猫獣人たかお 47

「ありがとうございます。たかお君」
 てっちゃん神様とカガミが現れた。――てことは、これは夢?
「にゃあ……」
「それにキセキの方々やボク達そっくりの存在……彼らのおかげでナッシュ・ゴールド・Jrに一矢報いることができました。――まぁ、最後はボクの力とたかお君の力が反発してしまいましたが、今はそれで良かったと思っています」
「――ナッシュ・ゴールド・Jrは殺さないの?」
「この世にはバランスを保つ為に悪魔の存在も必要なのですよ。大丈夫。ナッシュ・ゴールド・Jrは今回の我々との衝突でかなり弱りましたからね。しばらくは手出しできません」
「ふぅん……」
 何だかよくわからないや。
「ナッシュ・ゴールド・Jrクラスの悪魔だったらうようよいますからね」
「うへー」
 オレは顔をしかめて見せた。てっちゃん神様がくすっと笑った。
「たかお君、キミもあそこにいてくれて良かったです。感謝します」
「ああ……」
 ――今回のことで、心に決めたことがあった。オレは、もう逃げない。
「ねぇ、てっちゃん神様、オレ、アニマルヒューマン保護機構と戦う」
「――そうですか」
 てっちゃん神様がちょっと憂いを含んだ表情をした。オレのことを気遣っているのだろう。
「……たかお……クロコはなぁ……お前のことが心配なんだと……」
 カガミが言った。相変わらずてっちゃん神様を釣竿で吊るしている。これを初めて見た人はギャグだと思うだろう。――見慣れてもギャグにしか思えないけど。
 そして――オレは目を覚ます。

 隣には真ちゃんがいた。
 かずなりも疲れているだろうから、とキスだけで我慢してもらったんだ。因みにオレはもう退院した。
「……ん、かずなり、おはよう」
「おはよ。真ちゃん」
 そしてオレは真ちゃんの頬をぺろりと舐めた。
「くすぐったいのだよ……」
 そう言った真ちゃんの表情には子供の頃の面影があった。
「あのね、真ちゃん。オレ、子供の真ちゃんに会ったよ」
 真ちゃんは、
「そうか」
 と、だけ言った。
 真ちゃんはカーテンを開ける。白い光が差し込んでくる。
「いい朝なのだよ」
 真ちゃんが満足げに呟く。真ちゃんがこんな風に満足げなのは交尾した後と同じだ。でも、昨日は交尾しなかったし……。
 ま、いっか。
 真ちゃんの好きなわかめと豆腐の味噌汁でも作るか。
「お前がいると結婚する必要性を感じなくなるのだよ」
 新聞を広げながら真ちゃんが言った。
「そ……そう?」
 オレはちょっと狼狽えた。
 でも……真ちゃんが結婚かぁ。相手は誰だろう。とびっきりの美女?
「いっそお前と結婚するか? かずなり」
「にゃっ?!」
「嫌か?」
「とんでもにゃい!」
 つい舌を噛んじゃった。でも、真ちゃんと結婚できたら嬉しいな……。
 人間と獣人のカップルも増えてきてると言うし。でも、俺達オス同士だもんな。
「オレ……このままでいいよ」
「そうか……」
 真ちゃんは些か落胆したようだった。
「にゃ、勘違いしないでね。オレと真ちゃんが結婚したら、オレが真ちゃんの負担にならないかと……」
「負担になぞなる訳ないのだよ! だってオレは――」
 お前が初恋なのだからな。
 真ちゃんがそうこっそりと呟いたのをオレの耳は聞き逃さなかった。
 にゃあ……オレも真ちゃんが初恋だよ。初めて交尾した相手だし。
 あ、交尾したから情が移ったってわけじゃないよ。ずっと真ちゃんが好きだったんだ。猫の時から、ずっと、ずっと……。
 何だ。デンプシィのことは笑えないや。ごめんねデンプシィ。
 でも、オレが恋したのは真ちゃんなんだ。
 デンプシィ……幸せになるといいね。
 オレは味噌汁をずずっと啜った。うん。上達してる。真ちゃんも舌鼓みを打った。
「美味しいのだよ。かずなり」
「にゃあ」
 このまま夫婦みたいなやり取りをするのもいいけど――早くあのことを言わなければ。
「ねぇ、真ちゃん――オレ、アニマルヒューマン保護機構と戦うよ」
「かずなり……」
 真ちゃんの眼鏡の奥の眼が見開かれる。
「だって――あんなに嫌がってたじゃないか。関わるのを」
「うん。でも、もうあの組織に傷つけられる獣人を増やす訳には行かないんだ」
「かずなり、お前……いつの間にそんなに強くなったんだ」
「――皆のおかげ、かな」
 真ちゃんは席を立ってオレの体を腕の中に収めた。
「お前はどんどん成長していってるな。オレは……少しついて行けないこともあるのだよ。でも……だからお前のことが好きなのだよ」
「真ちゃん……」
 ちょっとくすぐったいな。それにしても真ちゃんのさらさらの緑の髪はいつだっていい匂い。オレがふわふわした心持ちでいると――。
「さっきの決意は本当なのか?」
「アニマルヒューマン保護機構のこと?」
「ああ」
「うん。本気だよ」
「じゃあ、赤司に連絡してもいいか? かずなりがあの組織と戦うことを決めたと」
「うん!」
「かずなり――もう遅きに失しているかもしれんが……今度こそオレはお前を守るのだよ」
 オレは何も言わず真ちゃんの胸に顔をすりつけた。己の尻尾がゆらゆら揺れる。
 真ちゃん。オレも、真ちゃんのこと守るよ。
 ――ていうか、どちらがどちらを守るとかそんなこと関係なく、オレは真ちゃんと一緒にいられればそれでいい。
 なんて、ちょっと照れるけどにゃ。目の前には愛しい存在がいる。それだけで世界は色を変える。彩りに満ちて行く。
「じゃ、赤司に電話してみるのだよ」
 オレから体を離すと真ちゃんはスマホを手にして、
「ああ、赤司か?」
 などと話している。
「――朝早く済まない。え? もうとっくに起きてた? そうだったな。かずなりが心を決めたらしい。アニマルヒューマン機構と戦うと。――え? 何だって?」
 真ちゃんの声が弾んだ。いいことなのかにゃ?
「朗報だ。かずなり。赤司だけでなく、青峰や黄瀬達も協力するって」
「ムッ君も?」
「そうだ。紫原もだ。それに黒子と火神。――赤司がオレの知らないところであの組織の話をしていたらしい。皆憤慨して、『あいつらぶっ潰す』って言ってたって」
「にゃ……」
 オレは嬉しくて涙を流した。オレの為にアニマルヒューマン保護機構に腹を立ててくれる仲間達がいる。そうだ。皆仲間だ。
「ああ、済まない赤司。また後で話す」
 真ちゃんは電話を切る。そして――真ちゃんは再びオレの体にそっと腕を回す。耳元でそっと囁く。
「今まで大変だったな……かずなり。でも大丈夫だ。皆、お前の味方だ」

2018.03.11

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