オレのアンドロイド 9

※18禁注意 いきなり始まります(笑)。

「高尾……いいか?」
 オレは、愛しくて仕方がない恋人(アンドロイドだが)に訊いた。――タオルを持ってきて高尾の顔を綺麗に拭き終わった後で。
「うん、いいよ」
 オレが身を進ませると、高尾は可憐に泣いた。高尾の目から涙が溢れた。アンドロイドのくせに――とツッコむ余裕も今のオレにはなかった。
「真ちゃん、真ちゃん……」
 高尾をこんな風に泣かせられるのはオレだけ。そう思うと、訳もなく優越感に浸れた。これも相変わらず――というべきか?――美味な体なのだよ。
「真ちゃん……」
 高尾のオレを呼ぶかすれ声が色っぽくて、思わず、こいつがアンドロイドだということを忘れそうになる。
「高尾、高尾……」
「真ちゃん、大好きっ……あうっ、あ……!」
 何も考えられない、考えたくない。上り詰めて達した瞬間、オレは天上の快楽で頭が真っ白になった。

 目覚めると――。
「あ、真ちゃん、おはよう」
 もう朝か――。あのまま眠ってしまったのか……。
「おはようなのだよ」
 眠い目を擦ると、高尾が朝ご飯を作ってくれていた。ヨーグルトにサラダ、ピザトースト。コーヒーメーカーからはいい匂いがたっている。今日は洋食か。和食も好きだが、洋食も嫌いではないのだよ。
「コーヒーとオレンジジュース、どっちがいい? 牛乳もあるけど」
「コーヒーだな」
 オレはシャワーを浴びて着替えて席に着いた。勿論、眼鏡もかけて――オレは近眼で、眼鏡がないと輪郭がはっきり見えないのだ。
「なぁ、高尾」
「なぁに? 真ちゃん」
「昨日のことなんだが――そのぅ……」
 こういうことはどうも言い辛い。
「あは。真ちゃん顔射しちゃったよね」
「茶化すななのだよ。そのう……お前は感じたか?」
「うん!」
 とびっきりの笑顔で返す高尾。可愛い……だが。
「本当か?」
「本当だよ。――この体、使っていくうちに馴染んでいくみたい。ゆうべは真ちゃん途中で寝ちゃったから重かった。なかなか動かないから死んだのかと思った」
 そう言って高尾はへらっと笑う。反則なのだよ、その笑みは。
 昨夜、オレは中出しもしてしまったのだよ。高尾はアンドロイドだから平気なのか? しかも、オレは腹上死するところだったらしい。そんな死に方をしたら不名誉だ。……いや、高尾と交接している最中に死ねるなら、或る意味本望か?
「すまなかったのだよ。――お前がアンドロイドだということを知っているヤツはどれぐらいいる? お前の家族は知っているのか?」
「――妹ちゃんには、話したよ。最初は半信半疑みたいだったけど、オレが火葬された時の様子を聞いて信じる気になったらしいんだ」
「親には?」
「いずれ言うつもり」
 高尾は溶けたチーズを器用に口の中へと運んでいく。
「お前――味覚は取り戻したのか?」
「昨日と同じような質問するね、真ちゃん。うん。取り戻したみたいだよ。でも、このまんまアンドロイドでいると、魂がこの体に同化しちゃうんだってさ」
「そうか……」
 オレ達二人は黙ってしまった。こぽこぽとコーヒーメーカーの湧く音しか聞こえなかった。その沈黙を破ったのはオレだった。
「なぁ、高尾――アンドロイドで不自由がなかったら、それはそれで――」
 無理に人間に戻らなくてもいいのではないか。そう言おうと思った時だった。
「あのね、真ちゃん……アンドロイドは人間より、ずっと、ずーっと長生きなんだよ」
「――そうか。で?」
「オレ、真ちゃんがいなくなった世界でずっと生きていくなんて嫌だよ」
「だとしたら――オレもアンドロイドになる」
「え……ええっ?!」
「高尾、お前はミザリィの居場所を知っているか? 知っているなら連れてってくれ、ミザリィの元へ」
 その時――パキッと音がした。
「なっ……!」
