつばの間からじろじろと見ています。
「いいけど。アトベに変なこと教えないでね。エクスタシーとか」
「あ、それ、もうやってもうたわ」
 白石クンの言葉に忍足クンと謙也クンがぷっと吹き出します。
「越前クン、いつ見ても可愛いやん。後五年経ったら相手してあげてもええけど?」
「そういうことはテニスでお願いします」
 金色小春クンのお誘いをリョーマくんは丁重に断ります。
「せやな。皆いるんやからテニスでもしよか」
 白石クンが提案します。
「確か、近所にテニスコートがあったよな。道具も貸し出しているし」
 宍戸クンが言います。
「ワイは持って来とるで~。マイラケット」
「重なかったんか? 金ちゃん……」
 白石クンが呆れています。
「ワイとラケットは一心同体や~」
 金太郎クンはとびっきりの笑顔です。
「じゃ、行こうか。氷帝や四天宝寺の隠された実力も見てみたいし」
 リョーマくんはくるりと踵を返します。
「俺、アトベとカルピンの面倒見とるわ」
「え? それは俺の役目やないの?」
 忍足クンと謙也クンの間に微妙な空気が流れます。
「謙也~。アトベを懐柔しようとしたってそうはいかんで~」
「侑士こそ~。アトベとカルピン侍らせてハーレム気分味わおうたってそうは問屋がおろさへんで~」
「何言ってんの。アトベもカルピンも俺の猫だよ」
 リョーマくんが爆弾発言をするっと口にします。この子はいつもこうです。生まれついての王子様気質だから当然かもしれません。
「越前……カルピンはともかく、アトベは俺の猫や。ほれ、この話のタイトル見てみぃ。『忍足クンと一匹の猫』となっとるやないか」
「俺も忍足やで。侑士」
 謙也クンがツッコミを入れます。周知の事実ですが、一応ツッコんでおかないと気が済まないようなのです。
「まぁ、似た者同士仲良くしたらどう?」
「そうそう。仲良きことは美しき哉」
 リョーマくんの台詞に白石クンがうんうんと頷きます。
「越前も尤もなこと言うな」
 宍戸クンもリョーマくんに賛成みたいです。鳳クンがちょっと迷って宍戸クンに近寄ります。
「あの……言いにくいことなんですが……」
「何だ。長太郎」
「アトベがいません」
「何やて?!」
 忍足クンの丸眼鏡がぎらりと光ります。
「金ちゃん一緒やなかったんか?」
 白石クンが金太郎クンに訊きます。
「あ! いつの間にかいなくなってたんや!」
「あのな、金ちゃん。生き物はちゃんと面倒見ないとあかんで。飽きたからって目を離しちゃいかんのや」
 白石クンが説教モードに入ります。
「でも、こんなに人がいるんだから一人くらい気付いてもいいもんじゃねぇか」
 おかっぱ頭の向日クンが言います。
「取り敢えずその辺探すで!」
 忍足クンが駆け出します。

「アトベ~。アトベ~」
「アトベ、どこや~」
 こうなったらテニスどころではありません。忍足クン達は必死でアトベを探します。
「どうしたんだC~。皆」
 芥川慈郎クンが話しかけます。彼の腕の中には氷帝ジャージを着た猫アトベの姿がありました。
「アトベ! どこ行っとったんや!」
「何か、夕陽に向かってくさむらでたそがれてたC~」
「そうか。取り敢えず良かった。おおきに。ジロー」
 カルピンがアトベの頬を前肢でツンツンします。
「お宝ショットや~」
「可愛いですね! 忍足さん!」
「アンタら……それどころじゃないでしょ」
 忍足クンと鳳クンに、今度はリョーマくんが指摘します。
「猫さらいに会わなかったかな。アトベ可愛いから」
 リョーマくんはリョーマくんなりにアトベの心配をしていたようです。
「アトベ、有名やから、連れ去られても文句言えなかったところやで」
「そういう金色さんもアトベから目を離してたでしょうが。IQ200はどうしたんですか」
「そうやね。越前クンの言う通りやわ。アトベに何かあったらIQなんて全然役に立たへんわぁ。……悪かったわぁ。侑士クン」
「いや、なになに。アトベも無事に戻ってきたことだし。もう目を離さんとこ思ったのに、また見失った俺も悪いんや」
「ところで侑士、買い物は?」
「そうや。忘れとったわ」
「――クソクソ侑士。このぼんくら」
 向日クンは可愛いけれど、口は悪いのです。
「ほな、今から材料揃えてホームパーティーと行くか。越前、自分も来るか?」
「いいの? 忍足さん」
「ええで。――でも、皆でテニスも捨てがたいなぁ」
「じゃあ、パーティーの後、腹ごなしにテニスってのはどうですか?」
「それええな。鳳」
 鳳クンのアイディアに忍足クンが賛成します。
「俺らはチェックインの時間があるんで、ホテルに戻るで。テニスはまた今度や」
「白石、お前、言い出しっぺのくせに……それにしても、お前らホテルに泊まるんか。謙也はどうなんや?」
「この人達をほっとく訳にはいかんやろ」
「ちゅうことは、四天宝寺のメンバーと同じホテルやね」
「まぁ、そうや」
「残念やなぁ。謙也。ごっつ旨いごちそう食わせよ思とったのに」
「ぐ……」
 忍足クンのにやり笑いに謙也クンが悔しそうに唸りました。ジローくんが「元気出C~」と謙也クンの肩を叩きながら言いました。

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2018.01.08

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