猫獣人たかお 84

 前号までのあらすじ。オレはいいヤツなんだがどうも好きになれない水森と、慣れない対談をしていた。赤司と獣人会のことも喋った。

高尾「水森サン、赤司好きなの?」
水森「好きって言うかファンなんです」

 水森がぽっと顔を赤くした。――浅井サンに言ってやろ。

高尾「水森サンが赤司好きなの知られると、誤解されるんじゃない?」
水森「勿論、赤司さんは憧れの人ですが、僕好きな人いますし」

 良かったね。浅井サン。どうも感情が腑に落ちないのは別にして、心の中でおめでとうを言わせてもらうよ。

高尾「赤司、すごい人だからね」
水森「はい、それはもう!」
高尾「獣人会ではリーダー的役割だし」
水森「獣人会は入りたいと言う人でいっぱいですよ。普通の人間もいます」

 ――それは知らなかった。

高尾「獣人会は入会希望者は大歓迎ですよ」
水森「反獣人派のスパイもいるので、その辺は入会審査厳しくしているようですが」

 へぇ……それも知らなかった。何だか来る者拒まずって感じだったから。
 でもオレ、知らないことが多いにゃあ。それに比べて、水森はよく勉強している。それは認めてやってもいい。
 オレは真ちゃんに夢中だから、世間のこと、何も知らない。

高尾「水森サン、よく調べましたね」
水森「何も知らないと、インタビューアーさんに失礼ですからね。僕、インタビューイになることも多いから」

 インタビューイとは、インタビューされる側のこと。

高尾「水森サン、これ、インタビューなの? オレは対談って聞いてたんだけど」
水森「あ、そうでしたね。ごめんなさい」

 やっぱこいつはどっか抜けてる。
 今度はこっちから質問してやろう。

高尾「山田興業についてどう思います?」
水森「酷いですね」

 そう言って水森は唇を噛み締めた。

水森「僕は許せないですよ。獣人だから何してもいいって訳ではないですよね。何人かの友達に訊いてみましたが、皆、山田興業についてはいい噂を聞かない、と言っていました。
高尾「たったの数人?」
水森「ええ。お恥ずかしながら。もっと詳しく事前調査できたら良かったんだけど」
高尾「赤司だったら詳しいよ。『獣人会』に――」

 そう言おうとして、オレは、はっとした。
 オレ、何を言おうとしてたんだ?
 水森サンも獣人会に入ってみたら――って。
 勿論、水森なら否やはないだろう。赤司だって伊達に天帝の眼を持っていない。あ、天帝の眼と言うのは、赤司の特技みたいなもんね。猫をやめたオレが言う筋合いはないけど、あの人、人間やめちゃってるよなぁ……。

水森「どうしました? 高尾君」
高尾「いや、あのね――水森サンには、獣人会に入るつもりはないのかなぁって」

 何だこれ。
 オレ、いつの間に水森誘ってるよ。獣人会に。どうなってんの? いや、オレの言う台詞じゃないんだけど。
 ガタッ、と椅子から水森が立ち上がる音がした。
 ――怒らせたかな。何で怒ったのかわからないけれど。

高尾「水森さ……」
水森「それ、本当ですか?」
高尾「え?」
水森「本当に僕は獣人会に入ってもいいんですか? 事と次第によっては、僕は赤司さんのところへ直接出向きますよ」

 おかしなことになってしまった。
 うん。行けばいいんじゃない? ――なんて気楽に話している場合ではない。
 それに――赤司は多分、水森を歓迎する。

高尾「オレ、案内するよ」

 やだけど。

高尾「仕事が終わったら赤司のところへ行きましょう」
水森「やったぁ! ――あ、すみません」

 妙なことになっちゃったなぁ……。真ちゃんが聞いたらどう思うかな。でも、言い出しっぺはオレだからなぁ……今更なかったことにもできないし。
 水森は明らかにうきうきした様子で、対談は続き、そして終わった。

「高尾! 見直したぞ!」
 対談も終わってふー、やれやれと思っていた時に、浅井サンに声をかけられた。
「お前はやっぱりオレの見込んだ通りだ。お前は優しいヤツだったんだなぁ」
 何言ってんの? この人。
「涼はどっかズレててな、獣人会に入る方法をずうっと考えてたんだ。行けばいいじゃないか、と何度も背中を押したけど、一向に動こうとせず、考えてばかりだった。高尾の招待と言えば、赤司は取り敢えずは会ってくれるさ!」
「あー、あれは……」
 単なる成り行きです、とは言えない雰囲気だなぁ……。
 それに、水森は赤司も好きになるだろうから。水森って人たらしなんだもん。努力家で謙虚で――。オレ、何で水森が嫌いかにゃあ。
 同類嫌悪、ね。水森はオレのことを好意的に見ているようだけど。
「オレも行きたいけど仕事があるんだ。じゃ」
 浅井サンはバタバタと走って行った。埃が経つよ。でも、流石天下の不死テレビ。廊下までピカピカにしてある。社員の人達は掃除のおばちゃんに感謝しないと。おじちゃんでもいいけど。

「高尾!」
 真ちゃんがやってきた。
「今ちょうど打ち合わせが終わったところなのだよ」
「俺と水森の対談の次は真ちゃんも入るんだよね」
 話には聞いてたけど、テレビに映るってほんと忙しい。
「オレ、どうすればいいの? 真ちゃんに任せっきりでいいの?」
「かずなり、お前はいつものかずなりでいい。それから、浅井さんから話は聞いたのだよ。お前は水森を獣人会に誘ったそうだな。ちゃんと和解できたんだな。お前も大人になったのだよ」
 和解ねぇ……。でも、真ちゃんが頭を優しく撫でてくれたから、水森に豆粒ほどの感謝はしてやってもいいかな、とそう思えた。
 あくまで、豆粒ほどだよ!

2019.04.10

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