猫獣人たかお 70

 にゃあああん……。オレ、体が蕩けそう。そのまま、ぴく、ぴくと痙攣してた。
「番組が終わったのだよ」
 真ちゃんが言う。
「真ちゃんのバカ! エッチ!」
 オレは手近にあるクッションを投げつけた。
「不可抗力なのだよ」
「ふーん、人のせいにするんだ」
「それはかずなり、お前が……」
 あんまり可愛いからなのだよ。真ちゃんが耳元でそう囁いた。狡い。反則だよ。このエロボ。
「責任取ってくれる?」
「――勿論なのだよ」
 真ちゃんがふっと笑った。そのままベッドになだれ込もうとしたその時だった。
 電話が鳴った。――ああ、もう! いいところで! 真ちゃんが出た。
「もしもし――ああ、赤司か」
 赤司も『ゴールデンスタジオ』を観たらしい。なかなか良かったじゃないか、という感想だった。オレらは一気に現実に戻った。
「――赤司が悪い訳ではないが、白けたのだよ」
 ――また電話だ。
「今度は何だ!」
 真ちゃんの顔に苛立ちが走る。今度も真ちゃんが電話の受話器を取る。
「もしもし、ああ、近藤さんですか」
 真ちゃんの声、急に余所行きにのに変わる。あんなエロボ出すくせに。
「――今回の『ゴールデンスタジオ』の反響が物凄いんだとさ」
 特に興味もなさそうに真ちゃんは教えてくれた。
 また電話。今度は取材の申し込み。
 また電話。また同じ。
 同じような電話が何件も来た。
「あー、もう、オレ達のことは放っておいて欲しいのだよ!」
「それはムリなんじゃないかにゃあ」
「かずなり……」
 実はこうなることは見当がついていた。何でわかってたかはオレにもよくわからないけれど。真ちゃんも予測済みだったと思うけどにゃあ。
 オレはともかく、真ちゃんはいい男なのだから、騒がれるようになるのはわかっていた。
 でも、ちょっと、寂しいな……。オレだけの真ちゃんじゃなくなったんだ……元々オレだけの真ちゃんじゃないけどさ。
(それでさ、また『ゴールデンスタジオ』に出てくれないかな――)
 近藤さんはそう言ったらしい。真ちゃんは、
「考えておくのだよ」
 と言った。
 もうエッチどころではなくなってしまった。今度は真ちゃんから赤司に電話した。――赤司もこういうことになるのは予想済みだったらしい。さすが。
「真ちゃん……」
「かずなり、スマホだ」
「アイアイサー」
 許可を得て真ちゃんのスマホを見るとLINEがいっぱい溜まっていた。メールもツィッターも。電話も鳴りっぱなしだ。
「うわぁ……いっぱい。真ちゃん、見て」
「多分、パソコンの方にもいっぱい来てるのだよ」
「……一気に人気者だね。でも、人気者って大変だね」
 エッチ……交尾もろくにできないもんにゃあ……。もう電話線引っこ抜くのだよ、と真ちゃんがキレかかった時――。
 ピンポーン。インターホンが鳴った。
「はーい」
 オレは電話の対応に追われている真ちゃんを放っておいて玄関に出た。
「やっほー。カズ君、来ちゃったー」
「こんばんは」
「お邪魔しまーす」
「よぉ」
「緑間っち、たかおっち、忙しいとこスケジュール調整してやってきたっす~」
「……よぉ」
 桃井サン、てっちゃん、リコさん、青峰、黄瀬ちゃん、タイガ……。
「何か同窓会みたいなのだよ」
「ムッ君が行けないけど宜しくね~と言ってたよ」
 桃井サンがニコニコ。何だよぉ。こうなったらムッ君も来れば良かったのに。
「赤司君は来てないのね」
「ああ。あいつもかなり忙しいらしい」
「赤司グループの御曹司様だもんね」
 リコさんが仕方がない、と言いたげに溜息を吐いた。
「青峰君、今日は火神君と喧嘩しないでね」
 桃井サンが釘を刺す。
「こいつがケンカを売らなければな」
「てめーが売ってんだよ」
「ちょっとやめなさい。ったく、この二人と来た日にゃ……頭痛いわ」
 と、リコさん。大変なんだにゃあ……。
「ちょっと~、オレ無視しないで欲しいっス」
 黄瀬ちゃんが涙声で言う。てっちゃんは無視されてもいつも通り。存在感薄いからにゃあ……。青峰が欠伸した。
「おい、緑間、腹減った。なんかねぇ?」
「ないのだよ」
「仕方ない。コンビニで何か買ってくるか」
「私が行く」
「オレも行くっス。桃っちみたいな可愛い娘を夜道歩かせて何か起きたら大変だしね」
「材料があるなら私が作るわよ」
「それだけはやめてくれ!」
 真ちゃんがリコさんを止めようとしている。
「リコと桃井の料理はポイズンクッキングなのだよ」
「ああ……前に食った時マジ死にかけたぜ」
 真ちゃんとタイガが頷き合う。オレも、食べたことあるけど……えーと……お花畑が見えた? おかげで臨死体験と言う貴重な経験ができたわけだけども……。
 黄瀬ちゃんと桃井サンがオレ達の家を後にした。
「『ゴールデンスタジオ』、見たぜ。火神ん家でな」
 青峰が言う。
「それで、どうだった?」
「悪くなかったんじゃね?」
「そっか、ありがと」
「あの……外れていたら申し訳ありませんけど、たかお君て、もしかして水森涼さん嫌いなんですか?」
「?!」
 てっちゃん、よくわかったね。今はそう嫌いでもないけど、やっぱり好きでもないなぁ。あ、ただ、浅井さんとは仲良くして欲しいと思う。
「けけっ、図星って顔してるぜ」
 青峰が笑いながらオレを指差す。
「カントクが言ったんですよ」
「そ。このアナライザー・アイでね」
 えー? あれ、体力の測定とかしかできないんじゃなかったの?
「まぁ、それはボクも思いましたけど。ね、火神君」
「スタジオで水森と会った時、たかお嫌な顔してたもんな」
 タイガまで……タイガは野性の勘でわかったのかな。
 しばらくして、「みんなー、ただいまー」と言う桃井サンの明るい声が聴こえた。黄瀬ちゃんも桃井サンも無事だったんだね。良かった良かった。
 夜の街は物騒だって聞いてたから気にはなっていたんだよぉ。オレなんか誘拐されたことあるし。

2018.11.09

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