ショタりまくんとショタかおくん 後編

 高尾は火神に抱えられてウォータースライダーを流れて行っている。ばっしゃーん! 高尾はきゃーきゃー言って喜んでいる。
「緑間っちは行かないんスか?」
「ふん。ようちなあそびなのだよ」
 緑間は、今は眼鏡がなくてもよく見えると言う。視力が悪くなったのは、成長期あたりからだったそうだ。
「全く素直でないんスから……行くっスよ。緑間っち」
「うわ~~~、どこへ連れて行くのだよ!」
「ウォータースライダーに決まってるじゃないスか。緑間っちも行きたそうだったし」
「う……」
 緑間が手足をぱたぱたしても、190cm近くの黄瀬は動じない。
「む~、くつじょくなのだよ」
「諦めるっスよ。あーいい気持ち」
「きせめ~、もとにもどったらぎゃくしゅうしてやるのだよ」
「イイことでもしてくれるんスか。逆に嬉しいわ」
「んなこと……たかおにしかやんないのだよ……」
「デレて可愛いっスね。高尾っちが羨ましいっス」
「はなせ~!」という可愛いらしい緑間の声が真夏の空にこだました。

「赤司~、泳がないの~?」
 ウォータースライダーにひとしきり満足し、子供用プールで緑間達と遊んでいた高尾、プールサイドでのんびり読書していた赤司に声をかける。ちびさん二人はもぐりっこをしていた。高尾は火神に、緑間は黄瀬に支えてもらいながら。
「そうだね。せっかく来たんだからね。それにしても、君達は本当に攫い甲斐のありそうな……」
「え……?」
「ちょっと待って下さい――攫っちゃダメに決まってるじゃありませんか」
 黒子が眉を寄せて睨んだ。赤司、今度は涼やかさを崩さない。
「冗談に決まっているじゃないか」
「いいですか? 世の中にはああいう人もいるんですから、気をつけてくださいよ……」
 黒子は高尾に視線を合わせて諄々と説く。赤司が言った。
「僕は黒子も同類のような気がするけどね」
「ボクは変態じゃありません!」――黒子が立ち上がって仁王立ちで赤司を見下ろした。
「ほら。ムキになるとこが特にね。大丈夫。僕も変態じゃないから」
「――信用できません」
「僕は自分に正直なだけだよ。大輝、君も入るか?」
 赤司が青峰を呼ばわった。
「んだよ。せっかくボインな女見つけたのに見失っちまったじゃねぇか」
「桃井さんがいるじゃないか」
「あれはテツが好きだから……」
「そうよ。テツくんには私がいるもの!」
 どこからか現れた桃井が黒子の腕に胸を押し付けた。
「桃井さん、何度も言ってますが、ボクはキミ相手にはそういう気にはなれないんです」
「知ってる。火神君が好きなんでしょ?」
「え? 知ってたんですか?」
「当たり前でしょー。普段あれだけイチャイチャされちゃね。でも、私も負けないんだから!」
「はぁ……」
 黒子は半ば放心したように言う。桃井は黒子達の関係を知っていて、それでも好きで。だから、まだアピールしまくっている。ここまで来ると、健気と言うしかないかもしれない。
 だけど、黒子は火神しか見ていない。――桃井は微苦笑を浮かべると黒子からそっと離れた。高尾は桃井に心の中でそっと手を合わせて、それから無邪気を装ってこう言った。
「黒子と青峰も遊ぼうぜ~。オレ達と一緒に」
「そうですね」「ま、たまにはガキの相手もいいか」
「桃井サンも泳ご?」
「うん! 見てるだけでもいいけど」
 パーカーを脱いでいた桃井は、プールサイドに腰をかけてピンク色の長い髪をまとめながら脚を水に浸していく。高尾は桃井の胸の谷間に目が行く。
(ん~、やっぱ、でけぇなぁ……せっかく子供に戻れたんだから、あの胸に顔うずめてみてーなー)
「やぁだ。何見てんの? 高尾君たら!」
「いや。あの……ちょっと桃井サンの胸に見惚れてた。あの胸にパフパフしてもらいたいな~って」
「おお、カズ、お前チビになっても男のロマンがわかるんだな!」
「何が男のロマンよ青峰君。もう……青峰君といい、高尾君といい、エッチなことしか頭にないわけ? ムッ君はお菓子のことしか頭になさそうだけど」
「ん~、だってちっちゃくなったといってもオレも男だしさぁ……ちょっとくらいエロいこと考えたって、ムリないと思わない?」
 男は、女の想像もつかないくらいエッチな本能を持って生まれてくるわけである。
「た~か~お~」
「ひっ、真ちゃん……!」
「おまえはなにふらちなことかんがえているのだよ……」
「そ、そのとんがった爪……ゆるしてぇ~~~」
「は~、今日も平和だねぇ」
 大人用プールの隅っこで(子供用プールでは狭過ぎる為)紫原はユルい台詞を発していた。

