猫獣人たかお 41

 帰る時、誰かとすれ違った。
 ――その時の違和感。
「?」
 ――気のせいか。
 日本人でないことはわかるけど……金色の頭だから。
「どうした? かずなり」
 真ちゃんが訊く。真ちゃんに心配かけさせないようにしなくちゃ。そうでなくても心配ばかりかけてるのに。
 オレは笑った。
「何でもない」

 今日はいつもより早く寝てしまった。真ちゃんには悪いけどしようがない。眠かったんだもん。
「たかお君!」
「てっちゃん神様!」
「ジャバウォックのジェイソン・シルバーを捕まえてきましたよ」
「えー? 早ーい」
 ジェイソン・シルバーって確かナッシュ・ゴールド・Jr. の下僕じゃなかったっけ。こんなにあっさり捕まっていいの?
 体格の良いシルバーは黙ったままだった。
「さぁ、シルバー。今こそ吐いてもらいましょうか。ずばり、ナッシュ・ゴールド・Jr.の弱点は?」
 シルバーはぺっとてっちゃん神様に唾を吐いた。
「ふ……ふふ……そんな態度を取ってられるのも今のうちですよ」
 あ、てっちゃん神様の中で何かのスイッチが入ったみたい。押してはいけないスイッチを。
「ボクに唾を吐いたことを後悔させてあげますよ! カガミ君!」
「おう!」
「ここから先はたかお君、君には刺激が強過ぎますから現実世界に帰ってください。緑間君も待ってますので」
「うん。じゃあ、帰るよ――というか、目が覚めたら帰れるの?」
「じゃあ、ボクが目覚めさせますね。せーのっ」
 パチッ。
 オレは瞼を開けた。
「真ちゃん……」
 真ちゃんは起きていた。いつもだったらとっくに夢の中なのに。
「まだ起きてたの?」
「ちょっと……今日は眠れなくてな」
 そして真ちゃんはぎゅっとオレを抱き締めた。
「眠らせてくれ……かずなり……」
 真ちゃんは耳元で囁いた。甘く熱い吐息だった。
「ひにゃん……真ちゃん……」
「悪い……オレは今余裕がないのだよ……」
 真ちゃんはオレの奥深くへと入って行った。

「にゃあ……」
 今度は何の夢も見ずぐっすり眠ることができた。真ちゃんとの交尾の力ってすごいな。
「眠れたか? かずなり」
「うん。おかげでね」
「そうか……オレも眠れた」
 ――沈黙が流れた。
「お前、何かオレに隠し事をしてないか?」
「……どうしてそう思うの?」
「何だか元気ないしな。――話したくなければいいが」
「うん……」
 オレは生返事をした。
 ねぇ、てっちゃん神様。真ちゃんに今、言ってもいいよね。
「真ちゃんはナッシュ・ゴールド・Jr.って知ってる?」
「む……今、最も注目されているマジシャンだな。だが、撮影をよくサボるので番組の調整が大変らしい」
「タカビーなヤツゥ」
 悪魔の手先だもんな……。2号のことも蹴ったし。やっぱりヤなヤローだ。
「そいつ、悪魔の手先だよ」
「そうか……」
「あれ? 何も訊かないの? 反対もしないの? 『まさかそんなことはないだろう』とか」
「オレもお前のおかげでいろいろ経験したからな」
「赤司にも伝えた方がいい?」
「そうだな。しかし、オレ達は赤司に頼り過ぎな気もするな」
「だって――しようがないじゃん。赤司はとても……頼りになるもの」
「む……」
 真ちゃんは口を噤んでしまった。どうしたんだろう。
 ――やがて、ぽつりと言った。
「オレじゃ頼りにならないか?」
 ――え?
 オレの耳が確かならば、真ちゃんは『オレじゃ頼りにならないか』と言ったような……。
 こんなところで赤司に張り合うなんて――真ちゃん可愛いんだ。
「赤司は赤司、真ちゃんは真ちゃんだよ」
 いつかの雨の日、真ちゃんと目が合ってから、真ちゃんは何くれとなく世話してくれた。真ちゃんがいなかったらオレは野垂れ死んでいただろう。
 真ちゃんがいたからこそ、今のオレがある。オレが獣人になったのだって、真ちゃんがいたからだし――。一言お礼言いたかったから……。
 オレは真ちゃんの背中に頭を押し付けた。
「真ちゃん。大好き。今、最高に幸せだよ」
「それにしては何か考え事をしていたようだが?」
「んとね、てっちゃん神様がナッシュ・ゴールド・Jr.を下級悪魔のリーダーだと教えてくれたの」
「そうか……オレにはついていけない世界だが、お前が巻き込まれているのであればそうも言ってられんな」
「真ちゃん……!」
 オレには真ちゃんが天使に見えた。
「にゃああああん」
 オレは真ちゃんを押し倒した。
「あ……朝っぱらから情熱的なのだよ。かずなり」
「あはは。ごめん」
 重いだろうから優しいオレはどいてあげた。
「朝ご飯作るね。何がいい?」
「和食がいいのだよ」
「オーケー。納豆も食べる?」
 オレはわざと訊いた。
「この……オレが納豆を好かんのは知ってるだろう」
「好き嫌いしないの。でも今朝は納豆ないんだ。残念ながら」
「そ……そうか」
 真ちゃんはほっとしたようだった。
 ご飯に味噌汁、卵焼きに小松菜と油揚げを炒めたのに昨日の残りの水餃子。
 真ちゃんはじっくり噛み締めて食べてくれた。嬉しいな。
 オレはご飯と味噌汁だけでいいや。
「てっちゃん神様がシルバーを捕まえたよ」
「シルバーとは何者だ?」
「あ、まだシルバーのことについて話してなかったよね。シルバーと言うのはね……」
「――名前で何となく察しがつく。大方ナッシュ・ゴールド・Jr.の仲間だろう」
 真ちゃん、天才!

2017.12.21

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