猫獣人たかお 57

「雨園みきお……もしかしてみーくん?」
「はい」
 みーくんはオレと違って礼儀正しそうに見えた。山田葉奈子もお嬢様のようだから葉奈子やみーくんは上流階級ってヤツに属しているのかな、と思った。
「はなちゃんのこと、見てました……全て」
 はなちゃん……みーくんにとっては彼女は山田葉奈子ではなく、幼馴染のはなちゃんのままなんだ……葉奈子にとって雨園みきおがみーくんであるように。
「もしかして、オレのことも?」
「……はい」
 みーくんの頬が上気したように見えた。オレは葉奈子に交尾も強要された……。こんなヒトに――と思いながら反応していくモノが恨めしかった。
 もしかして、みーくんは葉奈子を抱きたかったんだろうか。でも、目の前のみーくんはどう見たってまだ子供で……。
「僕、君が羨ましかったです」
「好き勝手にされても?」
「はい。はなちゃんが喜ぶのなら」
 みーくんはうつむいた。
「みーくん……葉奈子――はなちゃんは好きであんなことやってた訳じゃないよ。きっと、そう――復讐みたいに思えたな」
「復讐?」
 みーくんは目を見開いた。
「そう、復讐。はなちゃんはオレに酷いことすることでこの世に復讐しているように思えた。だから、復讐の機会がなくなった時、葉奈子は一気に子供に戻ったんだ」
「ああ。僕、はなちゃんに忘れられてたと思ったんだけど、はなちゃんがまたオレのこと『みーくん』って泣いて求めるようになった時は、嬉しかった……。勿論、君には悪いんだけど。あんな目に遭わせてしまって」
「構わないよ。みーくんが悪い訳じゃないもん。それと、オレはたかおかずなり」
「うん。知ってる」
「ねぇ、てっちゃん神様。何とかみーくんとはなちゃんを会わせたいんだけど」
「君ならそう言うと思ってました」
 ええっ?! てっちゃん神様エスパー?!
 ――と思ったけど、そういえば神様なんだもんねぇ。オレの心読むのなんてお手のものか。てっちゃん神様っていつも呼んでいるのに時々、彼が神様なんだってこと忘れそうになる。
 やっぱり影が薄いからかにゃあ……。
「みーくんははなちゃんに会いたい? はなちゃんは物凄くみーくんに会いたがってたけど」
「そりゃあもう!」
 みーくんは拳に力を入れて強調した。そして付け足した。
「会えるものなら……会いたいよ……」
「会えますよ」
 てっちゃん神様の声。みーくんとオレは二人しててっちゃん神様を凝視した。
「みきお君……たった一日だけなら、葉奈子さんに、会えます」
「どうやって?」
 オレは気が急いた。てっちゃん神様はにっこり。
「みきお君、葉奈子さんに会いたいんですよね。なら、いくつか方法がありますけど――葉奈子さんとお話してみたいですか?」
「してみたいです。その……デートだって……」
 最後まで言えずにみーくんは照れたのかまた俯く。ちょっと恥ずかしがり屋さんなところもあるのかにゃあ……。
「デートですか。それはたかお君の協力が必要ですね」
「え、オレが、何……?」
「みきお君の体はもうないですから、たかお君の体を貸してあげてください」
 なーんだ。そんなこと。
「いいよ」
「――え?」
「他の獣人だったら嫌だけど……みーくんだったらいいよ」
「たかお君……」
 みーくんはガシッとオレの手を握った。さっきとはうってかわって大胆だにゃ。
「ありがとう、ありがとう。君のことも友達だと思っていい?」
「うん。ていうか、とっくに友達だよ」
「ありがとう……ありが……」
 みーくんはぽたぽたと涙を流した。それ以上のことはあんまりよく覚えていない。

「……かお、たかお……」
 真ちゃんの声だ。
「……ん」
 日差しが目に強い。あれ、オレの体、オレのままじゃん。
「おはようございます。緑間真太郎さん」
 あれ?
「おはようなのだよ、みきお」
 あれ? この体はやっぱりみーくんが使ってるの?
(たかお君)
(てっちゃん神様――これ、どういうこと?)
(たかお君の意識もたかお君の脳に残っています。でも、この体を動かす主導権は今はみきお君のものです)
(そうなんだ……)
(不便でしょうが我慢してくださいね)
(わかった)
「真太郎さん……?」
「みきお、事情はわかっていてもかずなりの顔で真太郎さんと呼ばれるのは何となく複雑なのだよ」
「じゃあ、何て呼べば」
「真ちゃん……いや、やっぱり真太郎でいい」
「わかりました。真太郎さん」
 真ちゃん呼びは真ちゃんもオレにだけしか許していないこと、わかっちゃった! 嬉しい!
「赤司に電話するのだよ。起きてるかな――いや、起きてるだろうな。あいつも朝は早いから。……ああ、もしもし」
 真ちゃんは緑のガラケーで電話する。
(家には立派な電話があるのに何でガラケーで電話してるんだろう? 真太郎さん)
 みーくんの声が聴こえた。
(それは……)
『はーい、おは朝占いのコーナーです!』
 おは朝占いが始まった。真ちゃんはおは朝占いに凄くこだわっている。
『蟹座のアナタの運勢は6位! ラッキーアイテムはガラケーです!』
 ……なるほど。
「今日の運勢は6位か……良くもなし悪くもなしなのだよ」
(みーくん、真ちゃんはおは朝のラッキーアイテムをいつも持ち歩いてんの)
 オレがみーくんに話しかけた。みーくんもこの体の中にいる。
(あ、そうだったね)
(きっと今回も明日のラッキーアイテム調べたんじゃないかにゃあ)
 真ちゃんはいつぞやラッキーアイテムがなくて死にかけた時、
『明日のラッキーアイテムもわかるようにしてください!』
 と、おは朝をやっているテレビ局に猛抗議したらしい。相手もさぞかし目を白黒させたのではないだろうか。
 そして――真ちゃんの願いは聞き届けられた。
「赤司が来てくれるそうなのだよ」
「あの、真太郎さん、僕のこと……」
「ああ、あのクロコとか言う黒子にそっくりの神様に事情は大体聞いたのだよ」
「??? どっちも『クロコ』なんですよね」
「ああ、そうだ。紛らわしいったらありゃしない」
「じゃあ、人間の黒子さんの方を下の名前で呼べば」
「?!」
 真ちゃんがびっくりしている。それは思いつかなかったらしい。
「そうだな。でも、黒子も『クロコ』でオレの中では定着しているし」
「そうですか――そうですよね。僕も葉奈子さんのことはどんなに月日が経っても初恋の『はなちゃん』だし」
 オレは涙が出そうになった。葉奈子のお父さんは何でこんないたいけな獣人の子供を殺したんだ! オレは、みーくんに体を貸してなかったら泣きながら地団駄踏むところだった。

2018.06.29

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