俺様嫌われ中 6

「何で自分、こんなところおるんや」
「えー。いいでしょ? 跡部さんの部屋広いんだから」
 俺様の部屋で忍足と越前が言い合っていた。……うるせぇ。
「お前ら、少し黙れ。追い出すぞ」
「嫌やなぁ、跡部……ただのじゃれ合いやないの」
 忍足が反論する。
「ま、ちょっと八束のこと改めてもう一回調べ直そう思ってな」
「八束のデータなら俺様も持ってる」
「そりゃそうやろけどなぁ……一応復習っての? そういうことしとかんと」
「俺、八束ってヤツのこと全然知らないから」
「まぁ、越前がそう言うなら」
「ほな決まったな」
 忍足はスマホを取り出した。
「八束正則――八束忠則の次男。――八束忠則ちゅーのは八束グループの会長だな」
「八束グループは我が跡部グループの傘下に入ってる」
 俺様が言った。ちょっと得意げな響きが混じったような気が自分でもした。
「続けるで。――八束忠則は勤勉で真面目。そういうヤツの息子ほどグレたりするもんなんや」
「そうなの?」
「おい、越前、こいつの言うことは信じるな」
「心外やなぁ」
 忍足は眉を寄せた。
「なぁ、跡部。俺なぁ、実は八束に会うたことあるねん」
「親父の方か?」
「何でやねん。息子の方や。その時はえろう退屈なヤツとしか思えへんかったけどなぁ……まさか跡部陥れるなんておもろいこと考えてたなんてなぁ……もしそれがわかってたらもっと仲良くしとくんやったわ」
「お前……この状況面白がってんのか?」
「冗談に決まってるやん、嫌やなぁ」
 忍足が長い青みがかった髪を掻き上げた。丸眼鏡の奥の目は俺様とはどこか別の方向を向いている。
「八束のヤローは相手に植え付ける自分のイメージを自在に操れるヤツなんだ」
「……心理的カメレオンやな」
「そうだな。役者になったら成功するかもわからん」
「役者……?」
 越前が反応した。
「……田代みたいなヤツ?」
「ああ。田代ノブ子か」
「ちょっと違う気もするねん。ニュースや友達の話から分析するに、田代には『これが私よ!』という核みたいなモンがあるような気がするんや。俺は田代には会うたことあらへんけどな」
「今回は田代よりも厄介な相手だと思うぞ。自分のないヤツって言うのは――怖いからな」
「そんなヤツがどうして跡部さんを陥れようと思うの」
 越前が訊いた。
「……わからん」
 だって、俺様こんなに嫌われたことねぇもんな。好かれたことはあっても。
 勿論、俺様を嫌いなヤツらは相当数いるということも知っていた。――あいつら、今喜んでいるんだろうな。くそっ。
「俺だってわからんわい。きっと愉快犯とちゃうの?」
「――かもな」
「それって、跡部さん酷い目に合わせて面白がってるの?」
「――と、ちゃうかなぁ……」
「そんなの……ないよ……」
 越前がズボンの裾をギュッと握った。
 越前、お前――俺様の為に悲しんでくれているのか?
「いいよ、越前」
 俺の為にお前が心を動かした。それだけで俺様は嬉しい。――そんなこと恥ずかしくて言えねぇけど。その代わりに俺は越前の肩を抱く。
「すみません、跡部さん……跡部さんの方が辛いのに……俺、しっかりしなきゃ」
 越前が殊勝なことを言う。やっぱこいつ、可愛いところもあんじゃねーの。
「いいってことよ」
「跡部……」
 忍足が眼鏡を直した。
「おう。忍足もわざわざ悪かったな」
「跡部、その……クラスメートなどのヤツらの暴力のことは親には話したんか?」
「まだだ。俺様の両親は今アメリカに飛んでるからな。――それに、仕事の邪魔はしたくない。でも、弁護士には話を通じてある」
「せやろな」
「そいつはまだ動く段階ではないと言っていた」
「その弁護士、信用できるんか?」
「俺の叔父なんだ」
 俺様はにやりと笑った。
「俺様のことは小さい時から知ってる。――弱味を握られてるって言ってもいいけどな」
「はぁん。跡部家って嫌なヤツらばっかやなぁ……」
「すねんなよ。面白いヤツだぜ。透叔父さんは。一見遊び人だけどな。叔父さんに会ったら、お前らの弁護士観変わるぜ」
「ふぅん……跡部さんに似てる?」
 と、越前。
「顔は似てると言われたことあるな……明日来るっていう話だったけど」
「会ってみたいな」
「せやな」
「じゃあ、お前らここに泊まるか? 部屋は用意できるから」
「ほんま?!」
「いいの?!」
 忍足と越前が殆ど同時に喋った。
「お前ら家に連絡して来い。俺はミカエルに部屋を準備してもらう。――宍戸達も泊めてやってもいいなぁ。あいつらにも訊いとくか」
「わかった。俺、スマホあるから――もしもし、母さん? 今ね、跡部さんの家にいるんだけど――」
 越前の声が聞こえる。
 俺様がこいつを泊めるのには訳がある。そりゃ、大した訳じゃねぇし、バレたら笑われるかもしれねぇから言わねぇけど――。
 俺様は不安なのだった。
 周りが敵ばかり――という環境で、気が張っていたのに違いない。ほんの少し味方に優しくしたって、バチは当たらんだろう。
 俺様はミカエルと室内電話で話した。
『坊ちゃま――いいお友達がいてよろしゅうございましたね』
 と、涙ながらに言われた時には「はて?」と思ったが。
 他のヤツらはともかく、忍足はいい友達か?
 それに越前。こいつと会ってからそんなに日は経っていない――と思う。俺がつらつら考えていると――。
「あとべ~」
 ジローが来た。
「ジロー……ノックぐらいしろ」
「ノック~? 野球の~?」
「お前、それわざとだろ」
「あ、わかった~? 覚えたから使いたかったんだよね~」
 こいつはいつでもこんな調子だ。雰囲気が緩い。でも、それが俺様の癒しになっている。
「ふぁ~、眠い。おやすみなさ~い」
 ジローは羊の枕を抱えたまま俺様のベッドに寝やがった!
「おい! ジロー、俺様のベッドで寝るな! 部屋を割り振ってやるからそこで寝ろ!」
「羨ましいなぁ……あの天真爛漫な性格」
「ですね。跡部さんのベッドに堂々と寝られるなんて」
 忍足と越前が何か寝言いってたが無視してやった。ジローは結局そこで寝ることになった。――ったく、樺地でさえ最近は俺様と一緒に寝てないと言うのに……。
 朝になったら起こしてやるからな、ジロー。ジロちゃんなら問題は起こさんやろ。そう言って忍足は自分に割り振られた部屋へとメイドに案内されて行った。その後に越前も。

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2016.10.8

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