忍足クンと一匹の猫 29

忍足クンと一匹の猫 29

「いよいよやでぇ……」
 忍足クンがテレビのリモコンでチャンネルを変えます。アトベはちょこんと忍足クンの膝に座っています。
 軽快な音楽が流れてきました。
「わっ、出たっ!」
 何が出たか――テレビの画面にアトベが出てきたのであります。
「わー、アトベや、アトベや。かわええなぁ」
「にゃーん」
「でも、本物には敵わんなぁ」
 アトベもテレビの中の自分を見つめているようです。
「早速越前に連絡せな」
 忍足クンはスマホを取り出してリョーマくんにLINEで連絡を取ります。
『越前、アトベのCM見たか?』
『見たよ』
『可愛かったやろ』
『そうっスね。ますますアトベが欲しくなりました』
『何度も言っとるけど、アトベは誰にもやらん』
『跡部さんにも?』
 この跡部さんと言うのは、人間の跡部景吾クンのことで、アトベの名前の由来になった人物です。
『跡部にもや!』
『ふーん。まぁ、跡部さんはあまりアトベのこと欲しがってはいないようだけどね』
『そうやな』
 こんなにかわええのになぁ――忍足クンにはそれが少し疑問でした。ライバルが少ないのはいいことですが。
『ツィッターにも流そう思とるねん』
『いいんじゃない? あ、ちょっと用事』
 リョーマくんが用を足しに行ったようです。
『おい、侑士』
 今度は謙也クンからです。
『見たで。CM』
『おー、謙也も見てくれたか。どや。アトベ、可愛かったやろ』
『おん。よく映ってたやん』
『まぁ、本物には敵わんけどな』
『ええなぁ、アトベと一緒にいられるなんてなぁ。羨ましいで』
『せやろせやろ』
 忍足クンは謙也クンと猫トークで花が咲きます。
「侑士」
 忍足クンのお母さんが呼びます。
「何や。おかん」
「料理中やったからアトベくんのCM見損ねたわぁ。どう? ビデオに撮った?」
「バッチリやで!」
 忍足クンはお母さんに親指を立てて見せます。
「そうやったらええんやけど……後でうちにも見せてや」
「わかったで」
「ほな、まだ作業の途中やから、一旦戻るさかい」
 鼻歌を歌いながら、忍足クンのお母さんは戻って行きました。謙也クンも宿題をすると言ってLINEを切りました。
「にゃあん」
「CM、おかんもきっと気に入るで。良かったな。アトベ」
「にゃん」
 アトベが鳴くと、忍足クンは欲求に駆られアトベを撫でくり回し始めました。アトベもゴロゴロ喉を鳴らします。
「あのCMの自動車も売れるな。アトベのおかげで」
「にゃーん」
「おっ、そうだ。ツイッターに流したろ」
 すると――。いろいろな人達からメッセージが来ました。中等部のテニス部からもです。他校からも来ています。
『観たぜー、アトベ。可愛いじゃん。俺もまた今度会ってみてぇ』
『跡部より性格が良さそうだな』
 これは立海の丸井とジャッカルの二人。
(跡部より性格がいい――ジャッカルも結構言うねんなぁ)
 忍足クンが小さく吹き出しました。
『この頃忙しかったんだけど、また遊びに行ってもいいかな?』
 これは幸村クン。
『俺もアトベが欲しい。テニスで決着をつけないか?』
 誰かさんと同じことを言っている真田クンです。
『ええけど――山吹中の亜久津も同じようなこと言っとったで。ま、俺が勝ったけどな』
『そうか――気持ちはわかる。でも、俺は負けん』
『わかった。でも、アトベのことは譲れんからな』
 そう文章を打って、忍足クンは微笑みました。
『アトベ……今度こそ俺が手に入れる!』
 噂をすれば。山吹中の亜久津仁クンです。
『おう、やってみな』
 忍足クンも挑発します。
「あ、せや。カルピンもキャットフードのCMにアトベと出ること教えとこ」
 忍足クンがそのニュースを伝えると――。
 ますますツイッターが過熱しました。
『絶対観ます!』
『アトベもカルピンも大好き! これってボクに対するご褒美?』
『永久保存版だな』
 氷帝からもいろいろな人からツィートが届きました。
『アトベ、なかなかテレビ映りいいじゃねぇの。あーん?』
 この文は我らが跡部クンです。
「何言うてんねん。カメラ映りがええのは勿論やけど、実物には敵わんて。なー、アトベ」
「にゃんにゃん」
 宍戸クンや鳳クン、向日クンからも続々とツイートが届きます。
(まぁ、こいつらは後でLINEでも話が出来るからな――)
 それでも律儀に返信します。
 榊太郎先生からも、
『なかなかいいCMだった。私もあの自動車を買いたくなったよ』
 との社交辞令的な書き込みがありました。
 榊先生には軽自動車は似合いません。彼に似合う自動車と言えば、やはりロールスロイスでしょうか。ジャガーも持っていると聞いたことがあります。
(あの先生――ほんまに一体何者なんや)
 榊先生はとてもダンディーな43歳です。しかも、とてもお金持ちであるらしいのです。氷帝学園では音楽教師をしているのですが、それも仮の姿では――と密かに生徒達の間で噂になっています。
『おまえら、よく聞け! 今年もクリスマスパーティー我が家でやるぞ!』
 ――話が前後しますが、跡部クンからのツイートでパーティーの予定が告知されました。
「そうか。もうそんな季節になったんやなぁ……」
 忍足クンは胸がいっぱいになりました。
 親切な仲間、手強いライバル、近所の猫仲間――今年はいろいろな人や猫と会えた年でした。
『因みに動物も歓迎だ。躾けられてさえいればな』
 ――暗にアトベとカルピンも来いということなのでしょう。
「跡部ん家のパーティー、行くか? アトベ」
「にゃおん?」
「きっと楽しいで。一緒に行こうなぁ、アトベ。ご馳走いっぱい出るからな」
 その台詞の意味は解したらしく、アトベは「了解」とでも言うように忍足クンの大きな手に頭を擦り付けました。

次へ→

2018.07.27

BACK/HOME