猫獣人たかお 60

猫獣人たかお 60

 院長が言う。
「緑間くん、たかおくん、おはよう。――葉奈子くんが話があると言ってたよ」
 真ちゃんとオレは顔を見合わせた。何だと言うのだろう。
 オレ達は葉奈子の部屋へ行く。
「おはようございます。葉奈子さん」
「――おはよう、たかおくん」
 ……葉奈子、いや、葉奈子さん、何だか綺麗になったみたい。
「今まで……ごめんなさいね」
「ああ、いや……」
 真ちゃんがじろりと睨む。だからお前はちょろいと思われるんだ。そんなことを言わんとする目付きで。
「お詫びに何かしたいんだけど――」
「じゃあお前の親父がみきおに何したかを話せ」
 真ちゃんが言った。真ちゃん、葉奈子さんはオレに言ったんだよ。
「そ……そうね、お父様は酷いことしたものね。みーくんに」
「勿論、無理にとは言わんが……」
「いえ、是非とも言わせてください! お父様はみーくんにいろいろ酷いことをしてきたんですもの……」
「性奴隷だったの?」
 そう言ったオレの頭を真ちゃんが小突く。
「ええ、そう……今思うとそんなこともやってたわ」
 ふぅん……。葉奈子さんには悪いけど、遺伝子ってすげーなと思ったよ、今。俺も……葉奈子さんの性奴隷にされてたから……。
 それにしてもみーくんは偉いな。そんなこと微塵も感じさせなかったもの。葉奈子さんの存在も助けになったのかもしれないけど。
 人は皆、誰かの役に立っているのかもね。
 オレはそう思って真ちゃんにすりすりした。
「な……何するのだよ、かずなり」
「ん。真ちゃんが愛しいなー、と思って」
「そんな恥ずかしいことは辞めるのだよ。お前は猫じゃない、獣人なんだぞ。ほら、葉奈子も見てる」
 葉奈子さんはくすくすと笑っている。
 ノックの音がした。赤司だった。
「おはようございます。山田さん。――あ、真太郎達もいたのか」
「どうした。赤司。こら、かずなり、離れろ」
「にゃだもーん」
「――まぁいい」
 赤司がひとつ、咳払いをする。
「僕のお祖父様が前々から山田さんの父親からの示談金を突っ返せと騒いでるのだが」
「まぁ……持っていらして良いのに。私はあんなに酷いことをたかおくんにして来たというのに――」
「いや、僕も返した方がいいと思ったんだ。でないと金目当てで騒ぎを起こしたと思われる――いや、もう既に遅いかもしれないが……」
「私、世間に公表します。みーくんのこと、たかおくんのこと……」
「みゃあ……葉奈子さん無理しなくていいんだよ」
「たかおくん……たかおくんはこのままでいいの?」
「いや、良くはないと思うけどさぁ……」
「それとも、あの時のことはトラウマ?」
「――まぁね」
「葉奈子、かずなりはそっとしといてくれないか?」
「わかったわ。緑間君」
 葉奈子さんは真ちゃんに頷きかけた。
「やっぱり、示談金はかずなりくんに持っていて欲しいわ」
「じゃあさ、そのお金は恵まれない子供達の為に使えばいいじゃない」
「たかおくん……」
 葉奈子さんはぐすっと鼻を鳴らすとティッシュで目元を拭う。
「ごめんなさいね。そんな提案をする人、私の周りには誰もいなかったから――みーくんだったら言いそうだけど」
「そうだね。みーくんだったら言うかもね」
「ありがとう、たかおくん……」
 葉奈子さんの涙は後から後から出てくるようだった。
「私、みーくんやたかおくんの為に戦おうと思ってたんだけど……ダメね。泣いてばかりで」
「葉奈子、お前、変わったのだよ……」
 と、真ちゃん。
「ありがとう。みーくんやたかおくんのおかげよ」
 ――俺にはみーくんが空の上で笑っているような気がした。
「ところで山田さん。君の罪名が確定したらもしかしたら刑務所に行かなければならなくなるかもしれないが……」
「かずなりの証言によれば刑は軽くなるんじゃないか?」
「かずなりはそれでいいのか?」
「うん、オレ、もう怒ってないし」
 オレは赤司に向かって言う。
「良かった。それじゃ、会のメンバーにも連絡するから」
「会って?」
「まだ寝ぼけているのか? かずなり。『獣人の権利を守る青年の会』に決まってるじゃないか」
「あ。そっか」
 真ちゃんの言う通り、オレはまだ寝ぼけているようだった。
「あ、お祖父様から連絡が来た。記者会見の用意が出来たって」
 赤司が言った。真ちゃんが首を傾げている。
「記者会見か――」
「お祖父様に会のことを話したら、協力するって。でも、記者会見ごときで山田三郎の意見がひっくり返るかどうか……」
「私にも話させてください。お誂え向きだわ」
「しかし……」
「たかおくんのことはほんのさわりのところだけ触れることにします。みーくんの仇もうちたかったことだし」
「そうだね……」
 オレのことも全部喋ってもいいんだけど……でも、それだと葉奈子さんが悪役になっちゃう。
「山田葉奈子。君は悪者にされても構わないか?」
 赤司の言葉に葉奈子さんは首肯した。
「構いません。私にはみーくんがいるから、他の誰に何を言われようと」
 葉奈子さんはきりっとした真顔で言った。オレは彼女が大人になったのだと知った。みーくんのおかげだね。ありがとう……。
「ボクも協力します」
「きゃっ、だっ、誰?!」
 葉奈子さんはびっくりしたようだった。――無理もない。
「あのさぁ、てっちゃん神様。もうちょっと普通に出てこれない? 不意打ちが苦手な人もいるんだから」
「かずなり……お前は不意打ちでオレに甘えたのももう忘れたのか」
 真ちゃんのツッコミをオレはまるっと無視する。
「すみません。葉奈子さんの言葉に感動しまして」
 ――因みにカガミもいる。
「えーと、あなたは?」
「そうは見えないかもしれないが一応神様です」
「てっちゃん神様はねぇ、みーくんの魂をオレの体に移動させたんだよ」
「どうもー」
「じゃあ、みーくんと私を会わせてくれたのは貴方……?」
「たかおくんの協力がなかったら実現しませんでしたが」
「ありがとう!」
 葉奈子さんはてっちゃん神様に抱き着いた。
「あれあれ」
「前から思ってたんだが――葉奈子って結構直情的だな」
 真ちゃんが言う。カガミが怒った顔をしていたが、オレも真ちゃんも知らん顔をしていた。

2018.07.29

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