猫獣人たかお 9

「カントクー。青峰君連れて来ましたー。きーちゃんと二人がかりで」
 桃井サンが黄瀬ちゃんと青峰を引っ張ってくる。
「ちっ。たくよー。人が気持ち良く昼寝してる時に……」
 青峰は舌打ちをする。
「ありがとう。そこ置いてくれる?」
 リコさんが桃井サンに言う。
「ふー。苦労したっスよ」
 黄瀬ちゃんは額の汗を拭う真似をする。
「キャー! 黄瀬くーん!」
「ふみっ!」
 女の子達の黄色い声にオレはびっくりした。リコさんが説明する。
「あ、たかお君は知らなかったわよね。黄瀬君が出てくると、いつもああなの」
「あー、オレ、一応モデルとかしてますんで」
「へぇー……」
 意外だった。イケメンだなとは思ってたけど。でも、真ちゃんの方がいい男だよなー。なーんて思っていると。
「よぉ、カズ」
 なんて、青峰が話しかけて来る。
「緑間のシュート見たか?」
「見たよー。すごかったー」
「んじゃ、オレもちょっと体を動かすか」
「ちょっと青峰君、まだ柔軟体操……」
「いらねーよ。ボール寄越せ」
「……ミニゲームは一旦中断ね」
 自分の顎に手をかけたリコさんがしようがなさそうに呟いた。
「まぁ、仕方ないだろうな」
 にゃっ! 赤司! そう言えばこいつもいたんだった。リコさんが手を挙げた。
「はーい! 一旦やめー!」
「なんだ……盛り上がってきたところなのに」
 コガが不満そうな顔をする。
「…………」
「青峰が来たんじゃ仕方ない、だって? うん、まぁそうだな。水戸部」
 コガはすごいと素直に思えるけれど……水戸部ってコガがいない時はどうしているんだろう。あんなにだんまりで。
「ごめんね。小金井君。でも、青峰君も大したもんだわよー。何たって、キセキの世代だもの。彼の動き見て損はないわよ」
 キセキの世代……コガがちらっと言ってたけど、何のことだろ。
「実力だよ。リコ、ボール早く貸せ」
「はいはい。わかったわよ。ぽんぽん言わないでよ。もう」
 リコさんは青峰にボールを投げた。青峰がそれを受け取る。
「んじゃ、ちょっと」
 青峰は横に飛んで後ろからボールをリングに抛った。ぱすっとボールがリングに入った。
「すっげーーーー!!!」
「まぁな」
 青峰がにやりと笑う。
「あんなでたらめなフォームで入るなんてすげー!」
「……そっちかよ。それにしてもカズ、お前もバスケわかるんだな。テツ2号と同じで。まぁ、バスケに詳しい獣人なんて今時珍しくもねぇけど」
「オレ、真ちゃんと一緒にバスケの番組観てたから」
「おめーら、もしかして同棲……?」
 さすがに驚いたらしく、青峰が目を瞠った。そうすると、ちょっとあどけなくなる。いつもはひと一人殺ったことのありそうな顔なのに……。
「違うのだよ。かずなりは元々はオレの飼い猫だったのだよ」
 真ちゃんが慌てたように説明する。だが、一緒に暮らしていたのは否定しない。――嬉しいな。オレは、真ちゃんの特別な猫なのだ。
「わかったわかった。緑間。お前もやっぱり獣人が好きだったんだな。下手な嘘までついて……」
「違うのだよ……かずなりは猫だったのだよ。ある日突然獣人になってたのだよ」
「緑間君、ボクも、それは信じることができません」
 にゃっ! てっちゃんまでそう言う?! オレのこと変身させたかげ様……違った、神様そっくりなのに?!
「たかお……大変だな」
 2号が言う。ああ、そうだよ、大変だよ。本当のこと言ってるだけなのに信じてもらえないなんて……。
「獣人は普通、生まれつきなんですよ」
 にゃあ……そうだったのか……。オレは特殊ケースなわけね。オレには同じような仲間はいない。オレはうるっとなった。
「2号ーーーー!!!! オレの味方は真ちゃんとお前しかいないーーーーーーーー!!!!」
 オレは2号の首っ玉に噛り付いた。
「でも、緑間って、確か猫嫌いじゃなかったっけ?」
 オレを無視して青峰が話を進める。
「なぁんだ。おめー、本当は猫好きだったんだな。いつか猫連れて遊びに行ってやろうか?」
「止すのだよ。青峰。オレの猫嫌いは変わっていない。かずなりだから平気だったんだ」
「へぇー、お熱いことで」
 青峰がぴぃっと口笛を吹いた。
「じゃあな。カントクさん。オレもう帰るわ。チンケなミニゲームに参加したってしょーがねぇもん」
「あっ、ちょっと、青峰君!」
「カントク。青峰君呼び戻して来ます!」
「お願いね。桃井さん」
 桃井サンもどこかへ行ってしまった。
「桃井サンはこのバスケ部ではどういう仕事をしているの?」
「彼女はこの部のマネージャーなのだよ」
 2号に訊いたのに真ちゃんが答えた。
「マネージャーってどういうことすんの?」
「選手の面倒を見たり差し入れをしたり情報収集したり――サボリ魔な部員をここに引っ立てたりするのだよ」
 あ、台詞の最後は青峰のことを皮肉ったな。
「まぁ、桃井とリコの手作りの差し入れは死んでも食いたくはないがな」
「なにそれ、どういう意味?」
 リコさんは笑っているが、怖いオーラを出している。真ちゃん、青峰や赤司より、今のリコさんの方が怖いよぉ。オレはぷるぷる震えながら真ちゃんの後ろに隠れる。
「リコ。かずなりが怯えているのだよ」
「緑間君……それよりもさっきの台詞は勿論冗談よね」
「何が冗談だ。オレは嘘は吐かん」
 真ちゃん! こういう時は黙って相手の言うこと聞くの! オレは真ちゃんにそう言ってやろうとした。だが、2号が、
「放っておけ」
 と、一言放った。2号、オレが真ちゃんに何か言うこと、わかったんだ。すげぇ。
「カントク! 青峰君見失いました!」
「そう……桃井さんご苦労様。青峰君も、逃げるのがだんだん上手くなってきたわね」
「堀北マイちゃんの写真集でも釣れなくなったし」
「少しは賢くなったのね。まぁいいわ。青峰君のことについては、後で話し合いましょ」
「はい」
「まーったく。不真面目なヤツだなぁ。青峰も」
 タイガが呆れたように呟いた。タイガは、ちゃんと部活出ているだけ真面目だ。
「峰ちんずるいよねー。オレ、早く終わらせてお菓子食いたい」
「ダメよ。紫原君までそう言うこと言っちゃあ」
「へーい」

「――カントク、ミニゲームも終わったから、今度はオレも何かやるっス」
 黄瀬ちゃんが言う。黄色い声が更に派手に上がった。――黄瀬ちゃんのプレイは青峰に似ていた。
「んじゃ、次は緑間っちの技で」
 黄瀬ちゃんが真ちゃんと同じようなフォームでゴールを決める。ついに失神する女子が現れた。オレは面白くなかった。真ちゃんの技は黄瀬ちゃんなんかに簡単に真似されていいものじゃない。

2017.2.20

次へ→

BACK/HOME