猫獣人たかお 48
「たかおくーん、来てあげたわよー」
「皆さんお揃いね。情報収集なら私に任せて」
リコさんと桃井サンがやって来た。青峰が顔をしかめる。
「なんだー。さつき。カントクも来たのか」
「だって、たかお君が悪の組織と戦うんでしょ?」
「むっ、間違っちゃいないが……」
リコさんの言葉に真ちゃんが渋い顔をする。
「――桃井サン、データちょうだい」
「はーい」
「オレも協力するっス。対ナッシュ・ゴールド.Jr戦ではいいとこ見せらんなかったっスからね」
「お前何の役にも立たなかったもんな。黄瀬」
「青峰っち……遠慮ないっスね。でも、バスケなら負けないっス」
「アニマルヒューマン保護機構のことを桃井さんとちょっと調べてみたんだけど――」
黄瀬ちゃんをさくっと無視してリコさんがデータを繰る。――オレは、黄瀬ちゃんが対ナッシュ・ゴールド・Jr戦でいいとこ見せられなかったとは必ずしも思わないんだけど、今はとにかく、リコさんの話を聞くのが先だ。
「かなりえげつないこともやっているようね。性奴隷にして売り飛ばしたり動物実験に使ったり」
「リコ、獣人は動物とは違うのだよ」
「真ちゃん……」
人間だって動物には違いないとオレは思うけれど、真ちゃんはきっと獣人は――いや、オレは特別だと言いたかったのかな。そうだとするとすごく嬉しいんだけど。
「ごめんなさいね」
リコさんは素直に謝った。
「いやいや、こちらこそデータを集めてもらったのに意見がましいこと言って」
「ううん。はっきり言ってもらった方がいいのよ。緑間君」
真ちゃんは何とも言えない顔をした。赤司は何を考えているのか腕を組んで立ったままだ。
一瞬沈黙が流れた。
「それにしてもたかちんは多事多難だねぇ……」
ふぁ~あ、と欠伸をしながらムッ君が言った。
「タジタナン? 何英語しゃべってんだ? 紫原のヤツ」
「アホ峰! 英語にそんな単語はねぇ!」
「何だとバカ神。じゃあ何語だっつんだ」
「二人とも! 多事多難はれっきとした日本語ですよ!」
てっちゃんが青峰とタイガの間に割って入る。
「その通りだ。意味は事件や困難が多いさまのことだ」
赤司の説明にてっちゃんは頷いた。
「ふ~っ。こんな連中相手にたかお君も大変ねぇ……」
「カントク、たかおに甘くないスか……?」
恐る恐るタイガがリコさんに指摘する。
「だってたかお君可愛いもん」
「ねぇー」
リコさんと桃井サンが顔を見合わせる。可愛いと言われるのは嬉しいけどにゃあ。
「緑間っち、うかうかしてると女性陣にたかお君取られてしまうっスよ」
黄瀬ちゃん……。
「そんなことないよ。オレは真ちゃん一筋だから!」
そしてオレは真ちゃんの方に向き直る。
ね、真ちゃん。
「だってよ。緑間っち。モテてんじゃん、このこの」
いつの間にかすーっと真ちゃんの隣に来た黄瀬ちゃんがうりうりと真ちゃんを小突く。
「黄瀬……一言いっていいか?」
「何スか?」
「死ね」
「…………」
真ちゃん、怖い。本気で怒ってるな、こりゃ。
でも、真ちゃんでも『死ね』って言うんだ。
「何だよー。何かと言うとオレには死ねってー」
うん。ちょっと黄瀬ちゃんに同情する。オレは真ちゃんに死ねって言われたらいたたまれないもん。
「緑間君。冗談でも死ねと言うのはやめてください」
「何だ? 黒子。貴様は黄瀬の味方をするのか?」
「そうではありません。たかお君が哀しそうな顔をしています」
「え……ああ……かずなり、本気じゃないのだよ。これは」
「うん。でも、真ちゃんせっかく顔もいいし性格もいいんだから死ねなんて言葉使うのやめて、ね」
「わ、わかったのだよ……」
オレだっていつ使うかわからない。もしかしたら葉奈子やデンプシィにも言ってたかもしれない。記憶にないけど。だから人のことは言えない。
でも、オレはいつも優しい真ちゃんでいて欲しかったんだ。これって我儘かな。
「たかおっち」
黄瀬ちゃんがオレの肩に手をかける。
「ありがとう」
何がありがとうなんだかさっぱりわからないが。
「緑間っちもいい恋人持ったっスね」
「ふん……」
真ちゃんはブリッジを直した。全てにおいて完璧な真ちゃんだけど視力だけは悪い。
あ、あと、困った癖が――。
「しまった! 今日のラッキーアイテムを用意するのを忘れたのだよ」
「はい」
てっちゃんが手帳を手渡した。
「あげます。これ」
「いいのか?」
「はい」
「ありがとうなのだよ――黒子」
「いいなぁ、ミドリン」
「桃井さん……ちょっとあなたが可哀想に思うわ」
「テツ君優しいから――いいなぁ。テツ君の手帳。私も欲しい」
「今日が終わったらやるのだよ」
「いらないわよ! ミドリンのお下がりなんて! 私は直接テツ君から欲しいの!」
「複雑な乙女心ねぇ……」
リコさんがうんうんと一人合点して頷く。
「じゃあ、桃井さんの分、後で買ってきます」
「本当?! いいの?! テツ君」
「はい。高い物ではないので」
「確か百均にあったよなぁ、テツ」
「青峰君は黙ってて。あー、テツ君からの手帳、もらったら一生大事にする!」
てっちゃんはタイガの恋人だ。でも、桃井サンは諦めていないらしい。てっちゃんのこと、中学の時から好きだったというからすごい一途。
桃井サン――てっちゃんよりいい男は他にもいっぱいいるよ。君は可愛いんだから。てっちゃんは悪くないけど、タイガに出会ってしまったから。
オレが真ちゃんと出会ったように。
タイガはオレと同類項にされたくないかもしれないがどちらも獣人で男の子だ。……苦労するよね。お互い。
一番可哀想なのはれっきとした女の子なのに、ミス何とかに選ばれたっておかしくない美少女なのにてっちゃんに選ばれなかった桃井サンだけどね。
そう。長くなったけど、真ちゃんはおは朝のラッキーアイテムにこだわる。ラッキーアイテムがないと死んでしまうらしい。
だから、オレも真ちゃんもラッキーアイテムにこだわる。真ちゃんはラッキーアイテムがないと死ぬ目に遭うし、オレは真ちゃんに死んで欲しくないし。でも、「何もそこまで――」と思うことも少なくない。
「あ、そうだ。皆、聞いてくれ。アニマルヒューマン保護機構の目に余る犯罪について証人になってくれそうなヤツらがかずなりの他にも二人いるのだよ」
「獣人ですか?」
と、てっちゃんが真ちゃんに訊く。
「ああ。今吉と花宮と言う。今、中谷教授のところに身を寄せている」
2018.03.21
次へ→
BACK/HOME