猫獣人たかお 95

 そんなこんなで『ゴールデンスタジオ』の収録は終わった。今日はみゆみゆの過去話もあったけど、メインはオレ達だ。こんなに大きく取り扱ってくれて、オレは『ゴールデンスタジオ』の皆に感謝している。
「みゆみゆに会っちゃったんだなぁ、オレ」
 みゃーじサンはすっかり夢心地である。うーん。好きなものがあるっていいなぁ。
 あ、オレには真ちゃんがいたか。
「たかおくーん」
 みゆみゆが手を振って駆けて来た。マネージャーも一緒にいる。因みにマネージャーは男だ。
「サイン……もらってもいいかな。ほら、色紙も準備してきたの」
 そういえば、この間は色紙が一枚しかないとか言ってたっけ。みゆみゆのマネージャーはいつも色紙を何枚か持ってきているのだそうだ。
「ん……でも、オレ、サイン下手だよ」
「それがいいの。日山さん、色紙お願い」
「あいよ」
 みゆみゆのマネージャー、日山サンは大きな鞄から色紙を取り出した。うーん、用意いい。
「これに書いて。高尾君」
「はぁい」
 オレはさらさらとサインを描いた。
「きゃー、可愛いサイン♪」
 みゆみゆは喜んでいる。みゃーじサンはじっとこっちを見ていた。
「あ、みゆみゆさん、みゃーじサンと握手してあげて」
「えっ。宮地さんと?」
 みゆみゆ、急に赤くなる。オレの隣りにいた真ちゃんが言った。
「そうだな。良かったら宮地先輩と握手してあげてください」
「えっ、でも……」
「オレもみゆみゆと握手したいです。……嫌かな?」
「いいえ……その反対です。その……宮地さん、かっこいいから」
「――みゆみゆは可愛いよ」
 何か、初心な二人だなぁ……。日山サンはニヤニヤしている。真ちゃんは微笑まし気に見守っている。ここからじゃ真ちゃんの横顔しか見れないけど。
「じゃ、はい」
 みゆみゆが手を差し出す。小さい手だ。宮地サンも手を出して、ぐっと握り締める。
「ありがとう」
 そう言って、みゃーじサンはくるりと踵を返す。
 何だか、みゃーじサンが大人に見える。かっこいい……。
 みゆみゆがぼーっとみゃーじサンを見ている。――さては恋かな? でも、みゃーじサンはモテるんだもんな。
「あ、そうそう。高尾君とは連絡先交換してなかったよね。――いつか連絡してもいい?」
「いいよ。でも……」
「お前はかずなりより、宮地先輩と連絡先を交換した方がいいんじゃないか?」
「きゃあっ」
 みゆみゆが照れる。可愛い。みゃーじサンが好きになるのもわかる気がする。
「オレも宮地君達なら構わないよ。おーい、宮地君!」
 日山サンが駆けて行った。みゆみゆも。
 オレは真ちゃんと顔を見合わせて笑った。
「かずなり。お前も後でみゆみゆさんに連絡先教えるのだよ」
「えっ、でも、いいの?」
 真ちゃんが嫉妬深いのはオレにもよくわかる。その真ちゃんが、みゆみゆに連絡先を教えてやれ、だなんて。
「……うん」
 でも、みゆみゆはいつまで経っても戻って来ない。日山サンは帰って来た。何か妙な表情している。笑っているような、少し困っているような、そんな感じ。
「どうしたの? 日山サン」
「あのね……みゆみゆも宮地君に惚れたらしいんだ」
 日山サンの口元が笑みの形に歪む。
「へぇ……良かったぁ」
 みゃーじサン、恋が実って良かったね。
「宮地君は好青年なんだが、そのう……みゆみゆはアイドルなんだからね。みんなのみゆみゆでいなきゃ」
 スキャンダルならノーサンキュー、か。しかし、そう言うのは昭和で廃れたんじゃなかったっけ?
「日山さん、宮地先輩なら、みゆみゆにけしからん振る舞いはしないと思いますが」
 真ちゃんが言う。
「そう願いたいね。――というか、オレも宮地君は信頼できる青年だと思うけどね」
「木村さんは怒るかもしれませんが」
「木村さん?」
「オレの先輩で、宮地先輩の親友です。彼もみゆみゆのファンなんです。――まぁ、木村さんなら祝福してくれるとは思うのだが……」
「とにかく、宮地君のことについて詳しく聞かせてくれ給え。あ、みゆき」
 みゆみゆと宮地サンが戻って来た。
「必要な時にはここに連絡してくれ」
 日山サンはボールペンを動かして何かを書く。そのメモ帳をオレに渡す。みゆみゆの連絡先みたい。
「ありがとう、日山さん」
「いえいえ」
「あ、オレ、みゆみゆから連絡先教えてもらったけど、構いませんか?」
「そうだなぁ……まぁ、恋愛はしてもいいいが、スキャンダルはご法度だからね」
「やぁだぁ。日山さんたら、昭和のアイドルみたいなこと言ってるー」
「オレはそんな男じゃありません!」
 みゃーじサンは真顔。かっこいい。
「うん。宮地君は信頼できる男だよね」
「あは、……そうですか?」
「まぁ、きょうびはスキャンダルを武器にのし上がってく強者もいるくらいだからね。でも、みゆきにはそう言うの似合わないんだよ」
「日山さん……」
「さぁ、今度はKTVだ。悪いが、みゆきは忙しい。話し合いも程々にな」
「わかりました。日山さん、あなたは話のわかる人ですね」
 宮地サンが言うと、日山サンがウィンクをした。

「あー、夢みたいだぜ」
 オレ達は連れ立って外へ出た。みゃーじサンは何となくふわふわしている。
「みゆみゆと会って話して、連絡先を交換して――だろ?」
「きっと夢なのだよ」
 真ちゃんが珍しく冗談を言う。みゃーじサンがきっ、と真ちゃんを睨んだ。
 ああ、やっぱりみゃーじサンはみゆみゆと連絡先交換したんだな。日山サンはみゆみゆのマネージャーと言うより兄貴みたいな感じだし。ちょっと考えが古いみたいだけど。
 うん。みんないい人達ばかりだな。
「おい、緑間、たかお。今日は飲みに行くか?」
「――遠慮しておきます。バスケに支障が出ると困るので」
「お前、相変わらず固ぇヤツだな。でも、確かに明日使い物にならなくなっても困るな。よし、オレも今日は真っ直ぐ帰るか」
「それがいいのだよ」
「みゃーじさん、家来ない?」
 オレが誘う。みゃーじサンは首を横に振った。
「いい。一人で幸せに浸っている」
「気持ちはわかるのだよ」
「緑間にわかられてもな――」
 みゃーじサンが笑って真ちゃんをどつく。
「――痛いのだよ」
「オレ、幸せだぜ。お前らみたいな後輩持って。いや、友達かな?」
「オレ達も宮地先輩にはお世話になっているのだよ」
「みゆみゆともメル友になれて」
「これからもずっとメル友にでいられるかどうかは、宮地先輩次第なのだよ」
 みゃーじサンにそうツッコみながらも真ちゃんも笑う。オレも笑う。お月様もオレ達を見守ってくれていた。

2019.08.19

次へ→

BACK/HOME