猫獣人たかお 93

「宮地さんもバスケやられるんですか? かっこいいですね」
 みゆみゆの言葉にみゃーじサンは、
「えへへ……そうかな」
 と、やに下がる。そこには『鬼の宮地』の異名を取った男の姿は微塵もない。
「高尾君は水森君と対談したんですよね」
 と、佐倉サン。オレは、
「ええ、まぁ……」
 と、言葉を濁した。
「見たーい」
 とみゆみゆが言う。
「ほら、高尾と水森の対談を見たいとみゆみゆ様の仰せだ」
 ……みゃーじサン、みゆみゆさんに夢中なのはいいんだけど。でも、みゆみゆサンてあんまり大したことは喋ってないような……アイドルだからそれでいいのかな。
「ここにVTRがあります。浅井さん、お願いします」
「あいよ」
「では、スタート!」

 ――オレと水森の対談のVTRが終わると皆が拍手してくれた。内容は、オレの方は捏造したり、誤魔化したりもあった。てっちゃん神様のこと、公共の場で言う訳にはいかないもん。オレも狡くなったかな。
 勿論、本当のことも喋ったけど。皆満足してくれたようだ。良かった。
 それに、水森も、悔しいけどインタビューアーの才能ある。オレがつい引き出された話題もあったもん。
「やー、興味深かったですね!」
「はい!」
 佐倉サンとみゆみゆが言ってくれた。みゃーじサンはみゆみゆの顔を見て笑っている。ああ、ほんとに好きなんだなぁ……、みゃーじサン、みゆみゆのこと。
「高尾君のこともよくわかりました。高尾君も苦労したんですね」
 みゆみゆの言葉に良心がちくちく痛い……あれ、水森に答えたの、嘘んこなところもあるんだよね……。
「林さん」
 真ちゃんが言う。
「みゆみゆでいいです~」
「じゃあ、みゆみゆさん……かずなりと一緒にテレビ観てたのだよ。だいぶご活躍なさっていますね」
「やーん、うれし~」
「オレもみゆみゆさんは嫌いではなかったのだよ。宮地先輩が特に気に入っていたから」
「そう! みゆみゆ、後でまたサインくれないかな。たかお経由でもらったものもあるけれど」
 みゃーじさんが声を張り上げた。佐倉さんがくすくす笑う。
「アイドル冥利に尽きますね。みゆみゆ。こんなイケメンにファンになってもらって」
「はい! 宮地さんかっこいいです。何か好きになっちゃいそう」
 アイドルの決まり文句だな。
 それでも、みゃーじサンは顔を真っ赤にして、「オレ、一生みゆみゆ愛だぜ!」と騒いでいた。
「社交辞令じゃないの?」
「違いますよぉ。もう、高尾君たら」
 オレもかなり失礼なことを言ったが、みゆみゆは怒らないでいてくれた。思ったよりもいい子なようだ。みゃーじサンも見る目あるな。
 水森は黙ってにこにこしていた。前から思っていたのだが、こいつには自分から目立とうと言う意識がない。黙っていても目立つから。こいつは真性のスターだ。
 オレだってあまり目立とうとは思わない質なのだが……。
「水森君は何か言いたいことは?」
「インタビュー、楽しかったです。高尾君て面白い人なんですよね」
「プライベートでも仲良しという情報が入りましたが」
 よしてくれよ。どこからそんな情報得てくるの? 佐倉サン。
「はい、高尾君達とは出会ってまだ日が浅いのですが、赤司さんのところへ実際に連れて行ってもらいました」
「赤司家ですかー、行ってみたいですねぇ。取材じゃなくてプライベートなんですね」
「はい。赤司さんのことは尊敬しています。オレとそんなに違わないのにしっかりしてました」
「流石、獣人会の責任者だけのことはありますね」
 佐倉サンがまとめる。赤司が褒められるとオレも嬉しい。だって、友達だもん。友達が褒められたら嬉しいよね。真ちゃんも何となく笑顔になっているような気がする。
「緑間君と高尾君は一緒に住んでいるんだよね。どうですか? 緑間君。家での高尾君は」
「ご飯とかいろいろ作ってくれるのだよ。料理はオレよりも上手いのだよ」
