オレのアンドロイド 8

※18禁注意

「そんで、どうなったの?」
 ――高尾が訊く。
「学生達は信じてしまったのだよ。河合隼雄の嘘を」
「それこそうっそでー。そんなことあるわけないって思わなかったのかよ」
「確かに嘘みたいな本当の話だ。で、学生は暇があるごとに、兄と弟は髪型が違う、ちょっとした仕草が違う、と語り合うようになったのだよ」
「……ヒマなヤツらの集まりかよ……」
 高尾がちょっとげんなりした顔で言った。呆れているらしい。
 それにしてもこいつは最初の頃より人間らしくなってきたのは、気のせいではあるまい。アンドロイドだと知らないヤツに言っても、恐らく信じてもらえないだろう。
 ――オレの、アンドロイド。
 河合隼雄の双子ネタ以上に信じられない存在だ。オレも、自分のところにこの高尾が来なかったら、恐らく信じなかったに違いない。
 可愛い、オレのアンドロイド。
 河合隼雄の双子ネタは信じる学生達も、高尾がアンドロイドだとは信じない。今は、それでいいと思っている。青峰や黄瀬達が信じてくれれば。
「んで、オレも『高尾和成』ということにするの?」
「それもひとつの手だと思うのだよ。まぁ、他の手を考える必要もあるかもしれんが」
「ふーん……ま、いいや。中身は確かに高尾和成本人だもんね」
「…………」
 高尾和成。本当にそうなんだろうか。目の前のこの男は。
 何を言っている、緑間真太郎! オレの全身が、この男は『高尾和成』だと告げている。オレは、疑わない。
 それに、黒子も保障してるしな――黒子は訳のわからないヤツだが誠実さだけは買っている。
「あー、何だよ。その目つきは。もしかして疑ってんの?」
「――すまん」
 目の前の男が高尾本人であることはわかっている。黒いつやつやの髪。オレンジ色の瞳。
 だが、オレはさっき――確かに一瞬確信がぐらついたのだよ。
「ま、しゃーねーか。早く寝ようぜ。真ちゃん」
 高尾がウィンクする。
(真ちゃん)
 そう言って秋波を送る生前の高尾を思い出した。何から何まで生前と変わらない。
「というか……早くやろうぜ、真ちゃん」
 こいつ……。
「下品な言い回しは苦手なのだよ」
「こういうの言葉責めって言うの? オレ大好きなのに。エッチな言葉を言ったり使ったりするの。真ちゃんは初心だなぁ。オレ達、もう数えきれないぐらいやってんのに」
「風呂に入ってくるのだよ」
「えー?」
「えー、じゃない。大人しく待ってろ」
「ふぇ~い。じゃあ、妹ちゃんと電話しながら待ってる」
 高尾は妹と仲がいい。オレとオレの妹とは大違いなのだよ。オレ達兄妹は決して仲が悪いわけではないが、決定的に何かが違うのだよ。
 オレは浴室へと消える。
 今、とてもヤバい状態なのだよ……。
(落ち着け。少しは落ち着け。オレ)
 勃起しかかっているそれをぺちぺちと叩く。――治まってくれない。オレは色気ちがいか? 高尾のことばかり言えんな……。
 取り敢えずシャワーだけ浴びることにした。ここで出したっていいけど……いや、風呂場は汚したくない。
 それに、高尾が待っている。出すなら高尾の中に出したかった。
 オレも結構考えることが即物的だ。強ち高尾の影響とは言えまい。オレはこういう語彙が少ないのだよ。
「あ、真ちゃん来た。じゃあな。なっちゃん。また会お」
 高尾が受話器を置いた。オレの趣味で取りつけておいた古式ゆかしい黒電話だった。これもラッキーアイテムのうちのひとつだ。
「真ちゃん、電話使わせてもらったよ。オレ、今ケータイもスマホも持ってないからさ。――早かったね」
「ああ」
 まさか、自分の息子がなかなか治まらないからだとは言えなかったのだよ。
「真ちゃん……」
 高尾がオレを呼ぶ声に甘い吐息が混じってオレの下半身に、ずく、と血流が下った。
 オレは高尾の唇を凝視していた。
 ――あの唇に、捻じ込みたい。
「真ちゃん。リクエストがあれば何でも言っていいんだよ。――できる限り応えるからさ」
