ショタりまくんとショタかおくん 前編

「ん……」
 何か違和感を感じて隣を見ると――緑色の髪をした幼い男の子がすやすやと眠っていた。
 それを見た高尾和成は、
「どっえええええええええええ!」
 と、大きな声を出してしまった。
「ん……うるさいのだよ、たかお……」
 幼児が眠い目をこすりながら起きた。なかなか可愛い……じゃなくって!
「真ちゃんの……かくし子?!」
「何を言っているのだよ……あ、パジャマがぶかぶかなのだよ……」
「ひどいや、真ちゃん! オレ一筋だって信じてたのに」
 高尾が顔を覆いながらいやいやをする。
「たかお、おまえ、ずいぶん……かわいくなったな」
「……はぁ?」
「じぶんのすがた、かがみでみてこい」
 高尾が自分の姿を姿見で見ると――。
 そこには4、5歳くらいの自分の姿が――。
 高尾は本日二度目の「どっええええええええ!」という絶叫を発して、そのまま倒れてしまった。
「こら、たかお、ねるんじゃない!」
 男の子の小さな手がぺちぺちと高尾の頬を叩く。
「あ、真ちゃん。きみ、真ちゃんなの?」
「そうなのだよ。オレはみどりましんたろうなのだよ」
「あー、そっかぁ。真ちゃんちっちゃくなっちゃったのかー。かわいいなぁ……」
 可愛いと言われ、緑間は頬を赤くした。
「おれ、きがえてくる。たかおは?」
「んーん、でも……ここん家子供服ないぜ」
 なんせ真ちゃんとのスイートホームなんだからな、と高尾はこっそり付け加えた。既に大学生となった高尾は緑間と一緒に暮らしている。
 確かに緑間が小さくなるとこんな感じであろう。うるんだような大きな瞳。ずれた眼鏡。長い睫毛。少し重そうな緑色の髪の毛。
(んー。眼福眼福)
 高尾はへらりと笑った。緑間はちょっと躊躇する素振りを見せると、高尾の額にキスをした。
「~~~~!」
 高尾はかっと身ぬちが熱くなった。可愛い幼児の緑間が、額に口づけを――。
(オレ、もう死んでもいいっ!)
 高尾は舞い上がっていた。
「ほら、こんどはたかおのばんなのだよ」
「へ?」
「だからその……きすの……」
「ああ、うん。そうだね。おはよう。真ちゃん」
 高尾が緑間の頬にキスをした。
「すまほ、もってくるのだよ……」
「? そんなもんどうすんの?」
「かわいいたかおをとる」
「真ちゃんの方がかわいいじゃん」
「たかおのほうがかわいいのだよ!」
「真ちゃんのほうがかわいい!」
 二人はしばらく、お互い相手のどっちがより可愛いかでけんかしていたのだが――やがて疲れてきた。
「これから、どうしようか。たかお……」
「真ちゃんは『おは朝』みてて。オレ、妹ちゃんにでんわするから」
 高尾はパジャマの腰の辺りを手で押さえて電話機へ向かった。電話機はソファの近くにある。高尾はソファに座った。
「よいしょっと」
 そして、実家の電話番号をかける
「――あ、もしもし、なっちゃん。オレ、和成だけど」
『……お兄ちゃん? こんな高い声だったっけ?』
 あ、そっか。声変わり前か。
「んにゃ。ちょっとアクシデントがありまして……子供服、何着か持ってきてもらえると、嬉しいな」
『うん。すぐ行く。真太郎さんは元気?』
「まぁ、元気っちゃ元気かなぁ……」
 その時、おは朝のアナウンサーのお姉さんの陽気な声が響いた。
『蟹座のアナタ、今日は親しい友達の別の面に気付きそう。ラッキーアイテムはアップリケのついた子供服!』
「たかお! アップリケのついたこどもふくなのだよ! アップリケなのだよ!」
 緑間が騒ぐ。高尾が、「あー……」と言いながら付け加えた。
「なっちゃん。アップリケのついた子供服もよろしくお願いします……」

「やーん、可愛い~」
 小さくなった高尾と緑間を目にした途端――高尾夏実はメロメロになった。
「二人とも可愛い~。お兄ちゃんの子供時代はアルバム見てたから知ってたけど、真太郎さんがこんなに可愛いとは思わなかった~」
「それよりもなっちゃん、服ちょうだい」
「はい。子供服ね。カズちゃん」
「なっ……!」
 最早お兄ちゃんとも呼んでくれないわけか。緑間がにやにやしていた。
「だろう? たかおはかわいいだろう?」
「真太郎さんも可愛いわよ」
「照れるのだよ……」
 緑間と夏実の間にほんわかした空気が流れた。つか、真ちゃんはなっちゃんの褒め言葉は素直に受け入れるわけね。オレの時には反発したくせに。
「なっちゃん。オレ、早く着替えたいんだけど……」
「持ってきたわよ~。くまさんのアップリケのついたトレーナーもね。色は何と緑なの!」
「きょうのラッキーアイテムなのだよ!」
 緑間がトレーナーを広げて喜んでいる。可愛い……。これは、高尾の母が高尾の為に作ってくれた服だった。
「カズちゃんのも持ってきたわよ」
「なっちゃん……カズちゃんはやめてくれよ……」
「どうして? 可愛いじゃない」
「オレは恥ずかしいよ……」
「まぁ。反抗期?」
「――も、いいや」
「たかお、これきてみてくれ!」
「えー? 昔散々着たのにー?」
「私も見たーい」
「……しょーがないなぁ」
 ――白い半袖の上着とサスペンダー付きの黒い半ズボン姿の高尾が姿を現した。
「かわいい~」
「なつみ、かめらかめら」
「はいはい。次は真太郎さんの番だからね」
 夏実は緑間には気を遣ってか『真太郎さん』と呼ぶ。緑間が張り切って答えた。
「わかってるのだよ」
「あー、それにしても、お母さんが物持ちが良くてよかったー」
 と、夏実。それは高尾も母に感謝している。だけど……。
「なっちゃん。なんで何も疑問を持たないわけ?」
「だってなってしまったもの、考えたって仕様がないもの」
「あー……そうだね」
 脳天気なのは高尾家の血らしい。しかし、高尾は今回はいささか頭が痛くなった。
 夏実がカメラを構えるのはいいとして、どうして緑間までスマホを構えているのだか……。そう思う高尾自身も緑間の姿を撮りまくっていたのだから人のことは言えないが。

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2014.9.20

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