俺様嫌われ中 19

 そして、練習試合の日――。
 今のところ氷帝と青学は2対2で引き分けている。
 勝負の鍵を握るのは――。
「跡部さん!」
 俺のライバルの越前リョーマ。そして、俺の試合。
「どっちが勝つかねー……」
「越前じゃねぇの?」
「青学、ファイオー!」
 んなろ……。でも、徐々に氷帝コールも増えていって……。
「勝つのは跡部! 負けるの越前!」
 といういつものフレーズも戻って来た。こりゃ、期待に応えなきゃ仕様がない!
「勝つのは……俺だ!」
「……ねぇ、それ、いつもやんないと気が済まないの?」
 リョーマが訊く。
「当然だろう」
「良かった……いつもの跡部さんに戻ったみたいですね。偉そうなサル山の大将に」
「ずっとツッコミたかったんだが、それを言うならお山の大将だろうが」
「どっちだって変わらないじゃないっスか」
「まぁいい。お前と漫才する気はねぇ。さっさと始めようぜ」

 思った通り、勝負はなかなかつかなかった。
 リョーマのヤツ、上手くなってやがる……。俺様も本気で力を出さねぇとな。
 怪我してるからとか、痣が擦れていてぇからとか――そんな言い訳越前リョーマには通用しない。それに――少し前までこいつも怪我人だったんだ。まだ治っていない箇所もあるかもしれない。
「ほらほら、どうしたの? サル山の大将さん!」
 ――……ちっ、容赦ねぇな。リョーマのヤツ。
「だから……お山の大将だって言ってんだろ! ――破滅への輪舞曲!」
 俺のレシーブが決まった。
 でも、だんだん俺の方が押され気味になった。
 負けるのか? 俺様は……このチビにまた?
 負けるのはいい。後で挽回してやれば済むことだからな。
 けれど、八束なんぞにおたおたして見苦しかった自分が……悔しい。
 リョーマよ。お前はまだまだ高みに昇るだろう。
 俺もあそこへ――行きたい。
 ――リョーマが『天衣無縫の極み』を発動した……。

 それからどのぐらい経っただろうか――。
「あっ!」
 俺様は転倒した。
 体中がいてぇ……。俺様の怪我も良くなりかけていると思っていたのに……。傷が熱を持つ。まるで鉛を仕込まれたようだ。
 まだなのか……? 俺様ではまだあそこにたどり着けないのか? リョーマのところに……あいつのいる、ところに……。
 俺様が弱気になりかけたその瞬間だった。
「跡部!」
 この声は――手塚?
 インサイトでわかった。手塚だ。
 そうだな。諦めるのはぶっ倒れても力が出なくなってからだ。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
 俺は立ち上がった。俺様はまだ、戦える!

 ――俺様は負けた。でも、悔いはない。後で大舞台でひっくり返してやるから見てろよ、リョーマ。
「おい、跡部のヤツ、笑ってるぜ」
 宍戸が囁く。
「勝った越前君の方が浮かない顔してますね……」
 鳳が言う。
 越前が帽子を目深に被る。――こっちに来る。
「跡部さん、俺、負けました」
「あーん? ――何言ってんだよ。お前は成長してたしそれに……ゲームでは勝ったじゃねぇか」
「そうじゃありません! まだわからないんスか! 俺は、手塚部長に負けたんです!」
 手塚……? じゃあ、あの声をお前も聴いたんだな……。
 でも、あいつは親父さんとドイツ行きの打ち合わせがあったはずじゃ……。まぁいい。
 越前は続ける。
「あそこで手塚部長の声が聴こえたから、跡部さん奮い立ったんですよね……『跡部!』の一言で。俺の言葉にそれぐらいの力があったなら……」
「何言ってんだよ、リョーマ」
 俺様はぽん、と、リョーマの帽子をラケットで軽く叩いた。
「お前の声でも充分奮起したさ。越前リョーマ」
「――子供扱いしないでくださいっス」
「まだまだ子供だよ。てめーはな。だから可能性があんじゃねぇか」
「――ウィッス」
「あれ?」
「どうした? 日吉」
 ――また宍戸の声がする。
「あのチビ助……いつもの顔に戻ったようですよ」
 チビ助とはリョーマのことだ。
「あのガキが? 単純だなぁ」
 宍戸がははは、と笑う。宍戸の傍にいた忍足が、
「笑うなや」
 と、窘める。
「どうする? もう1セットやる?」
「そうだな……」
 リョーマの誘いに俺は考えた。
「跡部。お前の体は……」
「榊先生は黙っていてください。俺はもう部活を引退した身です――もうあなたは俺の顧問じゃありません」
「くっ……」
 榊先生は言葉を失くしたらしかった。
「結構非情だな、跡部のヤツ」
「いいえ――あれでいいんです。あれこそが俺が下剋上するに相応しい、跡部景吾です」
 日吉はそう言ってくれたが、俺は宍戸の言う通り、非情なんだと思う。今回だって無理言って出場させてもらえたのに……。
「アタシは構わないよ」
 流石、青学の監督、竜崎スミレは話がわかる。
 ――と。
『氷帝! 氷帝!』
 どこからか氷帝コールが沸き起こる。
『氷帝! 氷帝!』
「今度はどこからか氷帝コールが……」
 桃城があぜんとした声で言ってやがる。勿論、客席からも氷帝コールだ。
「ムーッ。このままじゃおチビが負けちゃうかも! 青学、ファイオーッ!」
 この声は……菊丸英二だな。
 大丈夫だ。氷帝コールがある限り、俺様は何度だって立ち上がれる。
「やろうよ。跡部さん」
「ああ」
 もしかして俺様にも火が付いたかもしれねぇな――俺様はそう思いながらラケットを構えた。

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2016.11.14

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