 オレは戸惑った。朝食の光景から、白い靄がかかった世界に突然飛ばされたようである。
「私はここよ。私があなた方をここに招んだの」
 緑の長いウェーブがかった髪に一房の紫の前髪の美女――ミザリィ!
「緑間君。あなたの今の台詞、感動までとは行かなくても、私の心を動かしはしたわ」
「――それは、どうも、なのだよ」
「でも、覚悟はできているの? あなたはもう人間には戻れないかもしれないのよ」
「それでも、高尾と一緒なら……」
「真ちゃん……」
 因みに高尾もオレと一緒にこの世界に飛ばされていた。ミザリィが言った。
「家族や友達と違う時間軸で生きることになるのよ。それでもいいの?」
「――構わないのだよ」
「真ちゃん……オレは、妹ちゃんや両親と一緒に過ごしたいよ。そして、一緒に年を取っていきたいよ……」
 高尾は泣いていた。オレは高尾に無体なことを強いているようで罪悪感を覚えた。
「……高尾。オレは、お前が人間に戻りたいというなら、人事を尽くすのだよ。だから、どうしたらいいか、具体的に教えてくれ、ミザリィ。お前なら――できるんじゃないのか? 高尾を人間に戻すことも」
「二人だけで生き抜いていくというのも捨てがたいけどね……」
 オレはそう言った高尾の肩を抱く。高尾が涙まじりににっこりと笑った。その笑みは儚く見えた。
「高尾……」
 オレも、やはり現実世界に愛着はある。オレだって両親も妹も大事だ。それに、キセキの仲間達――仲間と呼べるかどうかわからんが、青峰も黄瀬もオレ達のことを案じてくれている。それに、現実世界はオレと高尾の二人だけで構成されている訳じゃない。そんな都合の良い世界ではない。でも、だからこそ価値がある。オレは言った。
「――オレももう少し、オレのいる世界で頑張ってみるのだよ。一人の、人間として。そして、高尾も人間に戻す。――絶対に」
「そう……じゃ、私からもプレゼントを贈るわ」
 ミザリィが言った。
「プレゼント?」
「ええ。いい話のお礼」
 その時――またパキッと音がして、オレ達は食堂に戻ってきていた。コーヒーが湯気を立てている。
「真ちゃーん!」
 高尾が抱き着く。ん? 高尾の体が心なしか温かいような……。昨日重ねた肌の温度は大理石のようにひんやりして冷たかったのに。
「お前……もしかして……」
「あ? うん。オレ、人間に戻ったみたい」
(これが私のプレゼントよ。そして私はいつでも見守っているわ。あなた達の今の言葉が本物であるかどうかを――)
 ミザリィの声が残響のように響いた。
「やった! やった! 真ちゃん、やったよ!」
「ああ、良かったな。高尾!」
「ほんと、嬉しいよ、嘘みたいだ! 妹ちゃんに電話してくる!」
「あ、おい――」
 高尾。お前にとってはオレよりも妹が大事か。――まぁ、いいか。
(黒子――)
 高尾の生還のきっかけを作ってくれたのは黒子だ。オレはスマホで黒子に連絡を取った。
「あ、緑間君」
 黒子は相変わらず涼しい声だ。
「聞いて欲しいのだよ! 黒子! 高尾が人間に戻ったのだよ! お前のおかげなのだよ!」
「それは……良かったですね。でも、これからが大変ですよ。高尾君が一度死んだのは事実ですから」
「う……」
「でも、君と高尾君なら、どんな試練もこなすでしょうね。ボクも緑間君の意志の強さだけは買ってますし」
「意志の強さ、だけとはどういう意味なのだよ」
「取り柄がないよりマシでしょう?」
「あ……ああ」
「ボク達もできるだけのサポートはします。一緒に頑張りましょう。それから……一緒にバスケもしましょうね」
「わかっているのだよ。オレ達も負けないのだよ」
 オレは、自分の頬が緩んでいるのがわかった。どんな困難も高尾や黒子達となら乗り越えられる気がした。

2015.6.23

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