猫獣人たかお 8

「かずなり。部活に行くのだよ」
「にゃっ!」
 了解!と言う風にオレは敬礼する。尻尾もぴーんと立っている。
「うちの大学ではバスケにも力を入れている。――オレはシューターだ。いや、オレも、というべきかな」
「にゃう?」
「まぁ、行けばわかる」
 真ちゃんの案内について行くと、紫原が手を振ってくれた。氷室サンも一緒だ。紫原がオレの頭をなでる。
「よく来たねー、たかちん」
「にゃん!」
「オレを無視するのではないのだよ」
「ごめんね。みどちーん」
「まぁいい。アップしてくるのだよ。それからここのカントクは少し変わっていて――」
「緑間君。その獣人の子は?」
 茶色の髪をショートカットにした女の子が訊いてきた。……可愛くないこともないけど、ちょっと胸はないかなぁ。色気もね。
「リコ。紹介しよう。たかおかずなりだ」
「にゃっ。宜しく」
「可愛い……☆」
 真ちゃんにリコと呼ばれた女の子が星を飛ばす。
「かずなり。この女が男子バスケ部カントクの相田リコだ」
「どうもー」
「リコ。見学いいか?」
「うん。いいわよ」
「――ありがとうなのだよ」
「んで、キャプテンがあそこにいる赤司だ」
 赤司はマー坊と何か話し合っている。そばにはチワワの獣人がいた。――あの子が赤司の恋人の降旗だな。
「たかお……」
 ん? 今、誰かに呼ばれたような……。
「たかお……」
 オレの足元には一匹の犬が。もしかして――。
「真ちゃん。この犬喋った?」
「バカな。犬が喋るわけないのだよ」
 そうかなぁ……。真ちゃんてば、オレの変身のことに関しては信じたくせに、犬が喋ることについては信じないの? どうも基準がわからないなぁ……。
「その眼鏡に言っても仕方がない。吾輩は獣人の言葉を話せるのだ」
「へぇー。すっげー」
「ちなみに吾輩はテツヤ2号と言う。黒子テツヤのことは知ってるか?」
 オレは水戸部みたいに黙ってこくこく頷いた。
「どうやら吾輩とは目元が似ているらしい。吾輩もテツヤのことは好きだ。そして、バスケも好きだ」
 犬のくせにえらそうな口調で話すなぁ。2号が目を瞑ると瞑想しているように見える。
「よう。2号」
 ショーゴがやってきた。2号がショーゴに向かって走り出す。てか、バスケやるんだショーゴ……。
「やぁ、祥吾……」
「相変わらず元気そうだな! 修造サン来てる?」
「さっき更衣室に向かって行った」
「あっそ。ありがと。おう、アンタは昼間の」
 ショーゴがこっちを見た。
「なに? 見学? オレの活躍見に来た?」
「真ちゃんの活躍を見に来たんだよ」
「へぇー。緑間の。甲斐甲斐しいじゃん。修造サンがいなかったら、恋人にしてやっても良かったけど」
「オレは真ちゃんの恋人なの!」
「よすのだよ、かずなり」
 真ちゃんがオレの腕に手をかける。オレが真ちゃんの方を見遣ると、真ちゃんの顔が赤くなっていた。
「かずなりっての。ふぅん」
 ショーゴは自分の顎に手をかけてニヤニヤする。
「お前らお似合いじゃん。頑張れよ。さぁてと……修造サン探すか」
 ショーゴは更衣室とやらに入って行った。
「彼は少し乱暴者だが、悪いヤツではない」
 良かったね、ショーゴ。2号のお墨付きだよ。
「あっ、たかお」
「たかお君……」
 てっちゃんとタイガが同時に現れた。一緒に来たんだね。――バスケ部のみんながウォームアップを終える。
「タイガー! ダンクダンク!」
「わぁった。ボール貸せ、そらよっ!」
 力強いダンク。空中に備え付けられているリングが振動する。
「ふん。だから貴様はダメなのだよ」
 真ちゃん……? 真ちゃんは指に巻いている包帯(テーピングと言うのだそうだ)を外した。
「ボールをこっちへ。行くぞ。そこで見てろ、かずなり」
 真ちゃんが遠くから飛んだ。ボールは高く上がり、ゴールに入った。入った時、ボールはリングにかすりもしなかった。
「わー、真ちゃん、すごーい!」
「ふん……」
 真ちゃんは得意げに片頬笑みをした。やっぱ真ちゃんはすげーなー。
「おい、かずなり。オレのダンクとどっちがすげぇと思う?」
 タイガが訊いてきた。何て答えたらいいんだろう……。オレはどっちもすごいと思うけど。
「愚問だな。オレの超長距離シュートに決まっているだろう」
 あの、真ちゃん? オレが質問されたんだけど……。
「バスケはやっぱダンクだよな!」
「3Pシュートに決まっているのだよ!」
 真ちゃんとタイガがお互い睨み合っていた時――。
「はいはい。そこの二人ケンカしない」
 リコさんが手を叩いた。真ちゃんとタイガはもう一度思いっきり睨み合った後、ふん、と反目した。
「もう――いっつもこれでもめるんだから」
 いつも? いつものことなの? これ。真ちゃんも案外おとなげなかったんだな……。
「あ、そうだ。黒子。ちょっと来い」
 タイガがてっちゃんを呼ぶ。てっちゃんがボールを持って走ってきた。タイガがリコさんに向かって親指を立てた。
「カントク、ミニゲーム宜しく!」
「はっ、そうね。今日はお客様もいることだし」
「カントクー。遅くなってすみませーん」
 コガが来た。水戸部も一緒だ。この二人もバスケ部だったんだ。
「小金井君、水戸部君。早くアップして。ミニゲームやるわよ!」
「えー、でも、オレ達どうせ見てるだけっしょ。キセキの世代や火神達がいるもんな。この学校には」
「勿論、そこはちゃんと赤司君と相談してローテーションを組んでやるつもりよ。さ、早く着替えた着替えた」
「ほーい」
「たかお君はそこで待ってて。すごいものが見られるわよ」
 リコさんが言った。すごいものって何だろ……。オレが大人しく待っていると――。
 試合が始まった。降旗が飛んできたボールをてっちゃんに寄越す。
 ――え?
 てっちゃんがボールを掌で弾くと、ボールがタイガの元に! タイガがダンクを決めた!
「うしっ!」
 タイガがガッツポーズをする。つか、あんなパスあり?
「イグナイトパス。黒子君の技よ。加速するパス。……まぁ、それだけじゃないんだけどねー、彼は」
 リコさんが解説してくれた。てっちゃんもなにげにすごい。2号が意味ありげに笑った。

2017.1.31

次へ→

BACK/HOME