忍足クンと一匹の猫 30

「ようこそ! 跡部家のパーティーへ!」
「ふーん……相変わらずだね。跡部さん」
「あーん? 何が相変わらずだってんだ? リョーマ」
「派手好きってこと。恥ずかしくないんスか?」
 そう言いながらもリョーマくんはきょろきょろ辺りを見回します。フロントには大きなツリーが飾ってあります。
「来いよ。カルピン。リョーマ、てめぇは帰れ!」
「わぁっ、嘘っス嘘っス」
 慌てるふりをするリョーマくんに対して忍足クンがにやりと笑います。
「跡部は気に入っとるヤツには攻撃的なジョークを放つなぁ」
 被害者になることが多い忍足クンにはそれがよおくよおく身に沁みています。
「やぁ、カルピンくん」
「む……アトベは忍足と一緒か」
 幸村精市クンと真田弦一郎クンです。
「俺は無視なの?」
「いやいや、よく来たねボウヤ」
 幸村クンが帽子を被ったリョーマくんの頭を撫でます。そして――
「はいこれ」
 プレゼントの箱をリョーマくんに渡します。
「HAPPY BIRTHDAY FOR YOU」
 つまり、今日が越前リョーマくんの誕生日という訳です。
「……爆弾とか入ってるんじゃないでしょうね」
「そんなことはしないよ。テロリストじゃないもの」
「アンタならやりかねないっす。人をイップスにするし」
「昔のことは忘れたよ」
「アトベ~、こっち来ーい」
 何だか静かな火花を散らしている幸村クンとリョーマくんとは別に、真田クンがアトベを手なずけようとします。
「にゃおん」
 アトベも真田クンは嫌いではなさそうです。
「何じゃアトベか。真田副武将が随分ご執心の」
「副部長だ!」
 真田クンが仁王雅治クンの冗談に怒ります。真面目が取り柄の真田クンですが、生真面目過ぎるのが玉に瑕です。
「真田副武将……ぷっ」
 切原赤也クンが吹き出します。冗談だとはわかっていても。後で真田クンの怖い仕返しが待っているとしても。……まぁ、怖いと言っても幸村クンの百分の一くらいでしょうが。
「赤也~。もう英語の面倒は見ないぞ」
「副部長だって英語はそう得意じゃないって言ってたじゃないスか~」
「お前よりはマシだ」
「……ちぇ」
 仁王クンは我関せずと鶏肉の脚を齧っています。
「アトベ、これやるぜよ」
「にゃ?」
 仁王クンがあげたのは鶏肉の骨です。
「仁王君! 鶏肉の骨なんて勝手にあげちゃダメでしょう!」
 自称紳士の柳生比呂士クンが注意します。因みに自称詐欺師というのが仁王クンです。二人は立海のダブルスでペアを組んでいて、二人の通った後には草木も生えぬ、と言われる程有名です。
 まぁ、それはそれとして――。
「何じゃ柳生。猫なんてねずみやら雀やら頭からバリバリじゃろ。ん? どうした?」
「気分が……」
 柳生クンが口元を押さえています。
 アトベはとことこと歩いています。カルピンも一緒です。
「おー、アトベ。カルピンも一緒やな」
 四天宝寺の白石クンが言いました。
「イェーイ! ご馳走いっぱいやー!」
 遠山金太郎クンが走り回っています。
「何や、あそこ、騒々しいやんなぁ……」
 忍足クンが呆れています。
「あー、コシマエや! テニスやろ、テニス!」
 金太郎クンの誘いに、「やだ」と、リョーマくんが断ります。
「えー? 何で何で?」
「ただいま食事中」
「いいじゃねぇか。食べたらやってみたらいい。幸い俺様の家には立派なテニスコートがあるからな」
 跡部クンが口を挟みます。
「うん。食べた後ならいいけどね」
「わーい! コシマエと試合やー!」
 喜んで跳び上がっている金太郎クンの傍でリョーマくんはミートローフを食べています。
「これも美味しいね」
「当たり前だろ。あーん? 我が家のシェフ達が直々に腕を振るってるからな」
 跡部クンが自慢します。手塚クンも傍でもぐもぐと口を動かしてます。不二クンも一緒です。
 ――海堂クンがアトベに手を出してちっちっと呼び寄せます。アトベは海堂クンも好きなので擦り寄っていきます。
「ああ~。アトベ~。海堂なんかに浮気するんやないで~」
「うるせぇぞ、忍足……」
「俺も忍足なんやがな……」
 侑士クンと謙也クンの忍足コンビがアトベを覗き込みます。
「あらん、ユウくん。ほのぼのしい光景やん。ロックオン」
「任せとき!」
 一氏ユウジくんがカメラのシャッターを押します。一氏クンは小春クンのダブルスのパートナーなのです。別名ホモップルとも呼ばれています。因みに一氏クンはなかなかの美形です。
「次はカルピンやで~」
「おう、ほな行くで! 小春!」
「……跡部さん、あの人達も呼んだんですか?」
 リョーマくんが言います。
「そうだ。賑やかでいいだろ」
「……賑やか過ぎるっス」
「跡部君。我々も来てあげましたよ」
 そう言ったのは沖縄の比嘉中の元テニス部部長、木手永四郎クンです。今日もまた特徴のある眼鏡をかけています。沖縄からわざわざ飛んで来たのでしょうか。だとすると随分律儀な話です。
 木手クンはその髪型から、不良と間違われることも多いのですが、本当は色物揃いを束ねるだけあってしっかりした性格なのです。――そうは見えませんが。
「甲斐さんや平古場さんもいるんスね」
「そうですよ、越前君」
「じゃあ、あそこでご馳走漁ってるのは田仁志さんですね」
 田仁志さんはご馳走をもりもり食べています。
「今日は学校でゴーヤパーティーを開こうと思ってたのに……平古場君や甲斐君が一生懸命反対するから……」
「あの二人ってゴーヤ嫌いでしたもんね」
「リョーマくん……」
 竜崎桜乃ちゃんがカルピンを抱えてやってきました。
「では、邪魔者は退散することにしますか」
「そうだな、木手」
「ちょっ、木手さん、跡部さん!」
「あのね、リョーマくん。堀尾君も来てるよ」
「わかってるよ。あそこで陽気に踊っているヤツのことだろう? 竜崎……」
「あ、あのね……朋ちゃんに習って猫ちゃん用のケーキ作ってみたの。アトベくんとカルピンくんの……あそこに置いてあるけど」
 桜乃ちゃんの言葉に、リョーマくんは帽子のつばをいじりながら、わかってんじゃん、と呟きました。
「美味しい物が揃ってるねぇ。酒もいいのがあるし。――おお、古酒もあるじゃないかい」
 そう言っているのは、青学の女傑、竜崎スミレ先生です。リョーマくんは将来孫の桜乃ちゃんもああなるのかと思い、人生を誤りかけるところだったことを知らしめてくれたスミレ先生に改めて感謝したようです。

後書き
小説版『忍足クンと一匹の猫』シリーズは一応これで終わりです。続きも書けそうな気がするんだけど……キリがいいかと思って。
比嘉中の方々も沖縄から友情出演してもらいました。
この話は、跡部様に差し上げます。後、猫アトベにも。それから、アトベのモデルになってくれた、うちのフクたんに感謝を!
2018.08.06

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