猫獣人たかお 52

「みゃーじさんは何しに来たの?」
 オレが訊いた。
「んー、遊びに来たんだぜ。お前もそうじゃねぇのか。たかお」
「せっかく来たんだ。宿題教えてやろうか? 宮地」
「遠慮します。オレ、成績いいんで」
「まぁ、正直それどころではないんだけどな」
 マー坊が大きく息を吐き出した。
「何かあったんスか?」
「これから団体を立ち上げるんだ。獣人の権利を守る為のな」
「そうか――それでたかおがいるんだな」
「ワシらもおるで」
 あ、今吉サン。眼鏡がきらりと光る。
「……アンタらは?」
「ワシは今吉翔一。こっちは花宮真や」
「……どうも」
「ワシの相方や」
「い、今吉サン! いつオレがアンタの相方になった!」
「ゴールデン街で飲む約束したやん」
「まぁまぁ」
「中谷教授。赤司達を呼びました。もうすぐこっちに来るそうです」
 真ちゃんが言った。マー坊の家と真ちゃんの部屋は目と鼻の先だ。
「じゃあ、茶菓子でも補充するかな。と言っても誰も殆ど手をつけてないけど。――そうそう。赤司は猫舌だったかな?」
「熱い湯豆腐が好きなのでそれはないと思います」
 真ちゃんが答えた。
 へぇー、湯豆腐。赤司湯豆腐が好きなんだ。渋い趣味だなぁ。真ちゃんの趣味も渋いけど。
「さすがに湯豆腐は出してやれんな――お、来たようだ」
「中谷教授!」
 赤司が嬉しそうな声を出す。赤司だけでなく、マー坊は皆に好かれる先生だ。話がわかるからかな。
「今吉さんと花宮さんは?」
「ここやで」
 今吉サンが己を指差しながら耳をピコピコ動かす。花宮サンは何故かご機嫌斜めに見える。照れ隠しなのかもしれない。
「リチャード君は元気かい?」
 と、赤司が質問する。
「ああ。イギリスから時々メールが来る」
「仲良しなんだね」
「ああ」
「さ、こんなところで長話もなんだから入って入って」
 マー坊が皆を通してくれる。
「……せっかく飯食ってたのになぁ」と、青峰。
「飯?」
 マー坊が時計をちら、と見た。
「まだ少し早いんじゃないか?」
「腹減るんだよ。やたらとな」
「じゃあ、タイガとおんなじだ」
 タイガは大食漢だ。初めてマジバでハンバーガーの山見た時びっくりしたもん。――そう言えば青峰も同じくらい食べてた。バスケって腹減るんだね。
「今日のお昼ご飯は火神君が作りました」
「――ふぅん」
「私達も手伝うって言ったのに断られたんですよねぇ、カントク」
「カレーだったら私大得意なのに」
 桃井サンとリコさんが言葉を交わす。でも、断られるのもムリないと思う。二人の料理は、はっきり言って料理では、ない。兵器レベルだ。
「はい。お茶はいかがかな」
 マー坊がお盆を持ってきた。
「あ、頂くっス~」
「お菓子もある~」
 黄瀬ちゃんとムッ君はゆるゆるな台詞を吐く。
「ねぇ、ムッ君。氷室サンはどうしたの?」
「えー、知らないよ。室ちんなんて」
 ムッ君が拗ねた。え? オレ、何か悪いこと言った?
「氷室さんはね、今日もアレックスさんとデートなんです」
 てっちゃんがこそっと教えてくれた。ムッ君は氷室サンが好きなんだ。だからこんなに不機嫌なんだ。んで、氷室サンはアレックスという人が好きで……。
 ――真ちゃんは恋人オレの他にいないよね。良かった。
 オレは真ちゃんに体を擦り付ける。
「かずなり……大丈夫か? また具合悪くなったか?」
 あのね、真ちゃん……真ちゃんの鈍さは国宝級だよ。
「さてと――獣人の為の団体について話し合いに来たんだけど」
 赤司が言う。あ、すっかり忘れてた。
「監督と桃井のおかげで団体の骨子は出来上がった。こいつらは役に立たないんでね」
 赤司は青峰と黄瀬を指差す。
「酷いっス、赤司っち」
 黄瀬ちゃんは涙目だ。まぁ、演技だろうけど。
「ふん。赤司。お前だって対ナッシュ・ゴールド.Jr戦の時は大した活躍してねぇじゃねぇか。このオレが一生懸命戦ってやったんだぜ」
「まぁ、否定はしないよ。でも、テツヤそっくりの神様がいなければ確実に負けてたね」
「ぐぅ……」
「赤司っち……変わったっスね」
「僕のどこがだい?」
「神様の活躍をきちんと認めているところっス」
「――あの時は僕自身が敗北した訳ではないからね。それに、敗北したら恐らく命はなかった」
 そうだ。オレはぶるりと身を震わせた。あそこで死んでたら皆とここで集まることなどできなかった。
 皆でナッシュ・ゴールド.Jrを追っ払ったのだ。仲間の貴重さを今改めて思い出された。
 そして今。オレ達は新たな敵と対峙しようとしている。
「ねぇ、対ナッシュ・ゴールド.Jr戦のことは後で詳しく教えてくれる?」
 リコさんが微笑みながら言う。
「ああ、そうだ。相田。トラにたかおのことを話してくれるか? 獣人についての話し合いのことも」
 と、マー坊。
「わかったわ。どうせ話すつもりでいたんだもの。獣人達の為の団体についても」
「宜しく頼む」
「計画はリコと桃井と僕に任せてくれ。真太郎。お前は参加するか?」
「当たり前なのだよ」
「よし、大輝、涼太。お前らの意見も聞いてやる」
「何で上から目線なんだよ……」
 みゃーじさんは横から聞いていて、
「あいつら、面白いな」
 と、木村サンと話し合っている。この二人はとても仲がいい。
「教授。獣人達の団体?のことについては大坪に話してもいいですか?」
「無論だ。大いに話し合ってもらいたい」
 マー坊は力強く頷きながら言った。
「よし、じゃあ名前を決めよう。いくつか候補があったよね。僕は『獣人の権利を守る青年の会』がいいと思うんだけど」
「青年というのが若々しくていいんじゃないか? うん、それがいいんじゃないか」
 赤司の提案にマー坊が賛成する。
 確かに他にもいいのがあったが、赤司達の立ち上げた団体の名前は『獣人の権利を守る青年の会』に決まった。ちょっと長いけどね。

2018.05.10

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