 そう言って、ちろりと赤い舌を出して唇を舐める。もう我慢が出来なかった。
「真ちゃ……ん」
 オレはパジャマのズボンとパンツを脱ぎ、高尾の唇に自分のものを宛がった。更に口内へと進める。
「ん、ん……」
 オレのを頬張る高尾はこの上もなく嬉しそうな表情をした。思わず達してしまいそうだ。これなら、何回でもいける。高尾の舌が裏筋を舐める感触がして、オレの背中は戦慄いた。
「高尾……くっ……!」
 もっと味わっていたい。高尾の舌を、唇をもっと――。
 性技が上手いのは、彼がセクサロイドというだけではない。生前からヤツは口技が巧かった。
 けれど、久しぶりのそれは、そのまま天国へ行けるのではないかと思うほど心地よくて――。このハイスペックめ……なのだよ。
 もう我慢できない――。
 オレは高尾の口内から自分のものを引き抜いた。
「真ちゃん……あ」
 びしゃっ!
 白濁した液が高尾の顔にかかった。俗に言う顔射、というものらしい。
「高尾!」
「あはは。真ちゃんの精液、オレの顔にかかっちゃったー」
 高尾が舌っ足らずな言葉で言う。酔っているのか? 酒を飲んでいるわけでもないのに。
「高尾、しっかりしろ!」
「あんだよー。しっかりしてるよ。オレ」
 相手は急に真顔に戻った。
「でも、何かうれしーなー。真ちゃんの顔射って初めてじゃない?」
「何が嬉しいのだよ……」
 反対の立場だったら……オレだったらイヤ……かな? どうも理性がふらふらしている。高尾だったら構わない。ああ。構わないとも。でも、高尾以外では嫌だ。絶対に嫌だ。
 高尾は自分の顔についたオレの精液を舐め取る。
「あはっ。やっぱり相変わらず真ちゃんのって美味しいね」
「…………」
 ちっとも褒められた気がしないのだよ。相変わらず――ということは、生前の記憶もあるわけか。その前に――。
「お前、味わかんないんじゃなかったのか?」
「うん。でも、五感が戻ってきてるみたい。完全にじゃないけどね。顔にかかった時、真ちゃんの匂いがして、一気に感覚が呼び覚まされた感じ」
 そうか――性行為で人間に近づいているのだな。
 生前の記憶といえば、高尾には――高尾本人の口内に俺が発射したことがあるのは覚えているだろうか。  そういえば、高尾は自分でセクサロイドだと言っていた。
 まさかこれで人間に戻ったり――なんてことはないだろうな……まぁ、ミザリィであれ誰であれ、こんなことで感動するとは思わないのだよ。嫌悪感はあっても(ミザリィはこんなことで嫌悪感を抱くことない器が大きい女だと思うけれども)。この行為だって真実の愛からでなく、欲情からだったりするし。それでも一応訊いてみる。
「高尾。お前、人間に戻れた気はするか?」
「まだみたい……」
 だろうな。
「でも、今回はちょっと新鮮だったなぁ。ねぇ、真ちゃん」
「――今、タオル持ってきてやるから拭け」
「うーん、でも、できればもうちょっとこのまんまの状態でいたいなぁ、なーんて」
「機械を相手にしたのは初めてだからどうも調子が狂うものなのだよ」
「そんなこと言われると、オレ、ダッチワイフみたいで傷つくなぁ。ま、いいけど――ねぇ、真ちゃん」
「何だ?」
「真ちゃんのここ、まだ足りないみたいだよ。――またおっきくなってる。溜まってたんだね」
「誰のせいだと――」
「ねぇ、真ちゃん。オレのこと久しぶりに抱いてみない? 今のは顔射だから抱いたうちに入らないでしょ? ねぇ、抱いてよ。前みたくさ」
 ――オレに否やはなかった。オレの中に嵐が巻き起こる。愛しさに突き上げられて、オレは高尾を抱き寄せた。上半身にだけ羽織って居るオレのパジャマに染みがつく。
 まだ青い香を放っている性の滴は高尾の顔の右半分を覆っている。オレは冷えて粘っこくなった自分の精液が髪や鼻に付くのも構わずに高尾の唇に唇を重ねた。

2015.6.19

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