猫獣人たかお 91

 朝練が終わって真ちゃんがオレに話しかけた。
「近藤さんから連絡が来たのだよ。かずなりに話があるそうだ」
 へぇ……オレに? 何だろ。
「かずなりのスマホの番号教えて欲しいそうだ。構わないか?」
 そうだねぇ……近藤サンだったら信頼できるかな。いろいろある人だけど。
「いいよ」
「じゃ、教えておくのだよ」
 しばらくして――。
 ぴろりろり~ん♪
 あ、メールだ。近藤サンからだ。
『高尾君、授業中かい? 君の友達のことだけど――ひな壇でなら見学OKって言ったよね。今日の午後六時に収録があるから』
 にゃあ、友達? オレは早速返信する。
『誰のことでしたっけ』
『君、忘れたのかい? 君が宮地さんて言ってた人だよ』
 みゃ! 思い出した! みゃーじサン!
 ――駒井サン、約束覚えててくれたんだ……。
『わかりました! みゃーじサンに報告します』
『頼んだよ。収録には君達にも来て欲しい。不死テレビで待ってるよ』
 教授が来て、授業が始まろうとする。

 昼休み、オレはみゃーじサンにメールを打った。
『みゃーじサン、みゃーじサン、いい知らせ。みゃーじサンも『ゴールデンスタジオ』でひな壇でみゆみゆ見られるよ。今日の午後六時に』
『ちょっと待てたかお、話が見えない』
『今日の午後六時に『ゴールデンスタジオ』の収録があるんだって。不死テレビに午後六時ね』
『そういや、ゲストにみゆみゆが来るって話だったよな。――わりぃけど、行けるかどうかわかんねぇ』
 ――え? 何で?
 みゃーじサン、あんなにみゆみゆ好きだったじゃん。
 それとも――オレのせい?
 オレがいい気になってテレビ局のこととか話したから、みゃーじサン怒っちゃったの? もしかして嫉妬? ううん。みゃーじサンは人に嫉妬する人ではない……よね。
 オレはまたスマホの画面を打ったが、みゃーじサンから返事は――なかった。
「真ちゃーん!」
 オレの目からはぶわっと涙が。
「――ど、どうした、かずなり!」
 そう。オレと真ちゃんは一緒に弁卓を囲んでいた。
「オレ、みゃーじサンに嫌われちゃったかも……」
 テレビ局とか、みゆみゆの話とかしたことで――そう続けようとしたら、真ちゃんがぽんとオレの頭に手を置いた。
「かずなり。宮地先輩は意味なくお前を嫌う男ではないのだよ」
「う……でも、原因は作っちゃったかも……」
「馬鹿なのだよ。かずなり」
 うー。真ちゃん、馬鹿ってことないだろ。馬鹿って言ったら自分が馬鹿なんだからね!
「宮地先輩は口は悪いが本物の漢なのだよ。お前がそれを信じなくてどうする」
「う、うううう……」
 そうだね。悔しいけど真ちゃんの言う通りだ。オレは言葉もない。
 みゃーじサン、信じてる。
「そろそろ予鈴の時間だ。行くぞ。かずなり」
「うん!」
 東京の天気、今日は晴れ。

 バスケ部を休ませてもらうことをマー坊に伝え、オレ達は不死テレビに着いた。みゃーじサンにもメールを送った。やっぱり返事は来ない。――でも、信じるって自分に約束したんだ。
 ――と、その時だった。
 はちみつ色の髪の毛と、整っているけどちょっと怖い……というか迫力のある顔のみゃーじサンが。
「みゃ、みゃーじサン?!」
「おー、たかおに緑間。待ってたぜ」
「みゃーじさーん!」
 オレはみゃーじサンに抱き着いた。にゃ?! こんなことをすると真ちゃんに妬かれたり、水森に説教されたりするのかにゃ?
「宮地先輩……かずなりは宮地先輩に嫌われたんではないかと心配してて……」
「バーカ。何でお前を嫌うことがあるんだ。たかお。あ、そうだ。みゆみゆのサインありがとな」
 みゃーじサンは、ぽんとオレの頭を軽くはたく。
「でも、行けるかどうかわかんないって……」
「ああ、オレの本分はバスケだろ? いつか有名なバスケ選手になって、みゆみゆに応援してもらうのが夢なんだ」
「にゃあ……」
「だから――お前は何にも心配しなくていい訳」
 そっか。良かった。みゃーじサンにも笑顔が戻る。
「バスケの練習しようかと思ったけど、せっかくテレビ局に行けるチャンスだもんな」
「みゃあ……」
 オレ達は局のビルに入って行った。
「あ、お前ら」
 浅井サンだ。
「浅井さーん。おーい」
「む。そちらの色男は高尾君達の友達か?」
「宮地清志と言います。たかお達の先輩です。――まぁ、一年歳食ってるだけだけど」
「面白い人だ。話は近藤から聞いてます。どうぞこちらに」
 浅井サンも普段の口の悪さが影を潜めている。――みゃーじサンもだけどね。
「んー、でも、アンタみたいなイケメンがひな壇じゃ勿体ないな」
 すぐ元に戻った浅井サン。
「ひな壇でいいです。みゆみゆが見られれば」
「宮地君はアイドルファンか?」
「――まぁ。ドルオタです」
「君の大学にはイケメンがいっぱいいるのかな?」
「さぁ、それはどうでしょう」
「あの大学には有名な赤司征十郎もいるしな」
「同じバスケ部ですよ」
「オレと同じなの~」
「邪魔するな、たかお。轢くぞ」
「うへぇ、カンベンカンベン」
「あはは。それが君の素か」
 浅井サンが笑っている。真ちゃんも微笑んでいるみたい。
「そうなんすよ。宮地先輩ってね。ほんとはとても怖いんだ」
「誰が怖いって? あ? もっぺん言うけど――轢くぞ」
「ははは、面白いキャラだ。やっぱりひな壇じゃ勿体ねぇな。――ああ、近藤さん?」
 浅井サンは近藤サンに電話入れてるようだ。
「うん。ちょっと皆戸惑うかもしれないけど、サクちゃんがいるから。あの人は突発的状況に慣れてるから」
「佐倉さんも大した男のようだったのだよ」
「知ってるの? 真ちゃん」
「まぁな。――『おは朝』の初代司会者だった人だからな」
「へぇ……知らなかった」
 ていうか、真ちゃんて絶対おは朝オタクだよね。みゃーじサンと木村サンはドルオタだし、大坪サンも隠れドルオタだって噂だし――オレの周りにはオタクがいっぱい。
 浅井サンがスマホを手に、にっこり笑った。
「宮地君。急遽君も出演できることになったよ。近藤サンに話はつけといたから。――あの人も現場に出たがってたよ。あの人、現場人間だからなぁ。――あ、そうそう。宮地君。一応打ち合わせには出てくれよな」
 良かったね、みゃーじサン。みゃーじサンもそこらのアイドルよりかっこいいから人気出るよ。きっと。

2019.07.07

次へ→

BACK/HOME