俺様嫌われ中 21

「ほら、芥川先輩、肉汁こぼさないでください!」
「日吉……お母さんみたいだCー」
「日吉様、ここは我々に任せてください」
「でも……」
 日吉は使用人にまで気を遣う。日吉は真面目過ぎて貧乏くじを引くタイプだ。でも、そんな堅苦しさ、嫌いじゃねぇ。
「やるねー」
 滝萩之介が言った。宍戸に負けてレギュラー落ちした男だ。この件に関しては俺様も思うところがなくもない。
「でもいいのー? レギュラー落ちした俺をこんなところに呼んでー」
 そら来た。
「皆でバーべキューやろうという時にレギュラーかどうかなんて関係ないだろ。もしレギュラーに戻りたきゃ死んでも這い上がれ」
「相変わらずだねー。でも、ありがと」
 滝がふわっと微笑んでくれた。
「俺も……試合ではのしたがお前が嫌いになった訳じゃねぇ」
 宍戸が言った。
 ふぅん。滝にも味方はいるんだな。良かったな、滝。
「ああ、もう負けない」
「俺だって負けねぇぜ!」
 宍戸と滝ががしっと握手を交わした。男の友情だぜ。
「樺地、俺達もやろう」
「――ウ?」
「何や跡部。何かやるんか」
 疑問形の忍足をほっといて、俺様は樺地に手を差し出した。樺地は俺の言わんとしていることがわかったらしい。樺地が俺の手を取った。
 夕陽が真っ赤に染まって――ってなると完璧なスポ根だが、もう秋の日は短い。でも、俺様には樺地の姿が見える。樺地の手は大きくて暖かい。いつも俺様を支えてくれてる手だ。
「あとべ~。肉食っちゃうよ~」
 むっ。邪魔すんなジロー。
「勝手に食え」
 そう言いながら俺は、俺様と仲間達の素晴らしい未来を遥か遠くに見据えていた。俺様のインサイトが正しければ、こいつらはもう、俺様の生涯の仲間だ。
「食わないの? あとべ~」
 ジローが尚も言い募る。
「俺様は胸がいっぱいでそれどころじゃねぇんだよ」
「胸焼けか? 跡部」
 心配そうに忍足が聞いてくる。
「そんなんじゃねぇけどよ……」
「旨いで。この肉。流石跡部家やなぁ」
「そりゃどうも」
 手伝いと言う役目を終えた日吉がスマホを弄っている。
「どうしたー、日吉ー!」
「わっ! ……びっくりさせないでくださいよ」
「何してる」
「……跡部さんは見ない方が賢明です」
「――だな」
 俺は珍しく引き下がった。嫌なことを思い出しても仕様がない。
 これって現実逃避かねぇ……。
 ――だが、これから俺様は嫌でも現実を直視させられることになる。

 あー、楽しかったぜ。バーベキュー最高!
 ん? あれは透叔父。なんかやつれてなくね?
「透叔父さーん」
「あ……景吾か……」
 何だかいつもの覇気がない。それでも、透叔父はふっと笑う。
「バーベキュー、楽しかったか?」
「ああ!」
「学生時代の仲間は大切にしろよ」
「そうするよ。――透叔父さん、どうしたの?」
「ガキには関係ねぇ」
「――何だよ。俺はもうガキじゃねぇぜ。もう15だからね!」
「充分ガキじゃねぇか」
「何だよー」
「そう膨れるところがガキって言うんじゃねぇか」
「透叔父さんだって弁護士界ではまだまだ若手でしょう?」
「まぁ、使い走りではあるがな。これでも一応自分の事務所持ってんだぜ」
「跡部家の力で事務所建てたんでしょ?」
「まぁ……そう陰口叩いているヤツもいるがな。――お前はいいな。景吾」
「は?」
「お前といると俺は本来の自分に戻れる。――学生時代は俺もこんなだったなぁ、と思ってな。いや、お前の方がしっかりしてはいるがな。俺はいっつも悪さばっかりやってたぜ」
「知ってる。そんでさ、今もまだあんまり変わってないんじゃね?」
「言ったな、この」
 透叔父が俺の頭をこつんと叩いた。
「お前は無邪気でいいな」
「どういう意味ですか。叔父さん」
「――と。今は虐められてるんだっけ? でも、いい仲間もいるらしいし良かったじゃねぇか」
「まぁ、俺のことはな。でも――透叔父さんは疲れてるようだけど」
「――話を逸らすことはできなさそうだな」
「まぁね。俺にはインサイトがあるんでね」
「俺にもあるが――跡部一族の業はなかなか深いもんのようだな」
「かもな。俺は感謝したことしかねぇけど」
「あのな、八束のことだが……」
「八束?」
 俺様の顔はぴくっと歪んだだろう。透叔父は苦笑した。
「虐めのこと、裁判に持ってくとか?」
「いや。今回は別件だ。八束忠則、知ってんな?」
「ああ。八束正則の親父さんだろ? それがどうした?」
「一言で言えばな――あいつは『死の商人』だ。兄貴に聞いたんだが」
 何だと――?!
 死の商人とは、武器とか扱っているヤツらのことである。
「それは……」
「びっくりしたろ? 俺もだ。まさかこんなことになってたなんてな……」
 八束……済まねぇ……俺様、今まで何にも力になってやれなくて……。
 そんな親父がいたら普通はぐれるよな……。俺様の親父は一応真っ当な人間で助かったけどよ。
「俺、八束と話してみます」
「あまり深入りするんじゃねぇ……と、八束のガキが絡んでいるんじゃそうもいかねぇかな」
 そして、透叔父はまだ彼より身長の低い俺の頭を撫でた。
「ま、あんまりシケた顔すんな。八束の親父のことは俺達が何とかするから」
「うん……」
「あんまり一人で突っ走んなよ。――俺が気になっているのはどうもそこんところでな」
「どういう意味ですか」
「――俺がお前だったらって話だよ。俺がお前だったら、誰に何を言われようと、動く」
「…………」
 何だ。透叔父、わかってんじゃねぇか。やっぱり俺達、外見だけでなく気性も似ているんだな。
「じゃ、今夜はもう寝ろよ。――まぁ、こんな話聞かされて寝れる訳ねぇのは俺もよくわかってるんだがな」

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2016.11.20

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