 真ちゃん、それ、惚気って言うんじゃ……。
「でも、バスケはオレの方が上手いのだよ」
 真ちゃん……そんなことわかってるよ。観客がどっと笑う。
 ちぇっ。いつかバスケうんと上手くなって、真ちゃん負かして悔し涙流させてやる。まぁ、オレはベッドでいつも泣かされているけど……下ネタかにゃ。
 このことは言わないようにしないと。良い子のみんなだって観てるんだし。
「いやー、いい友達ですねー。この間の『ゴールデンスタジオ』、反響が物凄かったんですよ」
 佐倉サンが口を挟んだ。あまりに自然だったので、なるほど、司会者とはこう言うものなのかと納得した。真ちゃんも一目置くのがわかるよ。
「ああ。あの時はオレもびっくりしたのだよ」
「オレもオレも」
「どうですか? 高尾君、タレントデビューなんてのは考えてます? 高尾君、今凄い人気者なんですよ。ネットでも」
「ネットは……あまりやらないんで……」
「どうせ一時的なものなのだよ」
 ――オレもそう思う。
「オレは、勉強とか、バスケとか楽しいんで……みゃーじサンもいるし」
「こら、たかお。みゃーじサンて呼ぶな」
「だって、みゃーじサンて可愛い……みゆみゆみたいなものじゃない」
「う……」
「そうですよぉ。みゃーじサン、可愛いじゃありませんか」
「みゆみゆにだったら……みゃーじサンて呼ばれても構いません」
 はい、そこで客の笑い声。
「本当に随分慕われているんですねぇ。宮地さん」
 水森はにこにこ。言葉数は決して多くないけど、人を和ませるところがある。
「ほら、手紙もこんなに」
 佐倉サンの言葉に、浅井サンが段ボール箱を持って来てくれた。
「これはほんの一部なんですよ」
 これがほんの一部?! じゃあ、不死テレビはこのままだとはがきや手紙で埋まってしまうじゃないだろうか……。
「もっと高尾君や緑間君を見てみたいという小学生の子達も多いんですよね。二人ともかっこいいから」
 にゃあ、照れるにゃ……。
「それに、アニマルヒューマン保護機構からの魔の手からの脱出劇! 水森君も大きく取り上げてましたよね」
「はい。オレも男の子だから興味があるんです」
 にゃんだよ、水森。男の子なんて年じゃないだろ。
「ああいう冒険活劇とか、悪者との対決とかは男の子は好きなんですよねぇ。女の子達は緑間君と高尾君の仲を知りたがってましたが」
 にゃあ……知ってどうするつもりだろう……。
「緑間君と高尾君のBL画像もアップされてんですよね、確か。BL本も届いてたりします?」
 佐倉サン、良い子も観てるって……。
 浅井サンの方を見ると、彼は苦笑していた。ほんとにしょーがねぇなぁ、と言いたげに。
「早速一冊届いていたのだよ。薄いやつ」
 真ちゃんがあまり面白くなさそうに答えた。
 オレも読んだけど、なかなか興味深かったよ。
 でも、佐倉サンは突発的状況に慣れてるって浅井サンは言ってたけど、佐倉サン自身が突発的状況を作り出しているんじゃ……。
「ラッキーアイテムがBL本だった時には何冊か持っていくのだよ」
「ああ、おは朝の」
「真ちゃん、おは朝狂なんだよ。佐倉サンのこともよく観てたようだよ」
 オレが横合いから口を出した。
「人事を尽くして尚且つおは朝のラッキーアイテムを持っていれば無敵なのだよ」
「おは朝をそんなに愛してくれてありがとう」
 佐倉サンが深々と頭を下げた。みゃーじサンが、「こいつのこだわりはちょっと異常なんだよ」と言って、数々のエピソードを紹介してくれた。その中にはオレも知らないものあった。オレは大いに笑ってしまう。
 客席も大いに湧いた。水森とみゆみゆも混じっておは朝トークで盛り上がる。水森もみゆみゆもおは朝が好きらしい。オレはそんなおは朝狂じゃないけど、真ちゃんは好きだからこの話題は楽しめた。

2019.07.28

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