俺様嫌われ中 15

 俺様は病院へ行って見てもらった。俺様の病院は名医揃いだ。ちょっと見酷いが骨などには影響がないと言う。――良かった。
「樺地、俺様と一緒に来い」
「ウス」
「なぁ、樺地――」
 甘えたくなりそうな自分を叱咤したが――結局俺様は訊いた。
「俺は――嫌われるようなことをする人間なんだろうか……」
「いえ……跡部さんは、違います。ちょっと勝手なところもありますが……優しくなりました」
「馬鹿。ちょっと勝手な、だけ余計だ」
「ウス」
 でも、そうか――俺様は優しくなったか。ちょっと樺地に慰めてもらおうとしただけだが、予想外の返事をもらった。――嬉しい。透叔父は笑うだろうが。
 勝手なのは自覚している。だが、正直に言ってくれるからこそ、信じられる。
「済まねぇな。俺様、お前ら頼っちまって」
「いえ。好きなだけ頼ってください。少なくとも、自分は、その方がいいです」
 ……樺地の言葉に俺様はちょっと照れ臭くなって窓の方を見た。
 何だ、ありゃ。あの帽子、越前じゃねぇか。
 俺様はするするとドアを開ける。
「おい、越前!」
 俺様が大声で呼ばわると、越前がこっちを向いた。
「跡部さん!」
「おい、止めろ」
 運転手が車を止める。――越前が気付かなかったら通り過ぎるつもりだった。けれども、何故か俺は越前と話がしたかった。
 越前がこっちに走り寄ってくる。
「樺地さんも一緒ですか」
「ウス」
「今日、手塚が来たぞ。――走り込みか?」
「はい。今朝朝練サボったんで」
 ――成る程。頑張って補うって言うのは嘘じゃなかったんだな。
「もうすぐ暗くなる。送るから乗れ」
「でも――それじゃ走り込みの意味ないんで」
「そうか……頑張れよ。今度の練習試合、楽しみにしてろよ。俺様も参加するんだから」
「跡部さんも参加するの?」
 越前は目を丸くし、にやりと笑った。
「今度も負けませんよ。――髪、伸びて来たようっスね」
「ああ、おかげさんでな。カツラ無しでも大丈夫になってきた。でも、頭髪を賭けて戦うのはもう懲りた」
 あはは、と越前は笑った。
「ベリーショートのアンタも良かったっスけど――」
「何だそれ、皮肉か?」
「いえ――でも、やっぱり今の方が跡部さんらしいっス」
「岬から何か聞いたみてぇだな。でも、あれはあくまで冗談だからな」
「『俺様の愛した男』ってヤツでしょ? わかってますよ。ちょっと寂しいけど――」
 越前はふうっと空を見上げる。このまんま消えてしまいそうなヤツだな。軽井沢にも姿を消したことがあるしな。
 やっぱり、心配だな。
 俺が越前の友だと知れば、八束は越前を潰しに行きかねない。
 あいつは、只者じゃねぇんだ。跡部家より劣るとはいえ、八束家の次期当主だ。
 手塚はドイツに行くからいいけれども――。
「跡部さん、どうしたの?」
「越前――何かあったら俺に言え」
 そして、俺様は樺地を頼ると言う訳だ。
「――わかったっス。本当は今日も跡部さん家に行きたかったんスけど、流石に迷惑ですよね……」
 しおらしい越前なんて珍しい。それに、俺の家に行きたいだと?
「別に、来てもいいが?」
「ほんと?!」
 越前の顔がぱっと明るくなった。
「俺、跡部さんのことすごく心配だったんです!」
「そうか――お礼に跡部家のディナーに招待してやる。そこにいる樺地も一緒だ」
「――ウス」
「樺地、家に連絡入れたか?」
「跡部さん家にいると言えば……大丈夫です」
「そうか」
「樺地さんと跡部さんて、家族ぐるみの付き合いなんですね」
「そうだな――長い付き合いだもんな。なぁ、樺地」
「ウス」
「俺も……力になれればな」
 と、越前。
「充分力になってる。俺様だってお前のこと嫌いじゃない」
 俺様はニッと笑ってやった。
「あ、電話での俺の台詞――」
 越前は、はっとしたようだった。
「返事聞かないうちに通話切ったろ。お前」
「――ッス」
 越前は今、返事をしたらしい。
「俺様の家にも庭にテニスコートがあるから打ち合いできるぞ」
「無理しなくていいんスよ。アンタが好敵手だってことはわかったから」
「そうだな。痣が擦れていてぇもんな。その代わり、練習試合では勝つ気でやるぜ」
「――ウス」
 何だ、越前のヤツ。樺地の真似か。何となく樺地の方を見たが、こいつは滅多に表情変えないからなぁ……。
「乗れ」
「わかった。走り込みはまた別の時にやるから」
 ――こんなことばかりしてると体が訛るんだけどな……そう言いながらも何か嬉しそうだな、越前のヤツ。俺様も嬉しいぜ。
 何たって、越前と手塚は強敵と書いて『とも』だもんな。
「テニスコートで練習したっていいんだぜ。透叔父も昔やってたって」
「――強いの?」
「全国ベスト4まで行ったって」
「そう弱くはないようっスね」
「おめーらは優勝したじゃねぇか」
「えへへ……皆のおかげっス」
 越前が嬉しそうに笑う。はにかむ表情が可愛い。
「それ、皆に伝えたか?」
「――うーん。言わなくてもわかってると思う」
「伝えた方がいい。でないと、手遅れになる。この俺のようにな」
「ウス……跡部さんにも、味方は大勢います」
「サンキュー、樺地」
 本当は、優しい樺地の唇にキスをしたかった。けど、越前がいるからな。それに、俺様だって恥ずかしい。
「伝えた方がいい、か――。本当にそう思ってますか? 跡部さん」
「ああ」
 俺様にも少数ながら本当の味方がいた。樺地は勿論、ジロー、宍戸、鳳、岳人、忍足――日吉もかな。それから、滝のツィートにも慰められた。
 俺様はツィッターでも弱音は吐けないからな……いい友達を持ったもんだぜ。透叔父やミカエルも親身になってくれてるしな。
「跡部さん!」
 越前が不意に大声を上げた。
「好きです! 跡部さん!」

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2016.11.4

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