猫獣人たかお 66

「にゃ……真ちゃん……」
 その夜、オレと真ちゃんは睦み合っていた。――しばらくして、オレも真ちゃんも満足した。体の相性がいいのかもしれない。
 今日はいろんなことがあったにゃあ……。
 オレは疲れて眠ってしまった。

「たかお君……」
「てっちゃん神様!」
 ということは、これは夢かぁ……。
「ねぇ、てっちゃん神様、訊きたいことがあるんだけど」
「何ですか?」
「水森涼って、ナッシュ・ゴールド・Jrの関係者じゃない?」
 もしそうだったら助かるんだけど――って、何考えてんだオレは。
「たかお君には残念ですが、彼は違います」
「――なぁんだ」
 水森がナッシュ・ゴールド・Jrの仲間だったらやっつけてやったのに。
「随分水森君のことを嫌うんですね」
 うん。オレもそう思う。
 でも、何かあいつイヤなんだ。
 真ちゃんがあいつと仲いいのも気に食わない。
「ほらほら、たかお君、ぶすっとしてますよ。いつものように笑ってください」
「水森がいなくなればね」
「水森君はたかお君が好きですよ」
 それがわからないんだ。こっちは嫌っているというのにさぁ……。
「たかお君のキャラをよく掴んでました」
 そうか。てっちゃん神様もそう思うか。
「オレの味方はいないのだよ」
 オレがそう言うとてっちゃん神様がくすっと笑う。
「にゃんだよぉ」
「いえね、語尾が緑間君に似ているなと思って」
 だって、真ちゃんの語尾面白いんだもん。うつっちゃった。
「明日は――もう今日ですが、君達スタジオ出演するんでしょう?」
「うん。今からドキドキだよ」
「がんばってくださいね」
 ちゅん、ちゅん、と雀の泣く声が聴こえる。
 朝食準備しなくちゃあ。
 オレはまずシーチキンとレタスのサラダを作った。美味しいんだ。これ。特にシーチキンが。ドレッシングも。後、インスタントのコーンスープとトーストとコーヒーでいいかな。
 にゃっふっふ~ん♪ 真ちゃんが起きたらご飯にしよう。あ、新聞届いてるかな。
「おはよう、かずなり」
「あ、おはよう。真ちゃん。コーヒーいる?」
「もらおう」
 いつもの朝。でも、どこか緊張を孕んでいる朝。どうしてなのか説明はしづらいけれど――。
「今日はスタジオだな」
 真ちゃんが言った。
「ふん。ほうはへ」
「食べるか喋るかどちらかにしろ」
 オレはパンを飲み下した。
「楽しみだね」
「まぁ、オレも楽しみでないことはないのだよ」
 真ちゃん、楽しみって素直に言えばいいのに。
「でも、緊張もしてるんだ。オレ」
「かずなりもか。実はオレもなんだ」
「えへへ」
「どうしたのだよ」
「真ちゃんとスタジオ入りできると思うと嬉しくてさ。しかも、あの『ゴールデンスタジオ』だよ」
「あの番組は毎週楽しみに観ていたのだよ」
 ――そう。後はあの水森さえいなければ……。
 でも、スタジオにあいつは来ないか。
「がんばろうね、真ちゃん」
「人事は尽くすのだよ」
 オレ達は笑い合った。ああ、何て幸せな日々!
 水森なんかに負けないもんね。こっちが勝手にライバル視してるだけかもしれないけど。
 ――電話が鳴った。オレが取る。
「もしもし」
「あー、たかおっち」
「黄瀬ちゃん!」
「聞いたよ~。テレビ出演するんだって? しかもあの『ゴールデンスタジオ』!」
「そうなんだよ~」
「嬉しそうだね、たかおっち」
「うん! これであいつがいなければ最高なんだけど……」
「あいつ?」
「うん。水森涼ってヤツ」
「たかおっち……」
 黄瀬ちゃんの口調が険しくなった。
「何でそういうこと言う訳? 水森っちがたかおっちに何かしたの?」
「え? 特に何も……」
「水森っちはいいヤツだよ」
 そうだよね。水森が偉いんだよね。この業界では。何か気に入らない。
「――オレのこと好きって言ってくれたけど、オレは嫌い」
「何でぇ? 水森っちに好きになってもらえて良かったじゃん。オレ、あの人好きだよ」
「――真ちゃんも気に入ってるようだった」
「へぇ……緑間っちもねぇ……何でたかおっちは水森っちのこと嫌いかなぁ」
「そんなことわかれば苦労はしないよ。真ちゃんは同類嫌悪って言ってたけど」
「あー、それわかる。水森っちとたかおっちって似てるから」
 にゃあ……黄瀬ちゃんまでそゆこという訳。
「黄瀬ちゃん、嫌い」
「ごめんごめん」
「でも、水森程じゃない」
「うーん、複雑な人間関係っスね。水森っちもたかおっちも獣人だから獣人関係かな」
 わかってるよ。水森がいいヤツだってことは。でも、水森がもっと悪党だったらかえって好きになったかもしれないのに。
 オレは、ナッシュ・ゴールド・Jrより水森涼の方が嫌いだ。人気があるのも納得できない。
 でも、今日はオレ達はスタジオ入りだから水森に会うことはないか。
「ま、応援してるよ。たかおっち」
 黄瀬ちゃんの勇気づけが今のオレには有り難い。
「黄瀬ちゃん。今日スタジオで撮影だからオレ、緊張してるんだ」
「慣れるよ。オレだって初めての時は緊張したもん」
 黄瀬ちゃんはモデルをやってる。テレビにも何度か出たらしい。真ちゃんは決して観ようとはしなかったが。
「たかおっちならすぐに人気者になれるよ。がんばって」
 背中を押されたようで、オレは何だかやる気が出て来た。大好きな真ちゃんとも一緒だしね。
「ありがとう、がんばるよ。じゃ、もう切っていい?」
 電話を切って窓の外を見ると、今日は快晴だった。オレ達にとっていい予感がする空模様である。

2018.09.30

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