猫獣人たかお 81
オレ達はちょこっと獣人会のことについて話した。オレ達が話するんなら、獣人会のことは避けられないと思って。
そして――話題は真ちゃんのラッキーアイテムについてに移る。
「緑間君は律儀に毎日おは朝で紹介するラッキーアイテムを持ち歩いてるとのことですが、今日もなんですか?」
「はい! 勿論です!」
「今日は確かトランプでしたよね」
「違います。UNOです」
「まぁまぁ、真ちゃん、カードゲームには変わりないじゃん」
オレがフォローしようとする。――まぁ、そういう時って火に油を注ぐ結果に終わっちゃうことが多いんだけどね。
「黙れかずなり。――的田アナはUNO持って来てますよね?」
「いや、私は今日は――」
「おは朝の司会者がそんなことではダメなのだよ!」
真ちゃんが滔々とラッキーアイテムについて約三十分間も述べた。――オレには何となく予想がついたことだけどねぇ……。的田アナも安西アナもぽかんとしていた。
――でも、これがまた反響を呼んだらしい。
「あ、出て来た!」
「緑間くーん! 高尾くーん!」
「私の彼も獣人なんだけどー」
数名の女子に囲まれた。
「な……何なのだよ。お前らは!」
真ちゃんはこういうシチュエーションに慣れていないらしい。オレも慣れていないけどさ。
「緑間君と高尾君のファンです~」
「今日の放送はワンセグで観ました!」
「これからもチェックしますね。どの番組に出られるんでしょう」
「あのー……」
「高尾君、緑間君」
――あ、浅井サンだ。『ゴールデンスタジオ』の。
「君達……彼らは来週の『ゴールデンスタジオ』に出るよ。何なら録画しといてくれ。な?」
「きゃーっ!!」
女の子達は黄色い悲鳴を上げた。
「浅井さん、何でここに……?」
真ちゃんは呆然としている。
「打ち合わせ兼、送り届けってヤツかな。街を歩けばお前らすごい人気だぞ。きっと」
「はーい。オレ、浅井サンの話に乗りまっす」
水森の彼氏とはいえ、浅井サンに罪はないもんなぁ……。
「んじゃ、こっちへ」
オレ達は浅井サンの回してくれた車に乗った。――出発する。
「高尾くーん、今度クッキー持ってくからねー!」
女性ファンの一人のセリフに、オレの耳がぴくっと動いた。クッキーは大好物だ。近頃忙しくてお菓子なんて作っている暇なかったもんにゃあ……。
「窓を閉めるのだよ」
真ちゃんがご機嫌斜め。ははーん。わかったぞ。
「真ちゃん、妬いてんの?」
「馬鹿を言え。ああいうファンの差し入れには何が入ってるかわからないのだよ」
「うーん。大抵の物は大丈夫だが、時々ヤバいヤツがあるからな。心してかかれよ。二人とも」
浅井サンはさすがに詳しい。
「――だ、そうだ。浅ましい食欲にかられると痛い目を見るから気をつけるのだよ」
「はーい」
真ちゃんにまで言われ、オレはしゅん、となった。
「まぁ、そうがっかりすることはないのだよ。後でかずなりの好きなフルーツケーキをおごってやるのだよ。おは朝に出演したギャラで」
「にゃん!」
こういうところがあるから、真ちゃん大好きなんだよなぁ……。
車の中で簡単な打ち合わせらしきものをした後、浅井サンがオレに言った。
「お前ら、これからもっと忙しくなるぞ」――と。
そういえば、近藤サンもそんなことを言っていたような……。
とにかく、みゆみゆに会ったらみゃーじサンのこと話さないと……。
カシャッ。
――あ、今、写真撮られた。
「堂々としているのだよ」
真ちゃんに耳打ちされた。ていうか、そこ弱いんだけど。
「うん。オレ、負けない」
「その意気だ」
オレと真ちゃんは家に入って行った。――住処の位置がバレて大丈夫かにゃあ……。
「今日のおは朝は録画しておいたのだよ。見るか?」
「うん!」
テレビに映った真ちゃんはやっぱりかっこいいなぁ……。録画した映像を観ながらそう思っていると――。
「やっぱりかずなりはテレビ映りがいいのだよ」
――真ちゃんの独り言。
にゃあ! 真ちゃんに褒められた!
「ねぇ、真ちゃん。真ちゃんが有名になって可愛い娘に囲まれても――それでもオレのこと、好きでいてくれる?」
「当たり前なのだよ!」
真ちゃんがぎゅっと抱き締めてくれた。
「オレのかずなりへの想いは一生ものなのだよ。かずなりこそ、モテるんじゃないか? その――こんなに可愛いのだから」
にゃあん……可愛いのは真ちゃんだよ……。
オレはすりっと真ちゃんの体に自分の体を摺り寄せた。
「これが終わったらたっぷり可愛がってやるから、今はテレビを観るのだよ」
「はーい」
真ちゃんが激し過ぎて疲れることもあるけど、気持ちいいから文句は言えないよね。オレも望んでいることだし。――オレは真ちゃんとおは朝を全部観た。その後、オレ達は寝室へ引っ込んだ。
「にゃっ、にゃっ……」
「かずなり、かずなり……」
「にゃあああああっ!」
そう叫んでオレは果てた。
「もう少ししたいところだが、課題がまだ残っているのだよ」
ふぅん、真ちゃんも大変だね。てか、オレも残っている課題が!
「――二人でやらない?」
「そうだな」
真ちゃんが笑った。わーい。真ちゃんがデレたー。真ちゃんみたいな人のこと、ツンデレって言うんだよね。オレに対しては最近デレばかりだけれど。
でも、オレも真ちゃんが大好きだから、人のこと言えないか。
「そう言えば、かずなりにも新しいパソコンとか買ってやんないといけないのだよ」
今の情報化社会、レポートを書くにしても、パソコンが重要らしい。
「でも、オレ、パソコンにはいまひとつ慣れないにゃあ……」
「すぐにパソコンがないと生きていけなくなる。我慢するんだな。――オレもメールの束を見るのはうんざりしているのだが」
「はーい」
オレはちょっと休んでから課題をすることにした。真ちゃんのスマホが鳴った。
「あ、赤司からなのだよ。――『獣人会』のことを話題にしてくれてありがとう、だって。早速入会希望者が後を絶たないらしい」
「良かった……」
これで、獣人の待遇も良くなったら、変な組織に悩まされたりすることもなくなるかにゃあ。みーくんみたいに飼い主に殺される獣人もいなくなるといいな。
みーくん、なっちゃん、オレ、頑張ったよ……。
眠くなって来たオレを真ちゃんが優しく揺すって起こしてくれる。真ちゃんは額にもキスをくれた。てっちゃん達が見たら、「ラブラブですねぇ」とか言うのかもしれない。
2019.03.11
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