「あー、楽しかったぁ」
 そう言ってあはは、と高尾が笑う。ちびさん高尾とちびさん緑間、それから緑間以外のキセキや桃井、黒子と火神達は普段着に着替えた後、楽しく帰途についた。中でも高尾が嬉しそうだ。しかし、その顔には緑間の爪痕が。
「お前、ほんとに楽しかったのかよ……」
 青峰が高尾に呆れたように言う。
「うん。真ちゃんもオレにやきもちやいてくれたしぃ?」
「おれいがいにこころをうつすことはゆるさないのだよ。そのきずあとはすぐになおるのだよ」
「――だってさ」
 高尾はへらりと笑った。
「カズ……お前自分でわかってんのかよ。大変なモンしょいこんでんぞ。だいたいおめーもあんときゃ嫌がってたじゃねーか」
「うん。痛かったけど、真ちゃんが妬いてくれるのがオレの幸せだし~」
「ボクも、高尾君がいいと言うなら、これでいいんだと言う気がします」
「はは、苦労が絶えないっスね。高尾っちも。緑間っちを止めることができなくてゴメンね~」
「真太郎に飽きたらいつでも僕と光樹のところにおいで」
「高ちん、お菓子食べるっしょ~?」
「なんでよってたかってみんなたかおをあまやかすのだよ」
「だって、本当に可愛いもん――ミドリンも可愛いよ」
 桃井がそう言って高尾と緑間の頭を撫でた。
「もうすぐ元に戻るから、うんと子供の時間を楽しんどいて」
 何の根拠もない言葉。しかし、高尾はそれを信じられるような気がした。高尾も緑間も頷いた。
「さすが、桃井っち。女の子の言葉って強いっスね」
 黄瀬が感心したようにうんうんと小さく首を縦に振った。紫原はまいう棒をさくさくと食べていた。

「カズちゃーん。真太郎さーん。夕飯できたわよー」
「なっちゃん……『カズちゃん』はやめてくれよ……」
「んふ。悔しかったら大人の体にさっさと戻るのね」
「はーい」
 黒子達が帰った後、夏実が来て約束通り晩御飯を作ってくれた。何せ今の二人、包丁を持つことも危なっかしいときているのだから。
「それで、キセキの人達や黒子さんや火神さん達とも遊んでもらえたの?」
「うんっ!」
「ああいうのはいたぶるというのだよ……」
「いいじゃない。二人とも可愛いから構ってもらったんでしょ?」
「まぁ……たのしくないわけではなかったのだよ」
「ところでお兄ちゃん――じゃなかった、カズちゃん、その頬の傷は?」
「緑間にやられた。でもいいんだ。オレを想ってのことだから」
「ふん……」
 二人とも早く元の姿に戻るといいわね。夏実がそう言い残して帰って行った。
 ――翌日。何の理由もなく子供になっていた二人は、何の理由もなく大人の姿に戻っていた。高尾の頬の傷はまだ残っていたが、高尾自身は「真ちゃんのオレへの愛の証~」とやにさがっていた。

後書き
「夏――――!!!!』て感じですね。
今は秋ですが。
確か8月頃書いた作品だと思います。
2014.9.26


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