猫獣人たかお 94

「それでは、本日のスペシャルゲスト! 今吉翔一さんと花宮真さんです! どうぞ!」
 ええっ?! 今吉サンと花宮サンが来てるの?! ――オレはびっくりした。
「どうも、今吉や」
「ケッ、こんな茶番」
「花宮! もっと愛想良くせぇ!」
「ふん」
 対照的な二人だなぁ……。観客席は大いに沸いた。
 花宮サンも口が悪い。そして、本当はいい人だ。今吉サンの方がオレには読めない。花宮サン、妖怪サトリって言ってたからなぁ、今吉サンのこと。
 てっちゃん神様のことも、二人には話してある。そして、この二人だからそんな必要もないかなって思ったけど、一応口止めしといた。てっちゃん神様のことが世間にバレたら、皆大騒ぎだもんね、きっと。
 今はそれぐらいの知恵は身に着けている。
(かずなりも大人の思考をするようになったのだよ)
 真ちゃんが言っていた。それってすれっからしになったってこと? わかんないや。うーん。
 でも、あの時見えなかったことが今見えるようになったことは本当で――。それはもう、様々な経験から学ばせてもらった。
「高尾君。突然の友達の登場で驚いたかな? でも、この二人は前々から呼ぶつもりだったんだ。宮地サンと違って」
「押しかけゲストで悪うござんしたね」
 宮地サンがぶすくれる。
「まぁまぁ。宮地さんもいいキャラしてるし。宮地サンはテレビ局でスカウトされたんですよね」
「はい。本当はひな壇に座る予定でした」
「まぁ、この番組は近藤Pや浅井サン達に任せておけばまず大丈夫でしょ」
 佐倉サンは裏方への配慮もきっちり忘れない。でも、遠藤サンの名前は出なかったにゃ。遠藤サン、地味だからかにゃ。
 ――てな訳で遠藤サンに対して失礼なことを考えていると――。
「君達もアニマルヒューマン保護機構に捕まっていたことがあるんですよね」
「フハッ。やな記憶だぜ!」
 花宮サンが鼻に皺を寄せた。
「でもワシ、たかおと出会ったから良かったと思っとんねん」
 今吉サンは堂々と発言する。
 うわぁ……今吉サンが眩しい……!
「オレもかずなりと出会って良かったと思うのだよ」
 真ちゃん、こんなところで張り合わなくても……。
「高尾君は人気者だね」
 水森が優しく言う。やっぱり基本的にいい人なんだ。水森。何でオレはこいつを嫌いだったんだろう。――真ちゃんを取られる心配だってないのに。
 もう、これはウマが合わないとしか言いようがない。
「今吉サンは高尾君の恩人でもあるんですよね」
「恩人か……でも、たかおがおらなんだらワシら二人、まだアニマルヒューマン保護機構に捕らえられたままだったと思う。逃げる勇気をくれたんはたかおや」
「ううん。オレだって今吉サン達がいなかったら逃げられなかったと思う」
 そして、汚いオッサンの汚いモノを舐めさせられて――うう、嫌だ。今吉サンはどうしてそんなことができたのかと思うよ。
 オレ達、逃げて良かったんだよね。
 オレも痴漢にあったことがある。すごいグロかった。真ちゃんのはあんなに綺麗なのに。
 今吉サンはあんな男どもの相手をさせられていたのだ。今ならわかる。
「今吉サン、花宮サン、あの時はどうもありがとうございました」
 そして、深々お辞儀。
「フハッ。構わねぇよ」
「同じ釜の飯食うた仲やん。それにしても、たかおも随分大人になったなぁ」
「え? そ、そう……?」
 そりゃ、今でも真ちゃんがいっとう好きだし、つまらないことで腹を立てたりするけれども――少しは成長したかにゃ?
「アンタが大人にさせたんかい? 緑間」
 真ちゃんがジュースを噴いた。きったないなぁ。もう。
 浅井さんがカンペで、
『今のは使わないから大丈夫』
 と、伝えてきた。真ちゃんのイメージが壊れるからね。
「平気ですか? 緑間さん」
