俺様嫌われ中 17

「ま、そりゃそうだけどよぉ……」
 え、俺、親父の前では割と猫被ってる方なんだけど……。
 まぁ、どんな言葉遣いしても俺様の本質は変わらねぇからな。俺様はきちんと使い分けできればいい訳。親父にもきっとそれがわかってるんだ。
 いい家族持って幸せだな、俺様。
 でも監視かぁ……めんどくせぇな……。学校でもあいつら――ダチどもにも守ってもらったけどよぉ……。
 俺様達は食堂に行くことになった。
 お、LINEだ。
「おい、リョーマ、樺地、先行っててくれ」
 俺はスマホの文面を見る。
『あとべ~、だいじょうぶ~?』
 これはジロー。
『何かあったらすぐに駆けつけてやっから待ってろや』
 これは忍足。他にもいろいろ。
 素早く返事を書き込むと、俺は今度こそ食堂に向かった。

 夕食が済むとリョーマと透叔父はテニスコートに向かった。
 うーん、俺もテニスしてぇな……。今日はあいつらのおかげでリンチも怪我もなかったしな。
「ウス……」
「樺地……」
「跡部さん、元気になりましたね」
「ああ、あいつらのおかげでな」
「良かったですね……」
 樺地が微笑む。俺様にさえ滅多に見せなくなった笑みだ。
 なんか……心臓がドキドキしてきたぞ。
「あ……俺、風呂入ってくるわ」
 ……俺様の意気地なし。

 でも……風呂入るっつってもまだ治ってない傷口に響くんだよな……どうしよう……。
「景吾坊ちゃま……」
 執事長のミカエルがやってきた。
「まだ、お湯は傷口に響きますよね。このミカエルがお体を拭いて差し上げます」
 ミカエルにはお見通しって訳か。――俺様は答えた。
「ああ、頼む」
 ミカエルの拭き方は柔らかく、俺は特に痛みを感じることはなかった。ついでに薬も塗ってもらった。
「ありがとう、ミカエル」
「いえいえ。景吾坊ちゃまの面倒を見て差し上げるのがこのミカエルの仕事ですから……」
「いつもわりぃな」
「いえいえ」
 俺様がナイトガウンに着替えてその辺を歩いているとリョーマと透叔父が帰って来た。
「あー、汗かいてさっぱりした。お風呂入っていい?」
「どうぞ。越前様」
 メイドが答えた。
「あれ? 跡部さんもうお風呂入って来たの?」
「いや、ミカエルが体拭いてくれた」
「ふぅん。羨ましい」
「お前も体拭いて欲しかったのか?」
「――違うって! ああ、もう! 俺は跡部さんの体を拭きたかったの!」
「お前じゃ痛そうだなぁ」
「何だよぉ。跡部さんてほんと、口が悪い!」
「だよなぁ。せっかくリョーマが拭いてくれるって言うのに……人の好意は素直に受け取らないと損だぞ」
「でも、もうさっぱりはしたから……」
「そうだね。跡部さんの裸なんか見たら俺、どうなるかわからないし……」
「俺の体は今は痣とかで汚ねぇよ」
「そんなことない! 俺の跡部さんを傷つけたヤツ、全員テニスでうちのめしてやる!」
 ――俺を傷つけたヤツが全員テニスやってる訳じゃないんだけどな……。
「お前、テニスじゃ無敵そうだもんな」
 透叔父が言った。
「透さんもなかなかのモンじゃないすか」
「あはは。学生時代以来だからすっかり鈍ってるよ。でも、いい運動になったぜ」
「今度勝負しようね」
「ずっと打ち合いばかりやってたからな。勝負になったらお前が勝つだろ?」
「当然」
 ――何だか、リョーマと透叔父はすっかり仲良くなったみたいだ。
 二人が風呂場に向かった後、その場にいたミカエルが言った。
「坊ちゃま、少しお話があります」
 何だろう。虐めのことかな。さっき言ってくれれば良かったのに。まぁいい。話にはタイミングってものがあるからな。
 俺様はミカエルと部屋に入った。

「坊ちゃまはいいお友達をお持ちですねぇ」
「だろ? LINEでも勇気づけられた」
「虐められていると聞いた時は使用人一同随分落ち込んでしまっていましたが――坊ちゃまが元気だと我々も明るくなります」
「止せよ。ミカエル」
 くすぐったくなって俺様は笑った。
「いえいえ。坊ちゃまが本当は優しいのは我々にはわかっております。だから、越前様も惹かれたんでしょうね」
「え、越前……?!」
 俺は仰天してつい声を上げてしまった。
 な、何だ?! 今の感覚……。心の秘密に触れられたような吃驚した感覚は……。
 俺様には樺地がいる、樺地が……。
「どこかお怪我に触りましたか? ガウンが皮膚と擦れたとか……」
「いや、そんなことねぇ」
「それは良かったです」
「――ミカエル。今日は樺地と寝たい。いろいろ積もる話もあるしな。樺地には俺様から言っとく」
「はぁ……いつもだったら賛成するところですが、越前様が気の毒では……」
「リョーマが? 何で?」
 ミカエルがふぅと、溜息を吐いた。
「坊ちゃまが意外と初心なのはわかっております。しかし、少し鈍過ぎでは……。勿論、坊ちゃまにはいろいろな美点があるのですが、あまり鈍いとその方を敵に回してしまいますよ」
「心配いらない。元々敵だ」
「はぁ……。透様も言っておいでですが、坊ちゃまの鈍さは或る意味罪だと」
 透叔父も何考えてんだ? 罪を犯したこの俺を罰するのか? 俺様には心当たりねぇぞ。
「八束さんも坊ちゃまが好きだったんでしょうかねぇ……」
「それはない」
 はっきりと断言できた。
「好きだったら相手を傷つけるようなことはしない」
「坊ちゃまは真っ直ぐですからね。そこのところが私は大好きです。――そうだ。樺地様をここに呼ぶなら越前様も呼んでみては。何なら泊まってもらっても」
「はぁ?!」
 ミカエルの提案に俺はちょっと驚いた。――でも。
「まぁいいか」
 どっちも俺様にとっては大切な存在だしな。樺地は幼馴染だし、越前は良きライバルだし。
「あいつら、呼んできてくれ。ミカエル」
「わかりました。坊ちゃま」

次へ→

2016.11.10

BACK/HOME