俺様嫌われ中 18

「連れてきました、坊ちゃま」
「跡部さん!」
 リョーマが飛びついて来た。
「今日はここに寝てもいいの?」
「まぁ、仕方ねぇからな。樺地も一緒だぜ」
「わかった」
 何だこいつ。リョーマのヤツ、少々浮かれてねぇか? まぁいいけどよ。
「――ウス」
「あ、樺地さんはどこで寝るの?」
「あーん? 俺様の隣に決まってんだろ」
「じゃあ俺も跡部さんの隣りね。――ねぇ、跡部さん、今日の返事、いつか聞かせてくださいね。じゃ、お休みなさーい」
 そう言ってリョーマはすうっと寝入ってしまった。
 俺様の右には樺地。左にはリョーマ。何でどうしてこうなった?
 ――俺様はその夜、なかなか寝付けなかった。
「――樺地、起きてるか?」
「ウス」
「この頃とんだ目に合ってばかりだけど……今日は何だか嬉しいぜ……」
「ウス。跡部さんには味方が大勢います」
 そうだな。樺地にテニス部の悪友ども。そして……リョーマ。
 リョーマはあどけない顔をして眠っている。ほんと、テニスでは無敵なのにな……。頼り甲斐があるって言ってもいいもんだろうか……。
 でも、心が和むのを感じた。
「ん……」
 リョーマが寝返りを打つ。可愛いといえば可愛い……。
 何か、眠気が……襲ってきたぜ……。
 お休み、樺地……リョーマ……。いい夢見ろよ……。――それからの俺様はミカエルが起こしに来てくれるまで深く眠った。

「よぉ、景吾」
 透叔父だ。目の下に隈ができている。
 俺様といえば、あの後ばっちり眠ったし、スキンケアもしといたからな。幸い、俺様の顔にはあまり傷がついていない。俺様の美貌は世界の宝だからな。
 ミカエルに薬も塗ってもらったし俺様バッチリって感じだな。
「透叔父さん、どうしたの?」
「兄貴と一晩中話し込んでた」
 それがただの世間話でないことは俺だってわかる。
「親父と……どんな話してたの?」
「今は言うべき時期じゃねぇ」
 そうか――まぁ、大人の話に俺様が首を突っ込むのもあれだからな。
「何だかしんねぇけど、頑張れよ。透叔父さん」
 透叔父がふっと笑った。
「言われなくとも」
 リョーマがパタパタと追って来た。
「ねぇ、今のあれ、いいの?」
「あーん? 時が来たら透叔父が勝手に喋るだろ」
「――そうだね」
 優雅な朝食を楽しんだ後、俺達は家を出た。
 ――その時。
「あっとべ~」
「跡部……おはようさん」
「クソクソ跡部!」
「――よぉ」
「おはようございます」
「何で俺まで……」
 ジロー、忍足、岳人、宍戸、鳳、日吉……。
「迎えに来たよ~」
 そう言ったのはジローだ。俺様に抱き着いたジロー。リョーマの視線が突き刺さるように感じるのは気のせいか?
「俺ら、一応心配で来たんだかんな。――元気そうじゃねぇか」
 そう言ったのは宍戸。
「跡部さんが元気そうで安心しました」
 これは鳳。
「だから……俺まで来ることなかったんですよ」
 日吉は相変わらずだな。
「ねぇねぇ、写真撮らね?」
 岳人がスマホを取り出した。
「自撮りじゃ写んねぇヤツもいるだろ」
「俺が……シャッター押します」
 樺地はいつも裏方に回りたがる。シャイなんだろう。
「じゃ、宜しくな、樺地。越前も入るか?」
「うっす」
 岳人が樺地に自分のスマホを渡す。俺様は樺地にも写ってもらいたかったが、樺地は表舞台に立つのが苦手だ。俺様と正反対だ。だからこそ、俺様と樺地は上手く行くのだろう。
 ――樺地が撮った写真はスマホでもプロに引けを取らないくらいのクオリティだった。
「今度は俺が写すから、樺地も入ってミソ」
 岳人は時々変な語尾を使う。樺地は最初は遠慮していたが、結局押し切られてしまった。
「では、お言葉に甘えまして――」
 カシャッ。
「撮った写真は焼き増しして後で皆に渡すからなー」
 岳人は笑顔だった。俺様も嬉しい。渡された写真は一生大切にしようと思った。

 リョーマは青学に戻って行った。
 ――昼休み、俺様は前述の友人達と学校のカフェへ向かった。日吉も誘ったが、後から来るのだそうだ。
「今日は俺様のおごりだからな」
「わ~、うっれC~」
 ジローが嬉しそうに手を叩く。
「ほぉ……随分景気がいいいじゃないですか。跡部さん」
 げっ! やなヤツに会った。八束正則!
「八束……」
「ふん……思ったより元気じゃないですか」
「たりめーだ。おめぇらの嫌がらせに屈する俺様じゃねぇんだよ」
「ふぅん……その言葉、後で後悔しないでくださいね」
 八束のヤツ……敬語使っているところが気色悪い……。
「後悔するのはお前らの方だC~」
 ジローが俺を庇ってくれる。
「ジロー」
 俺様が制した。
「俺様は負けない。何故なら、俺様には、本当の友達がいるからだ」
「跡部……」
「――ウス」
 忍足と樺地が返事をする。
「ふふん。まぁいい。せいぜい粋がってろ」
 八束の言葉遣いが戻った。八束は高笑いをしながら取り巻きどもと一緒にそこを後にした。メニューを注文しに行ったのだろう。
「跡部、気にするな」
 ――宍戸が肩を叩く。岳人と鳳が賛同の意を示す。言われなくとも、八束ごとき気にする俺様じゃねぇぜ!

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2016.11.12

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