猫獣人たかお 80

 オレは真ちゃんの枕元で言った。
「真ちゃん……オレ、みーくんは幸せだったと思う」
「――だな。お前が幸せにしたんだ」
「真ちゃん……」
 オレも、幸せ。
 みーくんもあっちで幸せ? まだ葉奈子さんのこと、見守ってくれてる?
 山田三郎は許せないけど、葉奈子さんのことはもう許してるよ。オレ。
 オレも、みーくんと葉奈子さんのデートに同席することができて、幸せだった……。
「何だ? かずなり。泣いているのか?」
「うん……みーくんは葉奈子さんと会えて幸せだったろうなって。そりゃ、殺されたのは気の毒だけど……」
「そうだな」
 真ちゃんが優しい笑顔で言った。
「さ、これから着替えて掃除するのだよ」
「うん!」

 あっという間に月曜の朝になってしまった――。
「真ちゃーん、大丈夫ー……?」
「お前の方が大丈夫かなのだよ、かずなり」
 オレはぼーっとしていた。昨日もいっぱい励んだからにゃあ……。真ちゃんは平気らしいけど……。というか、いつもより元気そうだけど。
 ああ、腰が痛い。幸せだけど。
「もう少しでおは朝に出られるな」
 真ちゃんはうきうき。オレはズタボロ。
 流石にオレ達の動画を撮る人は、一頃よりは――増えてんね。
 オレ達注目の的だよぉ……。
「にゃあ……」
「どうした? かずなり」
「ギャラリーが前より増えてんの」
「お前が可愛いからなのだよ」
 真顔でそう言う真ちゃん。愛しいけど、恥ずかしくないのかにゃあ……。
 でも、真ちゃんだって本当は恥ずかしがり屋さんなのだ。
「また見せつける?」
「止せ。これでも自重しているのだよ」
 ふぅん、真ちゃんも自重ねぇ……ゆうべあんだけヤッといて。
 でも、寄り添うだけに留めておいた。それでも、女の子達はきゃあきゃあ言って映像撮ってたけど。
 オレ達の何がそんなに面白いんだろうねー……。はぁ、ねむ……。
「着いたのだよ」
「ん……」
 オレは半分眠っていた。真ちゃんに寄っかかっていたとはいえ、眠りながら歩けるなんて、オレも器用だにゃあ……。
「おはよう、緑間君に高尾君。――高尾君は眠そうだな」
 駒井サンが駆け寄って来た。
「昨日、やることやってましたので」
 真ちゃんはしれっと答える。んにゃ~、恥ずかしいにゃあ、眠いにゃあ……。
「そ……そうか。まぁ、詳しい話は近藤君にでもしてくれ給え。私は知らぬ存ぜぬで通す」
 あらら、丸投げ? でも、駒井サンは近藤サンのこと、信頼してるのがわかるにゃあ。
「あ、そうだ。こちらは司会役の――」
「安西小百合です。宜しくお願いします」
「的田浩介だ。宜しく」
「安西アナに的田アナ……」
 真ちゃんが遠い目をしながら突っ立っている。まるでアイドルでも見るような目付きだ。みゃーじサンがみゆみゆに会ったらこんな感じだろうか。
 あ、そうだ。みゃーじサンと言えば!
「お前、テレビ局行くんだったらみゆみゆのサイン貰って来い。でないと轢くぞ」
 なんて脅されたもんなぁ……。みゆみゆに会えるかどうかわからない、と言ったら、
「会えたらでいい」
 と、妥協してくれた。
 んでも、頼まれたから一応。
「駒井サン、みゆみゆにはどこで会えますか? サイン頼みたいんだけど。えと、友達がファンで……」
「そのうち収録の『ゴールデンスタジオ』にゲストで出る予定だよ。高尾君のファンになったらしい。『高尾君可愛い』って」
 にゃん! みゃーじサン、すごい! 神様に祈り通じたね。――その時、サインもらってこようっと。
 あ、でも、みゆみゆはオレのファンなのかぁ……。嬉しいけどちょっと複雑。そのことがわかったらみゃーじサンに冗談でプロレス技かけられるかも……。
 オレはぶるりと震えあがった。
「トイレか? かずなり」
「う……違う……」
「じゃあ、何だ?」
「みゃーじサンのこと、思い出していた……」
「宮地先輩か……あの人のみゆみゆ狂いにも困ったもんだ……」
「でしょー!」
 さっすが真ちゃん。オレの言いたいことわかったんだ。
「みゆみゆがかずなりのファンだと知ったら宮地先輩に殺されるな」
「う……そこまではいかないと思うけど……」
「どうかな?」
 真ちゃんは人の悪い笑みを浮かべた。にゃあ。真ちゃん、オレで遊んでない?
「みゆみゆとみゃーじサンを会わせたらどうだろう」
「無理だね。関係者以外は会わせられない。尤も、ひな壇ででもいいから出たいと言うなら、近藤君に相談してみるよ」
「ありがとう! 駒井サン!」
「まだ決まった訳ではない……その人のフルネームは何て言うんだい?」
「宮地です。宮地清志」
「宮地清志ね。連絡先はわかるかい?」
「えと……勝手に教えてもいいのかな?」
「そうだな。本人にも訊いてみないとな」
「ま……待って……」
「もうすぐ収録だ。宮地君の件は後にしよう」
 にゃあ……言いそびれちゃった……。
「ほら、かずなりも来るのだよ」
「にゃあ……」
 オレは真ちゃんに引っ張られて行く。ああ、なっちゃん、みーくん、お母さん、オレがみゃーじサンに殺されて猫の天国に行っても宜しくね……。あ、それとも獣人の天国行くんだっけか……。どうだったっけかにゃあ……眠くて頭が上手く働かない……。

 オレ達はメイクを終わらせて打ち合わせというものをしていた。
「緑間君と高尾君は仲良しなんですねぇ」
 安西アナは綺麗な女の人だ。人気もあるんだって。オレもすぐに好きになった。
 ……まぁ、真ちゃんには敵わないけどね。安西アナはニコニコしている。
「は、どうも……」
 真ちゃんは緊張して固くなっている。オレ達はまだテレビ慣れしていない。的田アナが言った。
「台本は読んで来たかい?」
「来たけど……ちょっと薄くないないかにゃあ」
「かずなり!」
 真ちゃんが低い声で注意した。でも、真ちゃんも思っているはず。一生懸命覚えようとしてたけど。
「あはは。高尾君は正直だね」
 的田アナは人当たりがいい。オレの頭を撫でてくれる。こういう人だったら信じられるかなぁ。駒井サンの人選に改めて感心した。
「さ、打ち合わせの続きしようじゃないか。君達は自然にしてて大丈夫だからね。この番組は基本的に生の声をお届けするものだから。――あ、もう後十分だ」
 的田アナは打ち合わせをすぐ切り上げた。オレ達は的田アナと安西アナと一緒におは朝のスタジオに向かった。

2019.02.26

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