いつか思い出になる日が来ても 4

「どうして――嫌われるようになったの?」
「まだ跡部のことを信じてるヤツもいるがな。あいつくらい悪いヤツはそうはいないぜ。噂では女の子襲ったとか、テニスで八百長やったとか……」
「どこでその噂を聞いたの?」
「――ネットだよ」
 その男子はおかずを飲み込んでから答えた。
 何か、重なる。越前君と――。
「越前君に似てる……」
「えー、全然違うよぉ。越前君の場合はデマだったけどさ」
「跡部さんの場合もデマだったってことはないの?!」
 そう叫んで私は勢い良く立ち上がった。
「山本さん! どこ行くの?!」
「ちょっと用事!」
 私は屋上に向かう。屋上へは階段を昇っていけば自然に着くよね。幸い、A組の隣が階段だから――。
 私は信じない。跡部さんが酷い人だなんて。
 だって、猫のお墓作ってくれたもん。それから――そうだ。黒猫を助けたことのある立派な友人がいるってことも話してくれた。
 跡部さんは、いい人だ!
 バンッ!
 私は屋上の扉を勢い良く開ける。数人の男子がこっちを向いた。その中心に跡部さん。
 緊張の糸が解けた私は、涙を流した。
「おい、どうした、山本。泣くなんて――」
 跡部さんがこっちに来る。
「……跡部さんのこと、信じないでごめんなさい」
「バーカ。んなことで泣くなよ」
「裏切ってごめんなさい」
「屋上に来なかったことか? 別にいいさ。強制じゃねんだし。――でも、来てくれて嬉しいぜ」
「あー、優子ちゃん、来てくれたの?!」
 ジロー君が目を輝かせる。
「おう。お前は見る目あんな」
 ――宍戸君。
「宍戸さん、知り合いですか?」
 ハーフっぽい、立ち上がったら宍戸君より背の高そうな少年が言った。
「長太郎は初めてだったな。こいつは山本優子。跡部のクラスに越して来た」
「へぇ……何で今頃」
「わからんのか? チョタ。大方青春学園から越して来たんやろ。うちのクラスにも一人来たで」
 丸眼鏡の生徒が言う。関西弁だ。
「結構青春学園から来てる人いるよな」
「そんなに数は多くないで。岳人。大半は偏差値でふるい落とされるやろからな。ここは金もかかるし」
「遠くても構わないから、立海に行きたいと言う人の方が多いですよね」
 長太郎と呼ばれた少年が言った。
「ああ――すぐ鎮火したとはいえ、スキャンダルになった青学から、立海に行って王者を目指したいいうヤツらもおるやろ。四天宝寺にも来たヤツいるらしいで」
 丸眼鏡の人も内部事情に詳しいみたい。
 けれど、こんなすぐに青学から来たことがバレちゃうなんて――。
「私――青学が好きだから青学の中等部から卒業したかったんだけど」
「仕様がないじゃん。仲良くしようぜ。俺、向日岳人」
「――忍足侑士や」
「鳳長太郎です」
 彼らはそれぞれ自己紹介をしてくれた。皆暖かそうな人だな。あ、ジロー君お弁当食べながら船漕いでる。
 跡部さんが言った。
「おい、樺地はまだか」
「そう言うと思ってお前の代わりに呼び出しといたぜ。生徒会の仕事が終わんねぇんだと」
 宍戸君はサバサバした外見の割に、意外と周りに気を配る質らしい。少し神経質かもしれない。
「ちっ、あいつ、また仕事おっつけられたな」
 跡部さんが舌打ちをする。
「あの……お友達ですか?」
「ああ。樺地か。俺の友達で――以前車に轢かれそうになった黒猫を庇ったヤツ」
「いい人なんですね」
「いい人過ぎるのが玉に瑕なんだよなぁ」
「そうそう」
 おかっぱ頭の向日君が頷く。
「でも、俺ら、そんな樺地が好きなんや」
 丸眼鏡――忍足君が綺麗にまとめた……と思ったのだが。跡部さんが蛇足をつけた。
「おい、樺地は俺のだかんな。お前にはやんねぇよ」
「わかっとるがな」
「おい、ジロー。いつまで寝てんだ? ほら、これやるよ」
「え? 本当? わー、跡部家の煮しめおいC~」
「そりゃ良かったな」
 跡部さんは苦笑するかのように口元を歪めた。
 何か、この人達って――楽しいかも。
 こんなに優しい友達に囲まれてる跡部さんも幸せそう。目の寄るところへは玉も寄るとはよく言ったもんね。
「あ、あのジローさん。これもどうぞ」
「わー、こふきいもだー」
 ジロー君もご機嫌だ。
「おいCよありがとう」
「どういたしまして」
「――ウス。遅くなりました」
「おう、樺地」
 跡部さんが笑いながら手を振る。嬉しそう。樺地君て、大きい人だなぁ。それに、気持ちも大きそう。
「今、弁当交換してたんだよ。お前も混ざるか?」
「――ウス」
「樺地の手料理は絶品だぜ。なんせ得意な教科は家庭科だからな」
「ウス」
 えー、意外。樺地君だったら、体育とかが得意そうなのに。
「あの……体育とかは……」
「完璧に決まってんだろ。なぁ、樺地」
「……跡部さんの方が……完璧です……」
「そんなことないと思うぜ。だって跡部のヤツ、いつだったか『樺地には敵わねぇ』ってこぼしてたからな」
「バラすな。宍戸」
「へへーんだ」
「日吉と滝さんがいないのが残念ですね」
 鳳君が口を挟む。
「日吉は馴れ合いは苦手なんだとよ。滝はわかんねぇ」
「そっか……あいつとはまだぎくしゃくしたままだったからな――かと言って謝る気もねぇけど」
「そうだな。レギュラーの座はお前が勝ち取ったんだ」
「違うぜ。跡部。あれはお前のおかげだ――お前が執り成してくれなかったら俺はテニス部を辞めてたと思う」
「滝の動向が心配だな」
 ああ、やっぱり、この人達の話を聞くだけでも、跡部さんはいい人だ……。
「山本……越前の知り合いだったよな。お前が転校する前の越前の様子はどうだった?」
「いい子でしたよ。テニスも上手くて。小坂田さんや竜崎さんと言う女の子の友達もいましたし。――後、男子では堀尾君達も」
 私は青春学園の思い出を手繰り寄せていた。越前君を庇って堀尾君は大怪我をした。竜崎さんから聞いた。カツオ君やカチロー君達も大変だったろうな――。
 私は一人、逃げてしまったから――。

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2017.3.10

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