猫獣人たかお 10

「いい加減機嫌直して欲しいっス。たかおっち」
「にゃだ! 黄瀬ちゃん、真ちゃんの技真似した!」
「かずなり……あれは、黄瀬のスタイルなのだよ。技をコピーするというのは」
「にゃあ……真ちゃんがそう言うなら……」
 でも、やっぱりまだ腑におちないなぁ……。
「あ、ほら、たかおっち。マジバおごるっスから。バニラシェイクも頼んでいいっスよ」
 にゃっ! バニラシェイク!
 オレの心は動いた。てっちゃんもバニラシェイクが好きだったなぁ。美味しいもんね。オレもあの甘さが大好き。
 ちなみに今いるメンバーは、オレ、真ちゃん、黄瀬ちゃん、てっちゃん、タイガである。
「黒子っちにもおごるっスよ」
 前にも言ったと思うけど、黒子というのは、てっちゃんのことなのだ。
「んじゃあ、オレの分もおごってくれるんだな」
「えー……」
 黄瀬ちゃんが明らかに嫌がっている。そりゃそうだろうなぁ。タイガの食欲、ハンパじゃないもんなぁ……。この間見た時はびっくりしたよ。
「オレ、今回は火神っちにはできれば自分で払って欲しいなぁ……て思ってるんスけど」
 昨日、タイガの食べた分のお金を払いながら、黄瀬ちゃんが半泣きになっていたのを思い出す。
「んだよ。オレの分は払えねぇと言うのかよ。黒子の分はおごるくせに」
 タイガは虎の迫力で黄瀬ちゃんに迫った。普通だったら、プレッシャーに心が折れそうになるとこだけど、黄瀬ちゃんは負けない。
「火神っちは食べ過ぎなんスよ! 実家から仕送りもらってんスから、それで何とかして欲しいっス」
「お前だってモデルの仕事やってて稼いでいるだろうが」
「あーもう! 黒子っち! どうして火神っちなんか連れてきたんスか」
「すみません。でも、火神君のことは彼のお父さんからくれぐれも宜しくと言われていたもので」
「お人良しなんだから! 黒子っちってば! ――まぁ、そんなところもオレは好きっスけど!」
「ねぇ、黄瀬ちゃんてもしかして――」
 オレはこそっと真ちゃんに囁く。
「ああ。黄瀬は黒子に恋をしているのだよ。多分な」
「やっぱり」
 オレは納得した。
 黄瀬ちゃんは相変わらず、
「今回は火神っちには自分で払って欲しいっス~」
 と頑張って抵抗していた。
「お前ら、うるさいのだよ。じゃんけんで決めるのだよ」
「じゃんけん……?」
「そうっスね。恨みっこなしっスよ!」
「よし! オレが勝ったらバニラシェイクもつけてもらうからな!」
「絶対負けらんないっス!」
 その後どうなったかと言うと――
 黄瀬ちゃんがチョキで負けて泣いていた。
 ……可哀想な黄瀬ちゃん……。

「はー、食った食った」
 タイガは満足そうだ。
「食った食ったじゃないっスよ。火神っちに付き合ってたら、オレ破産っスよ」
 黄瀬ちゃんは涙声だ。
「仕方ねぇだろ? じゃんけん負けたんだし。代わりに駅まで送ってやっからよ」
「送ってもらってもねぇ……オレ、女じゃないし、こう見えても腕力あるから、大抵の相手には負けないっスよ」
「おっ、あれ、青峰じゃね」
「ああ」
 タイガの言葉に真ちゃんも頷いた。
 野外のバスケットコート(って言うのかな?)で、青峰が練習をしていた。
「あいつ……部活はフケるくせに、あんなところで一人でバスケしてんだな」
「青峰君はあれでもバスケが好きですから」
 てっちゃんが言った。ふーん……本当はバスケ好きなんだ、青峰。何で部活出ないんだろ。
「よし、ちょっと挑んでみっか」
「火神君。無茶はよしてください」
 てっちゃんがタイガを止めようとする。
「何だよー。1on1(ワンオンワン)で勝負しようってだけだぜ」
「う……まぁ、それなら……」
 てっちゃんがタイガから手を離した。
「おー、青峰とタイガの一騎打ち?!」
 オレはわくわくした。なんかすげぇもんが見れそうだ!
「仕様がない。オレ達もついて行くのだよ」
「にゃあ!」
 オレは尻尾をぴぃんと立てた。
「待ってくださいっスよ~」
 黄瀬ちゃんもついて来た。

「ふぅっ……」
「よぉ、青峰」
 タイガが、息を吐いて汗を手で拭っている青峰に声をかけた。
「1on1、やんね?」
「あぁ……! 今の貴様じゃ負ける気しねぇよ」
「いいからいいから」
「――わぁった。相手になってやんよ」
「……なぁ、てっちゃん、どっちが勝つと思う」
「――青峰君ですね」
 あらら、瞬殺。タイガ可哀想……。
「ねぇ、てっちゃん、タイガの飼い主だったら、タイガの力を信じてやれば……」
「いい勝負にはなるでしょう。ただし、今、一対一で勝つのは青峰君です」
「オレも、黒子と同じ意見なのだよ」
「…………」
 真ちゃんまで……まぁ、真ちゃんが言うんなら、そうなんだろうな……。
 ――てっちゃんの言う通り、青峰が勝った。つか、あのでたらめなフォームでよくゴールにボールが入るな……。それも見事に。謎だ。
「くっそう……!」
 タイガは地面に拳を叩きつけた。
「おう、タイガ、この前よりは上手くなってんぞ」
「え?」
「さーてと。オレは帰るか」
 オレは夜目が効く方だ。俯瞰の視点で試合を見ることもできる。――仲間達に訊くと、オレは異常に視力がいいんだそうだ。しかも、俯瞰図で世の中を見ることのできる猫など、オレの他に誰もいない。特殊能力と言うんだろうな、と長老が語っていた。
 青峰のタイガを見る目は、優しかった。オレのことを真ちゃんが見る目と同じ――。
 もしかして、青峰はタイガが好きなんじゃないだろうか……。
「にゃあ、真ちゃん……」
「あいつは試合で勝って勝負に負けているのだよ。――まぁ、察しろ」
「にゃあ……」
「それに、火神には黒子がいるからな」
 てっちゃんとタイガは両思いなんだ。それは傍で見ていてよくわかる。
 青峰は桃井サンが好きなんだと思ってた。
「真ちゃん、桃井サンは?」
「ああ、あいつは黒子が好きなのだよ。昔、黄瀬から聞いた」
 にゃあ……。上手くいかないものなんだね。人間てややこしい。それにしても、てっちゃんて案外モテるんだな。

2017.3.4

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