武内源太**キロ

 見知った顔を見たような気がした。
 肩につくかつかないかぐらいの柔らかそうな髪。きっぱりとした目元。スレンダーな体つき。彼女は――恭子さんに似ていた。

 はっ。オレってばなに後をつけているんだ。恭子さんに似た女の子を見かけたからって。
 しかし、あの娘、どこかで見たような……。
 そうだ! 誠凛の女監督だった! あの時はあまり意識はしていなかったが。
 あっ。駆けてく。
 あれか。待ち合わせの相手は。
 ――って、あいつは秀徳の緑間真太郎じゃないか!
 キセキの世代No.1シューター!
「何やってんですか? 武内監督」
 ――ん?
 オレンジ色のきつね目とさらさらの黒髪を併せ持つ少年に声をかけられた。
「確か君は……」
「高尾和成っす~。武内源太監督っすよね。海常の」
「あ、ああ……まぁ……」
 バツが悪くなってぽりぽりと鼻の頭を掻く。
「あの二人見てたんすか? お似合いっすよね。あの二人」
 ――高尾少年の言う通りだ。
 私はつい昔の相田景虎と恭子さんを重ね合わせて見ていた。
 景虎と恭子さんは今でもラブラブらしい。
 はぁ……と、オレは溜息を吐いた。
「どうしたんですか? 監督」
「青春を思い出していたんだよ」
「青春ねぇ……」
 高尾少年は首を傾げていた。
 少年よ。君は知らないだろう。
 すっかりオジサンになってしまったこのオレにも、若い頃があったということを。
「それで、あの二人を見てたんすか?」
「ん……まぁ、そうだな」
「嬉しそうだな。真ちゃん」
 高尾は心ここにあらずといった調子だった。
 少年、もしかしてあの女監督のことを……。
 けれど、緑間真太郎には敵わないのだろう。それはそうだ。緑間は女子ウケする顔をしているし、何しろ天才だ。
 少年よ。君も辛い恋をしているのだな。
 何となく、他人事ではないような気がしたオレは……。
「高尾君」
 高尾少年が「ん?」と言った調子で振り向いた。
「どこか喫茶店へ行こう。パフェぐらいならおごってやる」

 そして喫茶店――。
 高尾少年は夢中でパフェにがっつきながら話しかけてきた。
「海常って黄瀬さんもいるんですよね」
「笠松主将っていい人ですよね」
「っつか、こんなトコ海常の生徒に見られたらどう思われるでしょうね」
 高尾少年は――結構積極的な性格であるらしかった。
「あ、それからさぁ……」
 高尾少年がスプーンでオレを指さした。
「青春を思い出したって言ってたよね。あれってどういうことっすか?」
「――うちの生徒には内緒だぞ」
「はい!」
 高尾少年がオレンジ色の目を輝かせた。
「あれはオレがまだ若い頃――オレは一人の女性に恋をしていた」
 オレはうっとりと追憶に浸った。
「その人はとても可愛い人でなぁ……名前を北森恭子さんと言った」
「はぁ……」
「その人は他の男と一緒になってしまったが……彼女のことは今でもいい思い出さ」
「フラれたってことですね」
 高尾少年はずばっと言った。
「――ま、そういうことになるな」
「誰ですか? 相手は」
「相田景虎という、元全日本のチームメイトだよ」
「あ!」
 高尾少年は声を上げた。
「武内源太……そういえば、監督は全日本の選手だったんですよね!」
「そうだけど、それが何か?」
「今、古い本で見たこと思い出したました。そっかー。海常の監督って聞いた時から、どっかで知った名前だぞって思ってたんですよね。愛称はゲンゲン!」
「ゲンゲンはやめてくれ」
「何で? 可愛いじゃないすか」
「あれを可愛いというのは、君と景虎ぐらいのもんだぞ」
「そうですかー。まぁでもねー……」
 少年はじろじろとこっちを見ている。
「時の流れって残酷っすねー……」
「太ってて何が悪い」
「いいえー。悪くないですけど」
 少年よ。君もそのうちオジサンになるのだ。
「君はあの女の子に恋をしていたのかな?」
「いや、オレは……真ちゃんの彼女がどんな人か見てみたかっただけです」
「で、感想は?」
「及第点ですね。あの女監督が相手なら」
「君も緑間相手じゃ勝ち目ないだろ」
「そうなんです!」
 高尾少年はガタッと立ち上がった。
「オレ、真ちゃんにボロボロに負けましたからね! 中学の頃! 真ちゃんは頭もいいし美形だし天才だし、もうパーフェクトっすね。だから、オレは真ちゃんの相棒に相応しい男になろうと……真ちゃんには敵わないけれど、いつか隣に並んでアシストするぐらいの技術は身に着けようと……だから、真ちゃん以上にたくさん練習していつか……!」
 高尾少年は途中で周りの人の視線に気が付いたらしく、恥ずかしそうに席に沈んだ。
「あー、何やってんだろ、オレ。こんなオッサンにこんなに語っちゃって……」
 ……こんなオッサンで悪かったな。
 けれど、いや、まさか――。信じ難いし受け入れられないけれど……。
「少年。君の好きなのはもしかして女カントクではなく、あの緑間――」
「……他の人には黙っておいてくださいよ」
 ――否定しやがらない!
 オレにはわからないけれど、これも時代の流れかねぇ……。それともこの少年が特殊なのか。
「あ、パフェ、ありがとうございます」
 高尾少年のパフェはまだ四分の一ほど残っていた。
「ああ、いいよ。のんびり食べな」
「オレのこと、ホモだとか思った?」
「あー……少し?」
 オレは遠慮なく言った。オレは時代遅れのオッサンだから、お互い様だ。
「ホモでもいいです。女の子も嫌いじゃないけど」
「すまんな……理解できなくて」
「いえ……理解されようとは思ってないですから」
「そうか……がんばれとしか言えないけれど……まぁ、がんばれ」
「ふふふ」
「何だ? どうした?」
「武内監督っていい人ですね。まだ独身?」
「――む、まぁ……その通りだ」
「監督いい人だから、いずれ誰か相手も現れますよ。――ダイエットすれば」
 いちいち言うことが可愛くないヤツだ。だが、そう悪い気はしないのも事実だった。
 高尾少年はパフェを食べ終えた。
「それじゃ、今日はありがとうございました」
 少年はお辞儀をして店を出る。
 今日少年が言ったことは仁亮(秀徳の監督)にも秘密にしてやろう。実は仁亮とも同じチームメイトだったのだが。
 仁亮も景虎に『マー坊』と呼ばれて怒ってたっけな。
 ――景虎のヤツが幸せな結婚生活をしているなんてな。
 世の中というのは不公平にできている。緑間は男にも女にもモテるし。
 実に不公平だ。何でオレばかりこんなに太るんだ。
 少年の言う通りダイエットでも始めようかな。
 これでも昔はスマートでかっこよかったんだからな!

後書き
公式の小説本を読んで思いつきました。ちなみにリコママは捏造。
黒バス小説の部屋の『緑間クンがリコたんに恋する話』とリンクしています。
これでもたかみどだ!と言い張る私って正真正銘のアホかもしれない……。 
2013.9.25


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