テニプリミステリー劇場 ~跡部景吾殺人事件~ part6

「静かだね……」
「うん」
 幸村とリョーマの何でもない会話。でも、リョーマは跡部ともこんな風に話したかったのだ。
「今日泊まってもいいかい? 真田も寝てるし」
「いいと思う。うちの親、そんなにうるさい方じゃないし。でも、訊いてみる」
 リョーマはスマホを取り出した。
「もしもし、母さん」
『あら、リョーマ……今から帰るところよ』
「ねぇ、母さん……今日友達が来てるんだけど、泊めていいかな」
『いいわよ。リョーマもお友達が死んで悲しいでしょう? 悲しみが紛れるなら、母さん構わないわ。一応どなたかだけ訊いておくけど』
「立海の幸村さんに真田さんだよ」
『ああ。真田さん? もしかして真田警部の息子さん?』
「そうだけど?」
『なら安心ね。真田警部はいい人だから』
「真田さん、話の途中で寝ちゃってさ――」
『あらまぁ、そうなの。御飯はまだ食べてないでしょ?』
「カップラーメン作って食べた。――ええと、幸村さん?」
「何だい?」
「何か食べて来た?」
「軽食は摘まんで来たけど?」
「母さん、幸村さん達に何か作ってよ」
『わかったわ。リョーマ。あなたの分も作るわね。カップラーメンだけじゃ足りないでしょう』
「う……うん」
 そう言えば、お腹空いた。ぐ~っって腹笛が鳴きそうなくらい。
(ほんとは和食がいいんだけどな)
 母倫子の作る食事は洋食が多い。美味しいけど。
 そういえば、跡部もイギリス風の食事をしていた。全国大会のすぐ後、家に招かれたことがあるのだ。
 どうしてこう跡部のことばかり思い出すのだろうか。やはり魂が繋がれているからか。
 けれど、リョーマもいつかはあの世に逝く。その時、会えればいい。――それとも、夢の中には出てこないだろうか。彼は。
 夢はあの世と繋がっている。そう言ったのは誰だったっけ。
 ――母が帰って来た。リョーマは一応料理を堪能して、自分の部屋に戻った。幸村には来客用の部屋に寝てもらった。真田のことは無理には起こさなかった。真田の分の食事も用意してもらったが。

「ありがとう。越前の御母堂、馳走になった」
 真田が真剣な顔で倫子に礼を言った。
「真田くんには和食の方が良かったかしら」
「いえ……洋食も和食も好きなのでお構いなく」
 倫子は洋食、リョーマの従姉菜々子は和食が得意である。倫子が言った。
「私達、これから跡部家に行って来るけど、リョーマも行く?」
「何しに行くの?」
「跡部さんのお母さんを元気づけてあげるの。すぐに仲良くなったのよ。私達」
「へぇ……」
「あそこのお父様も落ち込んでたから一緒に慰めてあげるの。リョーマは?」
「俺、もう少ししたら幸村さんと警察に行くから」
「あら。そう言えば事件はもう解決したの?」
「殆ど解決しかかってるけど……俺、いまいちわからないところがあるんだ。幸村さんは何か掴んだのかもしれないけど」
「そうだったの。頑張ってね。小さな探偵さん達。あ、幸村くんと真田くんはもう小さくはないわね」
「俺だって数年後には大きくなってるよ」
 リョーマが拗ねる。傍にいた幸村がくすっと笑った。
 ピンポーン。インターフォンが鳴った。
「はいはーい」
 倫子がいそいそと玄関に向かう。
「こんにちは~」
 聞き覚えのある声が揃って言う。リョーマも駆けてきた。
「菊丸先輩! 不二先輩! 桃先輩! 海堂先輩!」
「やぁ、おチビ」
「こんにちは、越前」
「何だ、思ったより元気そうじゃねーか元気そうじゃねーの」
「フシュ~」
「こんなところに立ってないで、いらっしゃい」
 倫子が家の中に案内した。
「じゃ、私は行ってくるから。リョーマももう中学生なんだし、お客さんの相手ぐらい出来るでしょ?」
「勿論」
 それに母さんがいない方が邪魔が入らなくて助かる――この言葉は流石に口には出さなかったが。
「おチビの母さん、綺麗な人だにゃ~」
「そう? 普通だと思うけど」
「越前の顔の造作がいいのは、お母さんの血もあるかもね……」
「やだな。不二先輩……」
「おー、すげぇフカフカなソファ。越前ていい家に住んでんな」
「フシュ~。桃城……静かにしやがれ」
「桃先輩も海堂先輩も相変わらずっスね」
 つい笑みがこぼれるリョーマであった。
「何か飲む? コーヒーと紅茶があるけど。――あ、コーヒーはインスタントコーヒーだけど」
「俺、紅茶飲みたいな。不二達は?」
「僕はどっちでもいいよ」
「俺はどうしようかな」
「俺もコーヒーだ……」
 最後まで注文を聞かないうちに、リョーマはコーヒーの粉を入れた容器と紅茶の葉っぱが入ったのを持って来た。それぞれにスプーンを入れて。紅茶のうっとりする程いい香りが漂う。美味しそうだが、少し香りが強い。
「お湯は湧かさなくていいの?」
 幸村が訊く。
「はい。このポット、水入れて電源入れるだけでお湯湧くんですよ」
「へぇ。便利だね」
「うむ。うちにもひとつ欲しくなった」
 真田がポットについているマークでメーカーを確かめる。お湯が沸くまでしばし待つ。
「どうぞ。好きなだけ入れてください」
「セルフサービスかよ!」
「いいじゃん、桃。俺、紅茶……やっぱりコーヒーにしようかな。――あ」
 菊丸は紅茶の缶の中身をコーヒー粉の容器にぶちまけてしまった。
「あ~あ、菊丸先輩ったら、もうドジなんだから~」
 桃城はそう言いながらも笑っている。
「フシュ~。コーヒー飲む気がしなくなったな……」
「ごめんて、海堂~」
「後で捨てるから気にしないでください」と、リョーマ。
「僕、コーヒーにしようかな。どんな味になったか興味ある」
 そして、不二はコーヒー粉入れの底の方から匙を救った。インスタントコーヒーを山盛り一杯入れて予めポットで湧かしておいた三口くらいで飲み切れる量のお湯を注いだ。そして丹念に掻き回す。
「う~ん……」
 不二が目を閉じたまま眉を顰めた。菊丸が訊く。
「不二~、どんな味~?」
「……コーヒーの味しかしないよ」
「え~、でも、不二、味覚が変だからな~」
 そう言うんなら飲んでごらんよ――機嫌を悪くしたらしい不二が菊丸に自分のコーヒーを勧めた。幸村が真剣な顔で二人を見つめる。

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2018.10.08

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