オレの高尾和成 12

「ミザリィ?!」
「ミザリィさん!」
 赤司と高尾が叫ぶ。
 ――助かったのだよ。ミザリィ。にしても……。
「赤司。お前がミザリィを知っていたとはな」
「話に聞いていたんでね」
「それだが、外見までは言ってなかったはず」
「緑間。オレを誰だと思っている。『アウターゾーン』のミザリィくらい知っている」
 ――流石は情報通。しかし、『アウターゾーン』は他の人の漫画じゃなかったか?
「赤司――お前も漫画を読むんだな」
「黛はラノベ以外にも漫画に詳しいんだ。オレも随分勉強になったよ。――あ!」
 小早川が何もない空間から刀を取り出してミザリィに襲いかかる。ミザリィの髪の毛の先が斧に変わる。小早川はそれを切り倒した。
「ふふ……なかなかやるわね」
 ミザリィはこの程度では死なない。この女が味方であることをオレはつくづく運命に感謝したのだよ。
 ミザリィも剣を取り出した。アウターゾーン最終巻でも見たのだが、どういう構造してるのだよ……。
「はっ」
 ミザリィも小早川に切りかかる。小早川がニヤリと笑った。
「ミザリィ!」
 オレは叫んだ。だが、ミザリィは何ともない。小早川が――消えたのだ。粒子のように霧散して。
「消えた――?」
 赤司も呆然としている。
「高尾君!」
 ――小早川とミザリィの戦いに気を取られて、高尾から目を離していたのだよ。高尾も姿を消していた。
「高尾……」
 オレは――高尾を一生守ると心の中で誓ったはずではないか。オレの人生をかけて。せっかく、高尾が戻って来たのに。オレはまた高尾を失うのか。
「高尾!」
 オレは床をドンと叩いた。
「嘆いている暇はないわよ! 緑間君!」
 ミザリィが叱咤する。――彼女の言う通りだ。
「これからどうする?! ミザリィ!」
「緑間君、赤司君、二人とも私に捕まって」
 ミザリィはオレ達に対して腕を差し出す。オレは彼女の左手、赤司は右手を繋ぐ。
「行くわよっ!」
 そしてオレはテレポーテーションと言うものを体感する。体には別に異常はない。ただ、場所が変わっただけで――。
「アルト様、アルト様――!」
 わぁっとコールが場内を埋める。その隣には高尾が。少し虚ろな目付きに見えるのは気のせいか?
「高尾っ!」
 オレが叫ぶと会場を埋め尽くした観衆がこちらをぎろりと睨んだ。あまり騒がない方がいいのかもしれない。
 その時であった――。
(助けて――)
 小さな声が聴こえた。まさか、この会場のヤツらじゃないだろう。
「聴こえたか? 赤司」
「緑間にも聴こえたか?」
「ああ――助けて、と」
「高尾じゃないな」
「私にも聴こえたわ。どうやら裏の事情がありそうね」
 ミザリィが言って、こう提案した。
「高尾君は一先ず置いておいて――声の主のところに飛んで行くわ」
「ミザリィ、オレも連れて行ってくれ」
「緑間君――」
「オレも連れて行ってくれないか?」
 赤司が手を差し出した。ミザリィが微笑んだ。
「わかったわ。でも、高尾君にもし何かあったら――ううん。大丈夫ね。高尾君はこの際」
 何でそんなことがわかるのかと訊きたかったが、オレもそんな気がしてきた。
「じゃ行くわよ」
 オレ達は手を繋いだ。そして――姿を消した。

 行き着いた先は、豪奢な部屋だった。花がたくさんある。
「うぷ……何なのだよ。これは……」
 噎せかえるような匂い。いくら花が好きだって、この匂いはきつい。
「アルト――?」
 ちょっと小早川アルトより幼い声が言った。でも、姿は小早川そのものだ。雰囲気は違うけど――。
 小早川が悪魔なら、この青年は天使だ。
「君達は?」
 青年は目を瞠っている。無理もない。何もない空間が三人も人が現れたのだ。尤も、ミザリィは人ではないかもしれないが。
「私達は、小早川アルトに攫われた高尾君と言う少年を助けに来たのよ」
「あ、兄さんが?」
 小早川の関係者――きっとそうに違いない――の青年が泣き出した。
「す、すみません……兄が……兄が……」
「兄?」
 小早川に弟がいるとは知らなかった。けれど、顔つきや体つきはまるで小早川そのものなのだよ。その青年はベッドに起き上がっている。
「ねぇ、君、小早川アルトさんのことを話してくれないかな。オレ達に」
 さっきミザリィから手を解いた赤司が、今度は小早川の弟である青年の手を取った。赤司は人を惹きつける能力を持っている。青年も少し安心したようだった。
「僕は小早川レイトです。アルトの――弟です」
「レイト君か――いくつだい?」
「二十四」
 赤司より幼い感じのする男なのだよ。二十四とは信じられないくらい。赤司が言った。
「アルトさんによく似てるね。双子かい?」
「はい。それより、兄が失礼しました。僕、兄さんのところへ行ってきます。兄を止められるのは僕しかいないので」
「ちょっと待って」
 ミザリィが口を挟む。
「どうしてアルト君はあんな蛮行に及んだの?」
「――僕のせいなんです」
 そう言ってレイトは泣き出した。
「泣くな、泣くな――なのだよ」
 オレはついあやしてしまった。オレにも妹がいる。今ではすっかり可愛げがなくなってしまったが、昔は「おにいちゃま、おにいちゃま」とオレの後をついてきたのだよ――。
 尤も、オレはあまり春菜――妹に構わなかったので、責任はオレにもあるのかもしれない。
「すみません。えーと……」
「緑間真太郎なのだよ」
「緑間君――でいいかな」
「構わないのだよ」
 オレは頷いた。レイトは涙を拭おうとしたので、オレは緑色のハンカチを渡した。今日のラッキーアイテムなのだよ。
「ありがとう、緑間君」
 レイトはオレのハンカチで顔を拭いた。高尾のことは気になるが、一応レイトの役に立てたようでほっとした。この男は人の心を和ませる。
(真ちゃん――)
 高尾の声が聴こえた。――もうどんなことが起きても驚きはしないぞ。
(その人は大丈夫だよ、オレ達の味方だよ)
 オレも何となくそんな気がしてきた。ミザリィがレイトに優しく声をかける。
「ねぇ、レイト君。私にはあなたの事情はわかるけれど、一応この二人にも彼がああなった理由を話してくれない」
「――わかりました。僕とアルトは昔はクリスチャンだったんです」

2015.12.17

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