ショタりまくんとショタかおくん 中編

 話は前後するが、夏実が来る前――。
「さてと、なっちゃんが来るまで時間があるから、朝食の準備をしよう」
「どうするのだよ。ひもほうちょうもあぶなくてつかえないのだよ」
「じゃあ、火や包丁を使わない料理にしよう。――レタスあるかな」
 高尾は『レタスの歌』を歌いながらレタスを探す。――あった。
「レタスをちぎってプチトマトを添えてサラダにしよう。確かドレッシングがあったはず」
「たかお、パンもあるぞ」
「んじゃ、牛乳もコップに注いで――と、こんなもんでいいかな」
「たかお、マーガリン」
「オレ、バターの方が好きなんだけどね」
 マーガリンは安いからつい重宝してしまうのだ。
「よし、これで朝食のできあがり」
 いただきまーす、と彼らはもふもふとパンを食べる。サラダも美味しくできている。ドレッシングは高尾特製だ。
「昼はどうしようかねぇ」
「――このさいだ。コンビニべんとうでがまんするのだよ」
「不便だねぇ」
 だが、まぁ、まずは仕様がない。二人とも子供に変身しているのだから。
 確か、朝起きたら虫になっていた話がなかったっけ。――カフカの『変身』てヤツ。
 まぁ、虫でなくて幼児でよかったと、高尾は心底ほっとした。
 その時、夏実が来たのだった――。

「へぇー。二人ともご飯自分達で用意したの。えらいえらい」
 夏実に褒められて、高尾も緑間も悪い気はしなかった。
「私、勉強があるからこれで帰るけど、晩御飯の時には来て何か作ってあげる」
「ありがとうなのだよ」
「サンキュー、なっちゃん」
「いえいえ。どういたしまして」
 高尾と緑間の頭を撫でると、夏実は上機嫌で帰って行った。
「とりあえず、きょういちにちはぶじすごせそうなのだよ」
「今日一日やり過ごしたってねぇ……そうだ。黒子に電話しよう」
「くろこ? なんで?」
「なっちゃんが来るまでオレ達ヒマじゃん」
「それはそうだが――」
 高尾は黒子に電話した。
「勉強の後で来るって。みんなマジメだよなぁ」
「オレたちもかだいやらないといけないのだよ」
「この体で? もしかしたら鉛筆も正しく持てないんじゃない?」
「……もとはおとななのだから、えんぴつくらいもてるのだよ」
「でも、ま、今日一日くらいは休んでもいんじゃね? 子供になっちゃうというアクシデントにもみまわれたわけだし」
「――しかたないな」

「こんにちは。緑間君、高尾君」
「緑間っち~。ずいぶんちっちゃくなっちゃって」
「おう、このちびっこいのがカズか?」
「みどちん、高ちん、おやつ食べる~?」
「二人とも愛くるしくなって……ずっとそのままの姿ではいられないのかい?」
「……黒子から聞かされてなかったら、冗談だと思ってたぜ」
「はわ~。ミドリンも高尾君も可愛い~。ね、ね、テツくん。こんな子が欲しいよね~」
「……たかお」
 緑間がピリピリしている。これはまずい。
「おまえはなんにんよんだんだ。え?」
「オレが呼んだのは黒子だけだよ~」
「すみません。緑間君。ボクが悪いんです……」
 黒子テツヤはしょげていた。最初、黒子は火神大我だけ連れて行くつもりであったらしい。が、黄瀬涼太に見つかって、高尾達のところへ行くことを喋ったら、
「じゃあ、みんなで行くっス。きっとみんなお盆休みで退屈してるから」
 と言ったそうなのである。
「……たいくつならだいがくのかだいでもすればいいのだよ」
「何言ってんスか! 夏休みは課題をするためにあるんじゃないんスよ☆」
 黄瀬、無駄に星を飛ばす。
「課題~? 課題って何だっけ~」
 さくさくとポテトチップスを食べながら紫原敦はのんびりと言う。
「宿題なんて31日にやるもんだろ?」
「……それはおまえだけだ。あおみね……」
 緑間が青峰大輝にツッコみを入れる。
「もう。青峰君たら。勉強は毎日やるものなのよ!」
「いーじゃねーか、さつき。お前の写させろ」
「嫌よ」と桃井さつきがつっぱねた。
「僕は光樹に会いに来たんだ。光樹にはまだ連絡してない。びっくりさせようと思ってね。――真太郎と和成をお土産にもらって行ってもいいかい?」
 と、赤司征十郎。オッドアイがきらりと光る。
「真ちゃん……赤司が怖い……」
「よしよしたかお。オレがついているからな」
「……僕はすっかり恐れられているようだね……」
 赤司は、帝王は孤独だ、などと訳のわからない独り言を呟いている。
「みどちん。高ちん、お菓子あげる~」
「わ~い」
「敦にも負けてるんだね。僕は。これでも人気投票では一位だったのに……いや、僕には勝利の二文字しかふさわしくない!」
 そして、赤司は言った。
「泳ぎに行かないか? 二人とも」
「ほんと? わーい。……あ、でも、水着がない……」
「和成。そんなの僕が買ってあげるよ」
「いいの?」
「いいよ。ただし、君達が僕達の子供になってくれたら……」
「いけません! 水着を買ってあげるだけならともかく! 赤司君、この二人に手を出したらボクは本気で怒りますよ!」
 黒子が叫んだ。赤司が少し怯んだ。もしかしたら、最強は黒子かもしれない。
「高尾君も緑間君も、いつ元に戻るかもわからないんですよ。だから赤司君にあげるわけにはいきません。二人とも、外見はこうでも頭の中身は大学二年生ですし――多分」
「くろこ、たぶんとはどういういみなのだよ」
「だって確証ないですし」
「まぁまぁ二人とも。仲良くしようぜ、な」
「ほらぁ。高尾っちもこう言っているっスから」
 高尾と黄瀬が間に入って緑間と黒子を執り成す。
「おっし! 近所にいい遊び場があるから、連れてってやる!」
 今まで出番のなかった火神がここぞとばかりに張り切る。黒子が火神の言葉を受け継いだ。
「そういえば、プールがありましたよね。ウォータースライダーとかついてる」
「私も行きたいな……」
「わかりました。桃井さん。一緒に行きましょう」
「やっぱりテツくん大好き~」
 桃井が黒子に飛びついた。
「和成、真太郎。今の君達には目の毒だ」
 赤司が緑間の目を、紫原が高尾の目をそれぞれ手で塞いだ。
 今のオレ達、ほんとガキ扱いされてるな~、ま、しょーがないけど、と、高尾は思った。

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2014.9.22

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