 みゆみゆが訊く。オレは真ちゃんの背中を摩った。
「あ、ああ……平気なのだよ」
 真ちゃんは持ち直したようだった。
「大人にしたってそういう意味やないんやけどなぁ……誤解したんか? 緑間。案外ムッツリなんやなぁ」
 今吉サンが笑っている。オレもそう思ってる。流石はサトリの今吉サン。
「失礼なのだよ」
 真ちゃんは無愛想に言ったが怒ってはいない。
「まぁ、今吉に花宮、お前らにはかずなりが世話になったのだよ」
「なぁに、困ったときはお互い様や。なぁ、花宮」
「ふん」
「何で君達はアニマルヒューマン保護機構に捕まったの?」
 佐倉サンが質問する。
「ああ、オレが花宮といちゃいちゃデートしてた時な――」
「いちゃいちゃなんかしてねっつーの」
「こう――いきなりバサッと」
「アンタの例えはイージー過ぎてわかんねぇよ」
「失礼。つまりお二人はデート中に引っさらわれて行ったんですね。酷いことしますね。アニマルヒューマン保護機構は」
 今吉サンと花宮サンのやり取りに佐倉サンが話に割って入る。
「そう、だからこそ俺達『獣人会』が必要なのだよ」
 真ちゃんが答えた。
 そっかぁ、話はそこに行き着くんだ。流石佐倉サン。おは朝の司会者やってたのは伊達ではない。
「オレも『獣人会』だ」
 みゃーじさんが頼もしい言葉を言ってくれる。
「デートと言えば、高尾君も山田葉奈子さんとデートしたことがあるんですよね。緑間さん、気がもめませんでした?」
 みゆみゆが明後日の質問をする。
 でも――そっか。みーくんと葉奈子サンのデートは、オレと葉奈子サンとのデートという風に伝わってたんだっけ。
「そんなことはないのだよ」
 そう言いながらも真ちゃんはアンダーリムの眼鏡を直す。
「オレは真ちゃんが本命だもんな」
「かずなり……」
「はいはい、そこ。二人の世界を作らない! 今は収録中なんだからね」
「そうだぞ。緑間にたかお」
 佐倉サンとみゃーじさんのダブル攻撃!
 二人の世界を作るな、とは前にも言われたような気がするにゃ。でも、オレ達ラブラブなんだから仕様がない。
 どういう風にラブラブかは、金曜の夜七時と言うゴールデンタイムでは言うことできないもんね。
「『獣人会』は会員制に切り替わったそうですね」
 佐倉サンは獣人会の話を忘れていない。
「少し騒ぎがあったようなのだよ」
「何でも獣人会に入りたがる若者がどっと来たとか」
「本当に獣人に理解を寄せている者だけが入れるようにしたのだよ。でも、獣人はほぼ無条件で入ることができるのだよ」
 これは後で赤司の話として真ちゃんから聞いたことだ。
「――不思議なことに、若い者ほど獣人に心を寄せているのだよ」
 それはちっとも不思議ではないと思う。葉奈子サンの親父の世代では、獣人はまだまだペット扱いなのだ。そして、今もまだ獣人の地位は低い。
 その地位を上げる為の獣人会なのだ。無軌道に生きている若者達がオレ達にシンパシーを感じてくれていたことには驚いた。
(山田三郎が若かった頃は揺籃期だったのだよ)
 真ちゃんは言っていた。揺籃期って何だと思って辞書をひいてみたら、ゆりかごに入っている時期のことなんだって。
 今はそれからもう少し育ったような時代だ。それは、様々な騒動が起こるだろうけど、順調に良い方向に向かって行ってる。――と、俺は思う。
 でも、猫からいきなり獣人になったオレには、獣人達の苦労や本当の気持ちはわからないのかもしれない。
 今吉サンや花宮サンだって今はここでこうやってにこにこしてるけど――花宮サンはしてないか――オレの知らない苦労を他にもたくさんしてきたに違いない。

2019.08.08

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