猫獣人たかお 62

 記者会見の間中、オレ達は別室でVTRを観ていた。
 オレは眠気に勝てずうとうとしていた。真ちゃんの肘が時々オレをつっついて、オレをはっと目覚めさせた。でも、その後はまたうとうと……。
「仕様がないヤツなのだよ」
 と、真ちゃんは匙を投げた様子だった。
 でも、葉奈子さんがみーくんとの思い出を語った場面と、最後に赤司が、
「我々、『獣人を守る青年の会』、略して『獣人会』はアニマルヒューマン保護機構を告発します!」
 と声高に宣言したところは覚えている。
 オレも何かやんなきゃなぁ……。
 控室に戻った赤司にオレは声をかける。
「お疲れ様、赤司。何かオレにもできることない?」
「……かずなり……変わったな」
「えへ、そう?」
「まぁ、今更変わったところで騒ぎの渦中に投げ込まれたことには変わらないが……僕達に協力してくれるかい?」
「勿論!」
「まぁ、君達のことはできるだけ僕が守ってあげるよ。でも……真太郎は少し過保護なんじゃないかな?」
「そうかな?」
 オレにはよくわかんない。けど、真ちゃんがオレを愛してくれてるのはわかる。愛して……くれてるよね。
 でなけりゃ、オレみたいないい子じゃない猫獣人、とっくに捨てているはずだし。
「誰が過保護なのだよ」
 心外だ、という風に真ちゃんが呟く。オレも真ちゃんが過保護だと思ったことはないけど――真ちゃんには随分助けられた。
「ありがとう、真ちゃん。愛してるよ」
「な……何を馬鹿なことを……」
 真ちゃん、照れてる。かーわいい。
 けれど、さっきから眼鏡カチャカチャうるさいよ?
「すみません。不死テレビの近藤ですが……」
「ああ、さっきの話なら断ったはずですが?」
 赤司が顔をしかめる。何だろう、この人。
「あ、かずなり、この人がね、お前にバラエティー番組に出演させてもらえないかという依頼を持ってきたんだけどね……」
「ええっ?! オレが?!」
 オレは真ちゃんと一緒にテレビを観ることがある。真ちゃんが観るのはバスケの試合以外なら大抵ニュース番組だ。でも、たまにバラエティー番組にしてくれることもある。
 不死テレビのバラエティー番組は、はっきり言って大好きだった。
「赤司――どうして勝手にその話断ったの」
「え? ――君には出演するつもりはないと思ってたから……」
「勝手に断んないでよ!」
「……悪かった。過保護なのは真太郎だけじゃないようだったな……」
 赤司の言葉に真ちゃんは、フン、と鼻を鳴らした。
「だが、赤司の気持ちもわかる。オレだって話がオレに来たら断っていたのだよ」
 真ちゃん……それに赤司。オレだって自分のことぐらい自分で判断できるよ……。
「にゃあ……」
「あ、高尾君。不死テレビの『ゴールデンスタジオ』という番組知ってるかな?」
「にゃん! オレ、その番組大好き!」
 オレの好きな番組だ。再現VTRとか好きなんだよな。
「それで、高尾君に出演して欲しいんだけど……」
「にゃあ……」
 どうしようかな。赤司も真ちゃんも心配そうな顔をしている。でも、オレは『ゴールデンスタジオ』に出てみたかった。
 てっちゃん神様が何とも言えない顔をしている。どうしててっちゃん神様は何も言わないのだろう。何か言うとオレがますます意固地になるって思ってんのかな。
 まぁ、確かに今てっちゃん神様に言われてもオレは反発するだけだろうしな。
 それに、心の中では赤司や真ちゃんへの反抗心もあったし……。
「近藤サンと言ったっけ? オレ、テレビに出るよ」
「本当かい?!」
 近藤さんが飛び上がらんばかりに喜んでオレの手を掴んでぶんぶんと振り回す。どうでもいいけど、随分オーバーアクションな人だなぁ……」
「いいのか? かずなり」
 真ちゃんが訊いた。オレは答えた。
「いいの!」
「しかし――テレビ出演するということはそのう……触れられたくないことまでほじくり返されるということなのだよ」
「そんなことは断じてしません!」
 近藤サンがムキになって言った。そうだよ。真ちゃん。心配性だなぁ。
「この人に悪意はないとしても、この人が持ってきた出演依頼をOKするということは、君の存在が世に知れ渡るということだよ。それがどういうことかわかるね? 君がたくさんの悪意を受けるという可能性もあるんだよ?」
 赤司が噛んで含めるように説明した。
「高尾君。すみません……我々はそんなつもりはありませんので……できるだけいい番組を作ることに粉骨砕身しますので」
 落ち着いたらしい近藤サンが言う。
「ところで近藤さん、この話を持ってきたのは誰なんですか?」
 赤司が訊く。
「上の方から――でも、話を持ってきたのはさる外国の方だと言っていました」
「外国の人?」
「これ以上は、私の方からは――」
 何かやな予感がしたが、一旦約束したことを反故にすることはできない。
「たかお君、ちょっと……」
 てっちゃん神様がオレを手招きする。近藤サンにはてっちゃん神様は見えないらしい。オレは、
「ちょっとトイレ」
 と言って席を外した。
「どうしたの? てっちゃん神様」
「その――この話を持ってきたのはナッシュ・ゴールド・Jr.かその手の者かと――」
「にゃっ! てっちゃん神様もそう思う?」
「ボクにも確証はないんですが……」
 てっちゃん神様は神様のくせに万能ではないらしい。そのことは今までで嫌という程学んだ。けれど、ゴールド・ナッシュ・Jr.だって万能ではない。この間の戦いでだいぶ弱ったらしい。
 ああ、でも……マスコミを裏から動かすことはできるんだ……。オレもまた、何となくこの話の裏にゴールド・ナッシュ・Jr.の存在を嗅ぎ取っていた。
「たかお君、ボクも君を守りたいです」
「ありがとう。てっちゃん神様」
「近藤さんはちょっと煩いですが悪い人ではありません。ただ――これから君が有名になることで何か悪いことが起こるかもしれないし起こらないかもしれません」
「随分曖昧だね」
「ボクは……ボクにも見えない未来というものはあるのですよ。未来はモザイクのパターンのように変化していますから」
「へぇ……」
 でも、オレは逃げないと決めたんだ。だから――。
「てっちゃん神様、今度はオレも戦うよ」
「おお、たかお君――」
 てっちゃん神様がオレの手を取った。てっちゃん神様の手、柔らかいにゃあ……。カガミはてっちゃん神様のことが好きなんだろうな。
「たかお君、見直しました。今までもずっと君のことは見直してばかりでしたが」
「じゃあさ、もうこっから出よ? でないと、オレ、うんこしてるって思われちゃう」
「思われたっていいじゃないですか」
「にゃあ……恥ずかしいにゃあ……」
 それに、オレのお尻が汚いと思われたら真ちゃんにもう抱かれなくなってしまうかもしれない。それは嫌だ。
 てっちゃん神様が微かに笑った。
「それじゃ、行きましょうか」
「高尾君!」
 真っ先に出迎えてくれたのは近藤サンだった。
「取り敢えず上の方に知らせてきたよ。実は、もうちょっと反対されるかと思って覚悟してたんだが……」
「拍子抜けした?」
「全然! ――いや、本当はちょっと上手く行き過ぎて怖いぐらいなんだけど――」
 近藤サンがえへへ、と笑いながら頭を掻いた。オレ達はしばらく話をした後、連絡先を交換して別れた。近藤サンは人の心をほぐす術に長けていた。

2018.08.18

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