オレの高尾和成 13

「クリスチャンだって?!」
 オレは驚いて思わず叫んだ。
 だって、クリスチャンというものは神に仕える者達だろう? よくは知らんが。
「驚くよねぇ……でも事実なんだ……」
 笑おうとしたのであろうレイトはそこで咳き込んだ。オレが背中をさすってやると落ち着いた。
「ありがとう……ごめんね」
「いい。無理して喋るな。病気なんだろう?」
「そうだね。今の医学ではまず治る見込みはないね。――アルトはそんな僕の面倒をよく見てくれたし、毎晩神にも祈ったよ」
 そうだったのか。小早川――いいところもあったのだな。真摯な姿勢は買うが、昇る山を間違えたのだよ。
 まさか、悪魔崇拝に転向するなんて……。
「僕だったら大丈夫だけど……僕が死んだ後のアルトが心配で――」
「大丈夫よ。レイト君。あなたはまだまだ生きるわ」
「ミザリィ……あまり気休めは……」
「だって、レイト君にはアウターゾーンがついてるもの」
 アウターゾーン……人類にとっては未知なる空間――。
「アウターゾーンと私はあなたの味方よ、レイト君。アウターゾーンはいつでもあなたのそばにあるのよ」
「でも、小早川アルトはアウターゾーンの力を悪用しようとしている」
 赤司が冷静に指摘した。
「どうして小早川アルトが悪魔崇拝に走ったのか聞かせてくれないか?」
「僕のせいなんです……」
 レイトが言った。
「僕らの小さい頃、牧師の奥さんが死んでしまって……アルトはどうして生き返らせないのか牧師に訊いたんです。そしたら、『いずれ会えるからそれまで時期を待つんだよ』との答えが返って来て――でも、アルトは手っ取り早い方法を見つけてしまいました」
「それが悪魔崇拝なのね」
 ミザリィの言葉にレイトは頷いた。
「どこかから高尾君のことを知ったアルトは――高尾君の秘密を知ろうとしています」
「そうか……」
 俺はふぅ、と溜息を吐いた。アルトが何となく身近な存在に感じられた。俺はただ悪魔に魅かれなかっただけで……。やはり信じるならおは朝に限るのだよ。
「アルトを止めたい。何とかできないか? ミザリィ」
「オレからもお願いします」
 オレと赤司はミザリィに声をかけた。
「ありがとう。緑間君」
「レイト、お前の為だけではないのだよ。高尾の為なのだよ」
「やっぱり歪みないな。お前は」
 赤司がどういう意味だかわからない言葉を吐いた。
「オレも協力する。尤も、何の役にも立たないかもしれないが」
「何を言う。赤司。お前がいるだけでどんなに助かったか――」
 そうだ。オレが平常心でいられるのも赤司がいたからだ。いつでも冷静沈着な赤司がいたからだ。
「お前には既に世話になってる。赤司、ありがとう」
「いや――まだオレは何の役にも立っていない。高尾を助け出すことも一人でできない。自分で自分が歯痒いよ」
 オレは――赤司は大人になったと改めて思った。自分の無力さを受け止める力。偽りの万能感から脱却できたその強さ。
「本当に強い人間は己の力の無さを知った人間よ」
 ミザリィは赤司の手を取った。
「協力してくれるわね。赤司君」
「ミザリィ……」
「これからもお世話になると思うから先に言っておくわね。高尾君の魂も、もう一人の赤司君も私に協力してくれたわ」
「もう一人のオレ――」
 赤司には考えるところがあるらしかった。
「オレはいつもあのもう一人のオレを疎ましく思っていた。けれど、もう一人のオレはそんなオレに恩を返してくれたんだな」
 赤司の涙が一筋こぼれた。
「ありがとう、もう一人の――『僕』」
 赤司に礼を言われたなら、もう一人の赤司も本望であろう。オレには何もできなかったが――。
 せめて高尾――愛しい人だけはこの手で救いたい。
「行くわよ。緑間君。赤司君」
 オレと赤司は頷いた。――いざ、最終決戦!
 オレ達はミザリィに捕まってテレポートした。

 ――小早川アルトは『アルト様』『アルト様』と呼ぶ声を聞きながら、高尾に手を回していた。
 それを見たオレは、それだけでもう嫉妬で頭がどうにかなりそうだった。
「高尾を――離せ」
 思わず声が枯れてしまった。小早川アルトは秀麗な眉を顰めた。
「何だ。無粋な奴らだな。せっかくの儀式を邪魔して」
「アルト。レイトが心配している。早く本来のお前に戻れ」
 赤司が説得にかかる。
「レイト……あの子に会ったのかい?」
 と、アルト。赤司が続ける。
「ミザリィに連れて行ってもらった。話は聞いたよ。でも、お前のやり方は間違っている」
「お前ら、レイトに何かしたか?」
「してない。誓って。何も」
「泣き出したから慰めただけなのだよ」
 オレがそう言うと、アルトの眉尻がぴくりと動いた。
「それはオレの役割だ! 貴様らはレイトに触るんじゃない!」
「なら、オレの気持ちもわかるよな! 高尾はオレのだ! 高尾和成はオレのものなのだよ!」
 ひゅんっ!
 何かが頬を掠める。かまいたちか?!
 小早川アルトは風を纏っていた。
「オレは――レイトの為にここまで来た。あと少し……高尾と結ばれれば儀式は完成する」
「待て! お前がアウターゾーンの力を手に入れても、レイトは救われない」
「いいえ、赤司君。アウターゾーンは既にレイト君を救っているわ」
「なんだって――?」
 意外そうな声で言ったのは、赤司ではなくアルトだった。ミザリィが喋る。
「レイト君は本来ならもうとっくに死んでしまっていてもおかしくない状況っだったわ。けれど、それを救ったのは――アウターゾーンとアルト君への愛情よ」
 真実の愛――。
 確かそんなことをミザリィは言ってなかっただろうか。
 アルト――お前はレイトと既に、真実の愛で結ばれていたのだな――。
 兄弟だろうが、親子だろうが、はたまた赤の他人だって関係ない。
 愛しいと思うその存在を全身全霊で愛するなら、それが真実の愛だ!
 ――どうしてそのことに気がつかなかったのであろう。高尾。オレはお前を愛している。愛しているからこそ、助けたい。真実の愛を持つ者は、誰かにその愛を返さなくてはならないのだ。そして、それは誰でも持っている。
 愛した者がこの地上に降りてきたことを感謝するべきなのだ。
「お前がレイトを愛しているように、オレも高尾を愛している」
「オレの気持ちが貴様にわかるかぁぁぁぁぁ!」
 アルトは叫び、高尾と共に姿を消した。
 どこへ行った――!
「緑間っ!」
 赤司がオレを、オレに襲い掛かってこようとする虚ろな目の人間から庇ってくれた。
「赤司っ!」
 ――赤司が肩をやられた。バスケに響かないといいが――。
「早く……行け……」
「しかし……」
「緑間君、アルトと高尾君がいるところへ運んであげるわ! 私達はここで応戦してるから!」
 ミザリィが叫ぶ。――眩い光がオレを包んだ。

2015.12.31

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