忍足クンと一匹の猫 12

 忍足クンがパーティーの準備をしています。アトベが何だかそわそわしています。何か起こるのがわかっているのでしょうか。
「お、アトベ。元気やなぁ」
「にゃあうん」
 忍足クンがアトベを撫でてあげます。アトベが目をつぶります。
「人間の方の跡部もこんだけ可愛かったらええのになぁ」
 その人間の方の跡部――景吾クンがやって来ました。
「おお、跡部。越前とカルピンも一緒か」
 越前リョーマくんの飼っているヒマラヤンが「ほあら~」と鳴きます。
「ミカエルに車で送ってもらった」
「ありがとう。跡部さん。ミカエルさんに宜しく伝えてくださいね」
「おう」
「わざわざ越前迎えに行ったんか? 跡部」
「まぁな」
 跡部クンは口は悪いけど本当は優しいのです。
「にゃーんにゃーん」
「ほあら~」
 アトベとカルピンの二匹がじゃれつきます。
「ははは、またお宝ショットが増えそうやなぁ」
 幸村クンと真田クンもやって来ました。
「やぁ。今日はよんでくれてありがとう」
「世話になる――ぬぉっ!」
 真田クンは一眼レフカメラを構えます。幸村クンはデジタルカメラです。
「アトベ、こっち向かんか!」
「狡いよ、真田!」
 立海のリーダー格二人の姿に忍足クンは苦笑しています。
「あ~、俺もカメラ持ってくれば良かったぁ。仕方がない。スマホで我慢するか」
 リョーマくんがスマホを操作しています。
「最近のスマホはカメラ機能も凝ってるからな。俺様も驚くことがしばしばだぜ」
 跡部クンが独白します。
「アトベの写真は昨日俺様がいっぱい撮ったから、越前にもやるか?」
「ありがとうございます! それから、俺のことはリョーマでいいっス」
「わかったよ、越前」
「もうっ!」
 跡部クンとリョーマくんのやり取りに、皆笑い出しました。
「越前も跡部と仲良くなって良かったね、真田」
「そんなことはどうでもいい! むぅ……このアングルではまだ撮ったことがなかったな……」
「今日はお袋も手伝って旨いもんぎょうさん作ったからな。アトベとカルピンにはおからクッキーや」
「にゃ~ん」
「ほあら~」
 忍足クンの言葉に、アトベとカルピンが嬉しそうに鳴き始めました。――トントントン。ノックの音がしました。
「侑士、入っていい?」
「おかんや――どうぞ」
「クランベリージュース持って来たんやけど。皆さん飲みます?」
 独特のイントネーションで忍足クンのお母さんが言います。
「いただきます」
「うむ、いただこう」
「クランベリージュースは俺の大好物だ。おばさん、覚えていてくれてありがとう」
「ありがとうございます。忍足さんのおばさん」
 幸村クン、真田クン、跡部クン、リョーマくんが順番に忍足クンのお母さんに礼を言います。
「おやまぁ、イケメンが勢揃いやねぇ」
「おかん。下らんこと言うなや」
 忍足クンがぶすっとしています。
「まぁまぁ。何やねこの子は……小さい頃は可愛かったんやけどねぇ……」
「おかん……余計なこと言うなや」
「おばさん、相変わらずですね」
「景吾クンはええ男に育ったねぇ。侑士と違って」
「おかん。やいやい言うなや。――どうせ俺はおかん好みのええ男とちゃう」
「あらまぁ、拗ねてるよ。この子は」
「おかん!」
 リョーマくんが忍足親子のやり取りを聞いて、ぷっ、と吹き出しました。
「笑うなや。越前」
「だって、面白いんだもん」
「笑い取れて嬉しいわぁ。大阪人は怒ってても笑いが取れるとたちまち機嫌が良くなるものなんよ」
「俺はまだ許さへんで」
「侑士の器が小さいからやろ」
「何やて?!」
 気色ばむ忍足クンを放っておいて、忍足クンのお母さんが来客達に向かって挨拶をします。
「皆さん、不肖の息子ですが、宜しくお願いしますわぁ」
「いえいえ。おばさん。俺達皆、侑士くんにはお世話になってますよ」
「誰が『侑士くん』や。おい、跡部。おかんにばかり気を遣うなや」
「そうそう。こんな息子、『侑士』で充分やさかい」
「岳人は『侑士』って呼んでますよ」
「岳人くん、この前もいらしたようやね。用があったさかい会うてへんけど。あの子も可愛いんやけどねぇ、会えなくて残念やったわぁ」
「おかんがいなくて良かったわ。収集つかなくなるし」
「ま、憎まれ口が上手になったわぁ、侑士ったら。もう行くで」
「俺らのことはほっといてんか」
「もう、本当にこの子は……悪かったわぁ。邪魔はしないから。ごゆっくり」
 忍足クンのお母さんが扉を閉めた。
「ふふっ、忍足のお母さんも面白い人だね」
 幸村クンが笑います。
「ねぇ、真田」
 真田クンは撮影に夢中で気付いていないようです。「全くもう……」と幸村クンも流石に呆れて溜息を吐きます。
「にゃん」
「ほあら~」
「アトベの氷帝ジャージかっこいいね。俺も青学ジャージ作ってカルピンに着せてみようかな」
 リョーマくんが言います。
「氷帝ジャージは俺が作ったもんや」
「へぇ……器用なんですね」
 リョーマくんは素直に感心しています。
「越前はジャージ作れるんか?」
「……無理っス。お袋はそう言うの作るの好きみたいだけど」
「でも、青学ジャージを作るのも手間かかるんやで。越前は自分のおかんにそんな苦労かけさせたいか?」
「うっ……そう来たか……」
 忍足クンは本当は母親思いのいい子なのです。リョーマくんにもそれが伝わったようです。
「じゃ、いつか自分で作ってみせますよ。裁縫苦手だけど」
「俺が作ってやろうか? 勿論、料金はしっかり取るで」
「いいっス。忍足さんに頼んだら、高い金取られそうっスから」
「俺様が用意してやるか?」
「跡部さんも別にいいっスよ。将来、跡部さんと結婚した時、洋服作りのスキルを上げておきたいんで」
 幸村クンは笑いながら、「ボウヤは跡部と結婚するつもりなのかい? 今から祝福してあげるよ」と冗談をのたまいます。忍足クンはライバルが出来たのが気に入らないので舌打ちをしました。

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2018.02.07

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