猫獣人たかお 83

 夕食を終えてリラックスしているとまた電話が来た。近藤サンかららしい。
「――近藤サン、何だって?」
「明日また不死テレビに来いと言うのだよ――」
「あー、そうなんだ。『ゴールデンスタジオ』の収録だね」
「……そう。そして……お前は水森涼にも会うと言うことなのだよ」
「水森……?」
 オレの耳がぴくっと動く。
「水森も売れてきてるみたいなのだよ。ほら、今日もドラマの宣伝をしていたのだよ」
 あー、その時オレ、ボールにじゃれついてたからなぁ……。
「明日、お前は水森と対談するのだよ。かずなり」
「――わかった」
 何となくそんな話のような気がしていた。
「でもさ、真ちゃん。オレらそろそろ学校だぜ。ま、何とかなると思うけど」
「かずなり、何拗ねている。水森は悪いヤツではないのだよ」
 あ、真ちゃんわかったんだ。オレが拗ねていること。まぁ、声音とか雰囲気とかからかな。それに、オレ達心が通じ合っているし。
 そう。水森はいいヤツ。とってもいいヤツ。――だから、オレは悩んでいる。
 水森はどっこも悪くないもんね。オレがあいつに馴染めないだけで。
 あ。いじめをするヤツの気持ちわかった。何となく虫が好かないって人、いるんだよね。だから攻撃したくなるとか。
 でも、水森はスターの卵だし、オレはいじめなんてするの大嫌いだし。――気持ちがわかるのといじめを実行するのとでは、天と地の差があるよね。
「嫌そうなのだよ」
 真ちゃんにはオレの気持ちがわかるらしい。
「そうだねぇ……」
「そんなに嫌か? 水森は」
「水森もだけど、水森を嫌いな自分が嫌い」
 これも同類嫌悪ってヤツかにゃあ。それに、どっかで見たことがあるような台詞だ。
「我慢なのだよ。水森は性のいいだけマシではないか。それにオレは――その……かずなりの方が好きなのだよ」
 真ちゃん……これがキセキのツンデレ男なんて言われてたなんて……オレでもコケちゃうよ。
 デレになった真ちゃん……可愛くて大好き。すりすりしちゃお。
「対談、頑張って来るね」
「今回はかずなりだけでもいいんじゃないかと思ったんだが、オレにも別件で用があるらしいのだよ。――かずなりを一人で行かせてまたどこぞの組織にさらわれても困るからな」
 オレ、それはないと思う。
 オレ達は既に一部ではすごい有名人だ。誰かの目が常にある。オレはそれが鬱陶しくもあったけど、或る意味安全。
 でも――有名人を狙ってくる人もいるか。
 やっぱり身辺には気をつけた方がいいみたい。パソコンで盗撮なんてニュースもあるしね。
「かずなり。オレは、お前が死ぬまでお前を護ってやるのだよ」
 真ちゃんが真剣な表情でオレの頭に手を置く。
「なぁにそれ。関白宣言?」
「いや、違う。ん? 違わないのかな……」
「真ちゃん……この頃デレてばかりだね。ツンはどうしたの?」
「デレとかツンとか、何なのだよ。――ま、ツンデレぐらいはオレだってわかるのだよ。――家族以外の誰かを護りたい。こんな気持ちは久しぶりなのだよ」
「リコさんや桃井サンは――」
「あの二人は一応女だから――」
「護りたいって思う訳?」
「『護りたい』というより『護らなきゃ』だな。――何だ? かずなり。妬いてんのか?」
「少しね」
「わかった。こっちに来るのだよ」
「にゃん」
「ちょっと髪が乱れてるな。直してやるのだよ」
 真ちゃんに髪を触られると気持ちがいい。オレはいつの間にか寝てしまっていた。

 翌日、オレ達は不死テレビにいた。
「待ってたよ。高尾君」
 水森だ。こっちは待っててもらっても嬉しくないっつーの。
 ただ、水森の澄んだ目を見ていると、そう思うのも罪悪感が起きる。
 ……どうしたらいいんだろうな。この感情。
 水森はいいヤツだよ。そうさ、いいヤツさ。皆のお気に入り。でも、オレはそれが気に入らない。
 遠藤サンが寄って来た。
「緑間君、ちょっと――」
「はい」
 あー、行かないでぇ、真ちゃん。
 真ちゃんが「頑張れ」と目で伝えて来た。あれ? そんな気がしてくるだけかな。
「高尾君はこっちだよ」
 水森が呼ぶ。ううん、気が進まないにゃあ……。
「それでは、高尾君の紹介から始めるね。勿論その後でオレも。オレを知っている人はまだまだ少ないだろうからね」
 けーっ。イヤミなヤツ!
「アンタ、スターの卵って呼ばれてんの知ってんの?」
 水森はきょとんとした。そして、腹を抱えて笑い出した。
「あーっはっはっはっ。高尾君て面白い冗談言うね」
「オレだって冗談だと思っているよ」
「オレは地味だから違うよ」
 水森は多分本当のことを言っているんだと思う。いちいちカンに触る奴だけど――悪気はない。だから厄介なんだ。
 例えて言うなら、オレと水森の関係はリコさんと桃井サンの関係に似てる……でも、桃井サンはわざとの時もあるからにゃあ。
「ま、いいや。インタビューに入ろう」
「カメラ回しますよー」
 カメラマンさんが言う。カメラとても大きい。
「自然に話してくれていいからね。後で編集するから」
「さん、に、いち、キュー」
 ここら辺からは一部抜粋。

水森「高尾君はいろんな体験をして来られたんですねぇ」
高尾「まぁね。アニマルヒューマン保護機構にさらわれた時はびっくりしたよ」
水森「そこで酷い目に遭ったとか……」
高尾「うーん、でも、友達が守ってくれていたから……」
水森「友達って?」
高尾「今吉翔一さんと花宮真さんです。船の中で会いました」
水森「アニマルヒューマン保護機構は今や大変な騒ぎだそうですね」
高尾「関係ありません。――いや、ないこともないけど」
水森「今吉さんと花宮さんとは、今でも親交はあるのですか?」
高尾「この間会ったよ。ゴールデン街で酒飲むんだーとか言ってました」
水森「ゴールデン街とは渋いですねぇ」
高尾「今吉さんが言ったっけかな?」
水森「ゴールデン街は僕も行ったことありますよ。その時は一人ではなかったけれど」

 なんだかんだで話は進んで行き――。

水森「赤司さんとはどこで知り合ったんです?」
高尾「真ちゃんと一緒に学校行ったら会えた」
水森「すごい! ラッキーじゃありませんか!」

 水森のヤツ、途端に目を輝かせやがった――。オレはチャンスだと思い、赤司のことも獣人会のことも喋った。

2019.03.31

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