猫獣人たかお 43

「本当か? 今でもいいのか? じゃあ、オレの家で待ってるぞ。赤司」
 電話は終わったらしい。
「さあ、後はあいつらが来るのを待つだけだ――そういえば、妙なことを思い出したのだよ」
 真ちゃんが言った。何だろう、妙なことって。
「ずっと前、オレはYahuuの知恵広場に、
『突然変異の猫獣人でも玉ねぎは食べられるだろうか』
 と、質問したことがあったのだよ。そしたら答えが英語と日本語で答えが返って来て――それが、
『私どもの研究によれば、突然変異の獣人も人間と同じ物が食べられるという結果が出ました』
 というものだったのだよ。研究、という言葉が少し気になったが、きっと相手は理知的な科学者だと思い込んでオレも英語と日本語で礼を言ったのだよ。確か相手のHNは《GOLD》」
「ナッシュ・ゴールド・Jr.のこと?」
「――わからんが……今思い出したのだよ」
 ふぅん、だから以前オレが、
「オレ、真ちゃんと同じ料理が食べたい。玉ねぎとか入っててもいい」
 と言った時、真ちゃんは敢えて強くは止めなかったのか。
「それは十中八九ナッシュ・ゴールド・Jr.でしょうね」
 てっちゃん神様が頷いた。
「ボクも彼の全てをわかっているわけではありませんが」
 ――チャイムが鳴った。
「黒子君達ですね」
 てっちゃん神様が言った。
「オレ、出る」
 オレが玄関に出るとてっちゃんとタイガの姿が見えた。
「こんにちは、たかお君」
「よぉ」
「やぁ、てっちゃんにタイガ」
 オレは部屋に二人を通す。まぁ、真ちゃんの部屋だけど――。
「何の用ですか? レポートの作成を手伝って欲しいとかですか?」
「そんな場合じゃないよ! 大変なんだよ!」
「何ですか?」
「おわぁっ!」
 タイガが変な声を上げた。
「何ですか、火神君、あ」
 てっちゃんのリアクションはごく控えめだった。
「ボクそっくりの幽霊ですか?」
「てっちゃん……驚かないの?」
「これでも充分驚いています」
 そうは見えないけど――。
「初めまして。黒子テツヤ君、火神大我君」
「オレ達のこと――わかるのか?」
「ええ。いつも見守ってますからね。火神君。ボクの傍にも君そっくりの天使がいますしね」
 ああ、てっちゃん神様を吊るしている男、あの人天使だったんだ……。
「どういうことですか。神だの天使だのって――緑間君からも何か言ってやってください」
 人間の方のてっちゃんが真ちゃんに向かって意見をする。
「そうは言ってもな……確かにそいつは神様らしいし……」
「君はそういうことに関しては懐疑的だったでしょう?」
 真ちゃんは無神論者というヤツだったのかにゃ。
「そんな常識など――かずなりが獣人になった時にとうに失くしてしまったのだよ」
「ああ、もう。君まで――火神君」
「おい、黒子に似た神様。何で現れた」
「それは、赤司君達が来た時に言いましょう」
「やけに勿体つけますね」
 てっちゃんは自分そっくりの神様のことがあまり好きではないみたいだ。けれど、オレは別のことが気になって――。
「今、赤司達って言ったよね」
「ええ」
 オレの言葉にてっちゃん神様が答える。
「来るのは赤司一人じゃないの?」
「違います」
 そしててっちゃん神様は謎めいた笑いを浮かべた。

「やぁ、真太郎」
 赤司がやって来た。他にも――
「よぉ」
「ちわっス」
 黄瀬ちゃんと青峰が来た。
「途中でこの二人に捕まってしまってね」
 赤司が淡々と言った。
「暇だったからな」
「たかおっちにも会いたかったっスからね」
「かずなりはやらんぞ。黄瀬」
「わかってるって。やぁ、黒子っちに火神っち」
「こんにちは」
「ちっ」
「うぉっ、黒子が二人! つーか、一人は何か透けてるし」
「神様です。初めまして」
 青峰が驚いている。
「これはライトノベルっスか?」
 黄瀬ちゃんが言った。まぁ、話の展開とかは似てるかもな――て、そんな場合ではなかった。
「青峰、黄瀬ちゃん。この人、オレを獣人にした神様」
「宜しく」
「そ……そうか」
「黒子っちそっくりの神様、初めまして。今度は黒子っちを犬獣人にしてください」
「何勝手なことお願いしてるんですか。黄瀬君! 大体犬獣人にして似合うのは黄瀬君の方でしょう!」
「黒子っち……!」
 そういえば、黄瀬ちゃんにはあるはずのない耳と尻尾が見える時が、オレにも、ある。
 トゥルルルル。
 ――電話が鳴る。
「ああ、何だ、こんな時に」
 真ちゃんが乱暴に受話器を取る。
「ああ? 紫原? かずなりを出してくれって? ほら、かずなり」
 オレは受話器を受け取った。
「なぁにぃ? どうしたの? ムッ君」
「別に~、ただ、お菓子一緒にどうかと思って。――室ちんに振られたから~」
「あー、氷室さん、彼女とかといんの~?」
「彼女ねぇ……あの人を彼女というんならね~、でも、室ちん楽しそうだった……」
 ムッ君が受話器の向こうで落胆しているのがわかった気がした。
「だからさぁ、かずちんの家に行ってもいい?」
「ちょっと待って――真ちゃん、ムッ君がここに来たがってるんだけど、呼んでもいい?」
「そんな場合ではないのだよ」
「いいえ。ボクは来て欲しいと思います」
 てっちゃん神様が言った。人間の方のてっちゃんも頷いた。

2018.01.10

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