テニプリミステリー劇場 ~跡部景吾殺人事件~ part7

「わかった。飲んでみるよ」
 菊丸が覚悟を決めたようだった。ごくんと生唾を飲んだようだ。
(ていうか、これって間接キスじゃ……)
 手塚がいたらすぐさま止めたであろう。そう言えば、手塚はどうしたのであろうか。
 ――それはさておき、リョーマには自分が何かを掴めそうな気がして来た。
 安息角のことについては、少しスマホで調べたことがある。その時は全然わからなかったが――。幸村は何かを掴んでいるらしい。
(まだまだだね、俺も……)
 リョーマは心の中で自嘲した。こんなんでよく跡部の仇を討つとか言えたもんだ。
 菊丸がカップに口をつけた。
「――うーん。普通に美味しいけどなぁ~」
「どうだい?」
「確かに……コーヒーの味しかしないね」
「……一杯目だとコーヒーの粉に紅茶の葉は混ざらないんだよ」
 幸村の台詞に、リョーマは突然閃いた。
(――わかった!)
 リョーマは幸村の方を見た。幸村はこう言いたげだった。
 やっとわかったようだね。ボウヤ。
 幸村は憐れむような、それでいて優しい穏やかな目付きをした。
「やっぱ俺も試しにちょっとコーヒー飲んでみたくなったな」
 現金なもので、桃城がまずコーヒーの粉をカップに落としてお湯を注ぐ。
「……ん? 何か変な味がするぞ」
「どれ?」
 菊丸が今度は自分の分のカップにコーヒーの粉を二杯入れ、飲んでみた。
「ありゃりゃ。俺の好みの味じゃないな~」
「俺も、飲んでみるっス」
「俺ももらおう」
 海堂と真田がコーヒーを口に含む。
「ふむ、不味くはないが……?」
「でも、変わった味っス」
「海堂。コーヒーと紅茶を一緒に飲む人間もいるらしいぞ。父から聞いた」
 真田がトリビアを披露する。海堂がカップを傾ける。
「そうだな。不味くはないが……珍味と言えばいいのかな」
「えー、でも、不二のはコーヒーの味しかしなかったよ~」
「楽しそうだね。皆。僕も試しにお代わりするよ。いいだろ? 越前」
「構わないっスよ」
 そう言いながらリョーマはさっき閃いた考えを頭の中で巡らせていた。
「幸村さん……警察に行くって言ってましたよね。俺も行く予定だったけど」
「ああ……それがどうしたの?」
「俺、ちょっと樺地さんに連絡してみます」
 リョーマは樺地に訊きたいことがある。
「でも、樺地くんの電話番号なんてわかるのかい? ボウヤ」
「この間番号交換したっス。ちゃんと覚えてますから」
 ついでにその時、榊とも連絡先を交換し合った。
「もしもし、樺地さん――?」
『ウス、越前さん……』
「――リョーマでいいっス。樺地さんは今、家?」
『警察に――行くところです』
「そう? 俺達も行くところだったんだ」
『ウス? 俺――達?』
「ああ。幸村さんと一緒だから」
「樺地くん何だって?」
 幸村が口を挟む。
「今から幸村さんと警察に行くこと話したんです」
「そっか。樺地くんならまぁいいか。警察は樺地くんの家からは近いのかい?」
「何とも言えないっスね。近いと言えば近いっス」
「じゃあ、樺地くんには警察で待っていてもらおう」
「そんなことできるかな。俺は顔パスだけど。できる? 真田さん」
「どうかな」
「頼りない返事だなぁ、もう――樺地くんには出来るだけ警察か警察の傍で待っているよう言っておいてくれ」
「わかった。――もしもし樺地さん?」
『ウス』
「幸村さんから伝言。警察か警察の近くで待っててくれって」
『ウス、わかりました』
「それから、二、三訊きたいことがあるんだけど――」
「待って。ここじゃない方がいいと思うよ」
 幸村が注意した。桃城や菊丸が息を殺して見つめている。
「わかった。幸村さん。――もしもし、樺地さん、後で質問があるんだけど。――会えたら話すよ。どう?」
『ウス』
 桃城と菊丸が落胆したような表情をした。不二はニコニコしながら紅茶入りコーヒーを飲んでいる。海堂は何を考えているかわからない。――リョーマは電話を切った。
「越前、警察行くのか? 犯人はわかったのか?」
「――まぁね」
「やっぱり、忍足さんかなぁ……」
「それをはっきりさせる為に行くんでしょうが」
 まぁ、犯人はほぼ忍足で決まりだろうが――。トリックもわかった。動機らしいものも一応、ある。
「忍足さんに伝えておいてくれ。『何で跡部殺したんだこの野郎!』って」
「それは桃先輩が自分で言いなよ」
「――そうだな。後でしめとくか。――忍足さんは一応俺の命の恩人ではあるんだけどな……」
「物騒な話はお断りだよ」
 幸村が言った。
「真田。君も来るかい?」
「――いや。俺が行っても親父に迷惑をかけるだけだ。行って来い。幸村、越前」
「わかったっス」
 リョーマが真田に向かって敬礼した。幸村が笑いながら、「行こう」と言った。
「真田さん。残り物が冷蔵庫に保存してあるはずだから皆で食べてください。それでは」

 警察の前では樺地が佇んでいた。
 リョーマと幸村はタクシーで来た。タクシー代は幸村が立て替えてくれた。
「樺地さん」
「樺地くん」
「――ウス」
 二人の姿を認めたらしい樺地が呼びかけに返事をした。
「ボウヤが訊きたいことがあるんだって」
 幸村の言葉に樺地は、
「答えられることなら――何でも、訊いてください」
 と、言った。
「じゃあ、まずはさ……跡部さんと忍足家に遊びに行った時、忍足さんがコーヒーに毒入り砂糖を入れるところを見たって言ったよね」
「ウス」
「忍足さんの居たところにはずっといたの? 忍足さんとはずっと一緒だったの?」
「いえ……なかなか来ないので俺も台所に行きました……」
「その時の忍足さんの様子はどうでした?」

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2018.10.18

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