俺様嫌われ中 16

 はぁ? 何だって?
 ――嫌われていないようなことは知っていたが。それに、確か前にも好きだって言われたことがある。あの時は気が動転して、ちょっと本音も洩れちまったが――。
 ははぁ。こいつも俺様と仲良くしたかったんだな。本当は。でも、何て唐突な――。
「わかったわかった、俺様もお前が好きだ」
 俺は越前の頭を撫でてやった。
「ガキ扱いしないでください。身長だってすぐに伸びます。その、大人になったら――」
 付き合ってください。
 小さな声でヤツがそう言った気がする。
「んだよ、突然――」
「ちゃんと伝えた方がいいって言ったの、跡部さんですよ」
「わかった。友達として好きってことだな」
「――ちっともわかってないじゃないスか」
「え? 違うのか」
「跡部さん……」
 樺地が何か言いたそうにしている。越前が、
「だから――これは……恋っス……」
 と言った。語尾が小さくなる。
 何だって?! 越前が、俺様に、恋?!
 俺は頭が真っ白になった。
「それから、リョーマと呼んでくださいっス。前にも言いましたが」
「……わかった。リョーマ」
 今度からは心の中でもリョーマと呼んでやるか。
 でも、俺様にリョーマが恋ねぇ……。何となく勘付いてはいたんだが……。俺様達はライバルで、反発し合っていて……。
 リョーマに告白されても、俺、不思議と嫌悪感は湧かない。俺も同じだから。
 俺様は樺地に恋をしている。
 樺地は何を思っているのか、あまり表情を変えない。こいつはいつもそうだ。俺様のことどう思っているんだろう……。
 あー、もう! 恋なんてめんどくせぇばっかだ!
「樺地さん、すみません。俺、跡部さんのことに関しては引きませんから」
「――ウス」
 ? 何のこっちゃ?
 俺様が?マークを飛ばしていると、リョーマが俺様の顔を引き寄せ、キスをした。
「――なっ?!」
「へへっ、ご馳走さま」
 リョーマがぺろっと舌を出した。
 俺様は口はぱくぱく。胸はどきどき。
 まぁ、俺様も樺地も帰国子女だ。リョーマもアメリカ帰りだ。キスなんて何と言うこともないが――。
 樺地の前ではしたくなかった。だって、俺様が好きなのは樺地で――。
 でも、嫌な感じがしないのはどうしてだろうか……。
「おい、リョーマ――二度と人前でやるなよ」
 無駄な説教と知りつつ俺様は言った。
「何で? 海外では当たり前でしょ? ――じゃあ、二人きりの時ならいいのかな」
 リョーマは樺地の前で恐ろしいことを言う。俺様はできる限りリョーマとは二人きりにならないことを誓った。

「おお、帰ったか、景吾」
 透叔父とミカエルが出迎えてくれた。
「坊ちゃま。病院から電話がありました。――良かったですねぇ。テニス生命を絶たれなくて」
「――まぁな」
 俺様は違うことで動揺していたのだが、それはバレずに済んだ。
 というか、透叔父辺りは察していたかもしれんが、触れずに置いてくれた。
「兄貴が帰ってきているぜ」
「親父が?!」
 俺は少なからず驚いた。今の時点では仕事の方が大事だと親父なら判断すると思ってたのだが。
「まさか、親父が帰って来るなんて――」
「あれでも景吾のことは気にしてるんだぜ。いやぁ、愛されてんな。景吾」
「――よしてくれ」
「良かったっすね。跡部さん」
 リョーマが言った。
「お前も両親に可愛がられてるだろ? 越前リョーマ」
 透叔父が言った。
「何でそんなことわかるんスか」
 リョーマは否定しない。
「お前、生意気だけど嫌なヤツって感じしねぇからな」
「ふぅん……」
 そして、リョーマは透叔父に向かって続けた。
「アンタ、テニスやってたんだって?」
「ああ。昔な。――今も時々やってる」
「跡部さん――景吾さんに勝てる?」
「負ける気はしねぇな」
「じゃあ、俺ともやろうよ」
「そうだな。景吾を破ったルーキーの実力、見せてもらうか」
 リョーマと透叔父は息が合ったらしい。
「その前に、兄貴に話しておく」
「いいよ」
「夕食はどうする?」
「――そういえば腹減ったな」
「お前、胃腸は丈夫な方か?」
「え? どうしてですか?」
「食べた後動くとお腹痛くなるヤツもいるんでな。景吾も俺もそんな繊細さとは無縁だが」
「大丈夫っスよ。――テニスは腹ごなしにとっときましょうよ」
「それより、景吾。兄貴に挨拶しとけ。樺地と越前もだ」
「……面倒だなぁ……」
 そうは言ったが、俺様も本当は親父に会えるのが嬉しいんだ。透叔父にも『んなこと言って嬉しそうな顔しやがって』と心安立てに冷やかされた。
 親父の部屋の前でノックをした。そして――透叔父と樺地とリョーマと入って行った。
「元気だったか? 景吾」
「やだねぇ、兄貴。話は聞いただろ? 虐めに遭ってんのに元気かはねぇだろ」
 と、透叔父。
「――いや、俺様は元気だ」
 俺は答えてやった。
「ふむ、いい顔をしている。――樺地、久しぶりだな」
「ウス」
「そっちの小さいのは景吾の友達か?」
「小さい……」
 リョーマは不服そうに呟いた。俺様は吹き出しそうになった。――リョーマに睨まれたような気がした。
「それにしても八束の子息がねぇ……私の力だったらすぐにでも八束家を潰せるんだが……」
「それは止めてください。父さん」
「しかし……」
「これは、俺――跡部景吾に関する試練です」
「そうか。大人になったな、景吾。――わかった。私も表立って手出しはしない。ただ――監視はつける。そのぐらいはいいだろう?」
「わかってくれてありがとうございます」
「いつも通りの口調でいい。どうせ透と似たような口調で喋ってんだからな。ん?」

次へ→

2016.11.6

BACK/HOME