ゲンイチローくん、こんにちは 3

「あれ? 副部長震えてるっス」
「なっ、震えてなど……いない……」
 真田はムキになっている。切原赤也……真田が一番指摘されたくない相手に指摘されたのだ。さぞ悔しいだろう。
「幸村、青学に行くぞ」
「俺も行くっス」
「な……赤也、お前はそこで待っておれ。でないと殴るぞ」
「今の副部長なんて怖くねーもん」
「赤也、俺はこの真田の写真を待ち受けにしているよ」
 幸村が赤也に教える。真田が「余計なことを!」と言いたげに睨んだ。
「あ、それグッドアイディア! 俺もそうしようっと」
「やめろ~!!!!!」
 ――真田の絶叫が立海テニス部の部室内にこだました。
「あ、そういや、どうして先輩達いるんスか? もう引退したっしょ」
 赤也が話題を変えた。
「引退式は来週ですよ。切原君」
「柳生の言う通りナリ。それまでに思い出を残しておこうと思ったナリ――最後にこんな楽しいアクシデントがあったなんて思いもよらなかったナリ」
「俺は楽しくないぞ、仁王」
「プリッ」
 仁王が謎の言葉を発した。彼の口癖である。
「俺はとても楽しいよ。いい思い出が出来たよ」
 幸村は上機嫌である。真田とは対照的に。真田が言った。
「幸村……お前があの乾汁を飲めば良かっただろうに……」
「だって、俺が飲むより真田……いや、ゲンイチローくんが飲んだ方が面白いだろう?」
「ゲンイチローくん……子供扱いするな、幸村!」
「だって、今の副部長、どう見たって子供じゃ~ん」
「赤也……覚えてろよ……元に戻ったら鉄拳制裁してやる!」
「――幸村部長。どうか副部長の姿はあのままでお願いします」
「ん~、どうしようかなぁ」
「戻せ! 幸村!」
「戻さないで! 部長!」
「赤也が本気の真田に鉄拳制裁というのも見たいけど、今、俺はゲンイチローくんに夢中だからね」
「……命拾いしたっス」
 赤也は心の底からほっとしたようだった。
「赤也、騙されるな……幸村は俺なんかより何倍も怖い……」
「ん? 何か言ったかい? ゲンイチローくん」
「いえ、何も……」
『皇帝』と呼ばれ恐れられていた真田弦一郎も幸村は怖いらしい。幸村にはいろんな意味で敵わなかった真田にとって、幸村をも破った青学の越前リョーマは尊敬の対象ですらあるようだ。だが――。
「青学に行くことにやぶさかではないが、手塚や越前にはこの姿は見られたくないな……」
「そんなこと言ってたらいつまでもその姿のままだよ。真田」
「う……」
「真田、青学に行くのは明日にしよう。今日はもう遅い。希望者は明日一緒に行こう。ねぇ、君達」
「さんせーい」
 そう言ったのは主に赤也と仁王である。
「ふむ……また乾に会うのもいいかもしれんな」
 蓮二はどことなく嬉しそうだ。旧友であり、良きライバルでもある乾貞治に会うのが楽しみらしい。二人で乾汁についての相談でもするのだろうか。
「お前ら、全員で来るのか?」
 些か青褪めた真田に、レギュラー部員達は、
「勿論!」
 と、爽やかに声を揃えた。
「今日はもう帰ろう。真田、君は俺の家に来るといい」
「……じゃあ、世話になろう」
「えー、狡いっス。幸村部長」
「何が狡いんだい? 赤也」
「だってさー、小さくなった副部長と一緒にご飯食べたり一緒にお風呂に入るんでしょう?」
「そうだよ。君も来るかい?」
「いえ……」
「遠慮しなくていいんだよ」
「――どんな目に遭うかわからないんで……」
「信用ないんだなぁ、俺」
 幸村がクスクス笑う。
「だって、俺まで子供にされたら嫌っスもん」
「大丈夫。赤也の子供の頃には興味がないから」
「……う。それはそれで面白くないな……」
 赤也は複雑な気持ちを味わっているらしい。幸村は心底楽しんでいる。蓮二が言った。
「まぁ、精市が羨ましくないと言えば嘘になるが……」
「柳先輩まで……」
 赤也が呟いた。
 あの蓮二まで小さな真田のことを可愛いと思っているらしい。
 でも、ダメだよ。真田は俺のものだもんね。――幸村が心の中でべえと舌を出した。
「明日は朝6時集合だよ。来るのは任意だけど」
 明日は土曜日である。
「絶対行くナリ」
「青学の人達がどう出るか……興味深いではありませんか」
「俺も行くっス!」
「ふむ……新しいデータを収集出来そうだな」
「俺も行くよ。幸村くん」
「お、俺も……ブン太が何するか心配だし」
「素直に行きたいって言えよ、ジャッカル」
「う……まぁ、そんなところだ。俺も行ってみたい」
 その時、部室の扉から現れた人影があった。
「お邪魔するでヤンス」
 少年の名は浦山しい太。中一でテニス部の部員である。
「ちょっと幸村先輩に――って、何でヤンスか? そのめんこいおなごは!」
「俺が男だと見破れんのか! たわけが!」
「えー、ちょっと真田副部長に似ているでヤンスね」
「この子は真田の隠し子なんだ」
「えー!」
「こら、幸村。でたらめを言うんじゃないと言っとるだろう!」
「えへへ……」
 小さな真田と構っている幸村を見て柳生が、
「何だか、お二人が天使に見えますねぇ」
 と、言っているのが幸村の耳に届いた。
「ああ……あの幸村部長と副部長だと知らなかったら俺だって萌えてたっス」
「同感ぜよ。知らなければもっと萌えられたナリ」
 赤也と仁王は同意見らしい。
 ジャッカルが騒いでいる真田達をじっと見たまま腕を組んで首を傾げている。
「何? お前ら。俺は幸村くんと真田と知っていてもすっげー萌えるけど?」
「ブン太、お前は大物だよ……」
 ジャッカルは半ば感心、半ば呆れているようである。幸村はニコニコしながらこう伝えた。
「明日が楽しみだね。寝坊した人は置いてくからね」

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2017.4.29

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