猫獣人たかお 63

 オレ達が部屋の掃除を終えた後、不死テレビから来てくださいと連絡があった。
 オレと真ちゃんは不死テレビに行った。赤司は何かいろいろ忙しくて来られないらしい。
「真太郎にくれぐれも宜しく」
 と、電話で話してくれた。そんな風に律儀なところもオレが赤司を好きな理由だ。
「やぁ、君達」
 近藤サンが手を挙げた。
「こいつ、オレの友達、遠藤って言うんだ」
「宜しく……」
 うっはー、伊達男だにゃあ……。番組を作る側なのかな。なんか、俳優さんみたいだ。
 遠藤サンがしめっぽく挨拶して手を差し出して来たので俺達は握手をする。真ちゃんもだ。
「いい男なのだよ。制作スタッフよりテレビに出る方が向いているのだよ」
 あ、真ちゃんもそう思うんだ……。
「他のスタッフや再現VTRに出てくる役者達にも会わせてあげるよ」
 そう言って近藤さんは部屋の扉を開いた。人間がたくさんいた。獣人もいた。
「おはようございます」
「高尾さん、初めまして!」
「しっ、静かに!」
 近藤サンが制した。そうすると役者の獣人達はしーんとなった。
「まずは順番ね」
 近藤サンはいい人みたいだが、ちょっとちゃらっぽい格好をしている。かっちりしている遠藤サンとは正反対だ。
「まずは――天野くん」
「はい、雨園みきお役の天野秀忠です」
 へぇー……この子がみーくんやるんだ……。
 肝は据わっていそうだし、目はきらきら輝いてるしハンサムだし、みーくんにぴったりかも……。
 そして、山田葉奈子役、その父親の三郎役、そして――。
「緑間真太郎役の谷弘です」
 と、真ちゃん役の人が挨拶をすると、
「オレはこんなにいい男ではないのだよ」
 と、照れていた。
 おかしいね。真ちゃんて、ここに来るまで、
「まぁ、ここの再現VTRに出てくるくらいだから美男美女なのだよ」
 なんて平気の平左で嘯いていたくせに。いざ目の前に役者が見えると照れてしまうんだから。
 そういう真ちゃんも可愛いと思うけど。
「緑間さん、お会いできて嬉しいです」
「え、ああ……こちらこそ、なのだよ」
「その、なのだよ、というのは口癖? 面白いね。取り入れていい?」
「勿論なのだよ」
 あ、真ちゃんが笑っている。真ちゃんは谷さんのことが気に入ったらしい。遠藤サンが耳打ちすると谷サンはくすくす笑った。
「緑間君もなかなかハンサムだと思うよ」
「それはわかっているのだよ」
 あ、唯我独尊な真ちゃんが戻って来た。
「あれ? 高尾君役の水森君は?」
 近藤サンが言った。
「まだ来てないようだけど」
「そうか――どん臭いんだから、あの子は……」
「でも、演技力はピカ一だから……」
「頼むよ。彼が主役のようなものなんだからね」
 スタッフ達がカンカンガクガクと話し合う。
 どん臭い? 演技力がピカ一? どんな人がオレを演るんだろう……オレが期待と不安を胸の中で育てながら待っていると――。
「遅くなりましたー!」
 はぁ、はぁと息を切らして飛び込んで来た獣人が一人。眼鏡がずれてる。黒耳に黒尻尾。
 まさか、こいつが――?
「紹介しよう。この子が高尾和成役の水森涼君だ」
「あは。初めまして」
 そう言って媚びるように笑う。
 ――何か気に入らないな。
「ほほう……彼がかずなりをやるのか。ぴったりなのだよ」
 真ちゃん。どこ見て言ってんの。
「高尾君」
 水森がオレの名を呼んだ。オレの背中の手がぞわりと逆立った。
「宜しくね」
 そう言って水森はにこっと笑う。どうしてそんなアホ笑いするんだか。
「ああ、うん……」
 オレはおざなりに返事して、これまたおざなりに手を差し出す。
「かずなり、どうしたのだよ」
「真ちゃん……」
 オレは泣きそうになった。こんな男がオレを演るなんて――どこがどう嫌なのか上手く説明できないけど。
「オレ、こいつやだ……」
 それしか言えなかった。ざわっと周りが騒ぎ出す。
「何だ? あいつ……水森にたてついたぞ!」
「高尾って人を見る目ないんだな……」
「水森、いいヤツなのにな……」
 ざわざわ、ざわざわ。波紋が広がるようにオレへの陰口が広まる。どうしたというんだろう。
「ねぇ、近藤さん。皆、水森に弱味でも握られてんの?」
「ああ?!」
 近藤さんがぎろりと目を剥いた。
「違うよ! 皆、水森君には憧れてるんだ!」
 ええっ?! こんなとっぽい男を?
「――すみません。連絡ひとつ入れずに遅刻したオレを怒っているんですよね。高尾君は。皆も怒ってるんでしょう?」
「何を言う水森」
「君のことだから何か理由があるんだろう?」
「それが――渋滞に捕まっちゃって……せっかくだからオレ、渡された資料読んでたんですよ。高尾君て、オレにぴったりの役柄だと思う。夢中になってしまって一言連絡入れなかったのは悪かったと思うけど――」
「やっぱり君は研究熱心だな」
 遠藤さんがほっと溜息を吐く。
 えええっ?! それで許しちゃう訳?
(高尾君て、オレにぴったりの役柄だと思う)
 その台詞を思い出して体中に悪寒が走る。この男がオレを演るの?! 本当に?!
「オレはやだ! こいつがオレの役演るんなら、オレ、この仕事降りる!」
「高尾君!」
 真ちゃんがつかつかとオレに寄って来て、ぱあん、と平手打ちした。
「し……真ちゃん……」
「かずなり……一度引き受けた仕事は最後までやるのだよ」
「それはそうだけど、水森が、あんなヤツがオレの役演るなんて……! 大体水森涼なんて役者、オレ知らないし――」
 ドラマなんかあまり観ないオレは、水森涼という中高生に人気のタレントは今まで知らなかったのだ。
 真ちゃんは今度は軽くはたく。でも、今ビンタされたところだから結構痛い。
「水森さんに謝るのだよ」
 え? オレが? 実際に見た水森サンて素敵でちょっとびっくりしたけどオレ、君のこと気に入ったから今後とも友達付き合いしてねって言うの?
 そんな心にもないこと言えない。
「オレは何にも悪くないんだー!」
 叫びながらオレは勢いよくドアを開いて出て行った。

2018.08.28

次へ→

BACK/HOME