忍足クンと一匹の猫 27

「おっつー☆ おチビ」
「菊丸先輩!」
 菊丸クンはリョーマくんのことをおチビと呼んでいます。
「俺の方こそカルピン預けたまんまでごめん」
「いーよいーよ。俺、カルピン大好きだもん」
「ほあら~」
 カルピンがご主人様のリョーマくんを見つけて鳴きます。菊丸クンがリョーマくんにカルピンを渡します。流石のカルピンもリョーマくんには懐いているようです。
「役得だったね。英二」
 不二クンがニコニコしながら菊丸クンに向かって言います。
「結局海堂は来なかったな」
 忍足クンは海堂クンのことはどうでもいいと思っていたのですが。――それでも、来ないとなると少し気になるのでした。
「いいんじゃねぇの? あいつもそのうちこのCM観るだろうし」
「せやな、跡部」
「ところで、いつから流れるの?」
「来月から流れるって聞いたけど」
 菊丸クンの問いにリョーマくんが答えます。
「わお! 絶対観なきゃね!」
「勿論っスよ!」
「あ、カルピンくんだ」
 メガホンを持った男の人がこっちへやって来ます。
「次回はカルピンくんにも出演してもらおうかな」
「OKっスよ」
 リョーマくんが笑顔で言います。
「ほあら~」
 カルピンも満更でもなさそうです。
「じゃ、後でね」
 男の人は現場に帰って行きました。カルピンも人気者なので、いつの間にかスマホ持った人達が近くに屯しています。子供だけでなく、大人まで混じっています。
「ふぅ……この頃の猫ブームはすごいもんがあんのやなぁ……」
 忍足クンが驚いています。
「アトベも人気者だしね」
 リョーマくんが頷きます。
「後で二匹共演のCMの話が出たりしてな」
「もう出てますよ」
「そうか……アトベとカルピン……うわぁ、可愛いやろなぁ。鼻血が出そうや」
「忍足さん……さっさと離れてください。変態が移りますから」
「酷ッ!」
「いーや。リョーマの言う通りだ。お前、ロリコンなだけじゃなかったんだな」
「ジョークやでジョーク。越前も跡部も冗談通じひんからな。全く……」
「お前のその冗談は冗談に聞こえない」
「景ちゃん……そこまで言う……」
「はっきり言ってここは跡部さんの言う通りだと」
 リョーマくんが跡部クンに同意します。菊丸クンの隣にいた不二クンがくすっと笑いました。
「――はぁ、すっかり変態にされてもうたわ。俺……」
 忍足クンがしょぼんと肩を落とします。
 綺麗な花がいっぱいのこの公園からも秋の気配が感じられます。けれども、アトベやカルピンの周りは熱気にあふれています。
「ねぇ、おにいちゃん」
 五歳くらいの男の子がリョーマくんのズボンの裾を引っ張ります。
「かるぴん、なでさせて」
「いいよ。ほら」
 男の子が目をきらきらさせます。
「わ~。モフモフ~」
「ほあら~」
 カルピンも気持ち良さそうです。スマホでその光景を収めている人もいます。
「ほら、アトベくん。ご主人様だよ」
 CMの監督が忍足クンのところまで運んできました。
「えろうすんませんなぁ」
「いやいや。なになに。アトベくんのおかげで車の売り上げは倍増することでしょう」
「そう言われると……」
 何となく得意げになってしまう忍足クンでありました。

 ――その後、アトベくんのところにはいろいろなオファーが来ました。忍足クンも忙しいと言って断ったところもあります。
「ふぅ……あんまり仕事引き受けるとアトベが疲れてしまうからなぁ」
「にゃーん」
「でも、カルピンも一緒の仕事はええやろ? アトベ」
「にゃん」
「越前もなぁ……アトベを狙うとるところを除けばええヤツなんやけどなぁ……」
「にゃう?」
「ああっ! アトベ! お前は俺の嫁や! 誰にも渡さん!」
 忍足クンが跡部に頬ずりをします。
「にゃ、にゃ」
 アトベがちょっと苦しそうにしています。
 ――電話が鳴りました。
「あ、アトべ。ちょっと待っててくれるか?」
「にゃーん」
 解放されたアトベはちょっとほっとしたようでした。
 忍足クンが受話器を取ります。相手はリョーマくんです。
『何や、越前』
「アトベ、元気?」
「ああ、元気や」
『忘れてないよね。来週のCM撮影』
「おん。忘れる訳ないやろ」
『アトベに会えるの楽しみだな。忍足さんは来なくてもいいけど』
「何やそれ」
 来なくてもいい――それがリョーマの軽口であることはわかっているのですが。忍足クンは微かに笑いました。
「俺も越前はどうでもええけどな」
『話は変わるけどさ、忍足さん』
「何や」
『忍足さんは人間の方の跡部さんも好きなんでしょ?』
「その通りや」
 リョーマくんに隠し立てしても仕様がないし、周知の事実の事実なので忍足クンは素直に認めました。
 忍足クンは跡部クンの姿を思い描きました。
 しなやかな肢体。適度に筋肉のついた長い脚。太陽が照り付ける場所でも日焼けすることのない白い肌。さらさらの綺麗な色の髪。
『――さん、忍足さん、もしもし?』
「ああ、何や」
『今、やらしいこと考えてたでしょ』
「やらしいとは何や。やらしいとは。――今、跡部の姿が脳裏をよぎったんや」
『やっぱりやらしいこと考えてた』
「やらしくない! ちゃんと服は着とったで」
 リョーマくんはふふっと笑いました。そしてこう言いました。
『まぁ、忍足さんの気持ち、わからないでもないっス』

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2018.07.09

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