猫獣人たかお 40

「こんにちはー」
 にゃっ。てっちゃんだ。タイガもいる。
「てっちゃーん」
 オレはてっちゃんに抱き着く。
「はわわ……たかお君羨ましい……!」
 桃井サンはてっちゃんに恋してる。何だかわかる気がする。試合中のてっちゃんはかっこいい。いつもは影が薄いけど。
「こら、かずなり」
 真ちゃんがてっちゃんからオレを引き剥がした。
「にゃーん……」
「黒子。さっさとアップしよう」
「わかりました」
「かずなりもだぞ」
「にゃあ」
 オレは真ちゃんについて行った。てっちゃんがオレに近付いて囁いた。
「妬いてんですよ。緑間君」
 そっかー。オレは妬かれてんのかぁ。真ちゃんに。嬉しいなぁ。にゃへへ。
 あ、2号だ。
「2号ー!」
「……たかおか」
「アップが終わったら話があるんだけど」
「わかった」

 オレは練習の前に、
「2号と話がある」
 と、カントクに話しておいた。カントクは頷いて快く承諾してくれた。
「たかお君は2号の言葉がわかるからね。獣人だから」
 ――と言って。
「2号。ナッシュ・ゴールド・Jr.って知ってる?」
 オレは早速話題に出した。2号がうう……と呻いた。
「どうしたの? 2号。お腹でも痛いの?」
「いや……吾輩はあいつらのことは嫌いだからな……乱暴で……」
「な……なんかあったの?」
「蹴られた」
「は?」
「吾輩はあのナッシュ・ゴールド・Jr.とシルバーに何度も蹴られたことがある」
 オレは2号の憤りがわかるような気がした。オレは獣人だから動物を苛める人間には敵意を感じるのだ。オレも葉奈子に何度も蹴られたことがある。
 それにしてもナッシュ・ゴールド・Jr.はやっぱり悪魔だぜ――とオレは思った。
「長老にも聞いたんだけど、あいつ――ナッシュ・ゴールド・Jr.はいい噂がないんだって」
「さもありなん」
 2号が目を瞑った。
「それに、今、シルバーって……」
「ジェイソン・シルバーはナッシュ・ゴールド・Jr.の下僕だ」
「――2号、そいつらに蹴られたんだね。大丈夫? 痛かったよね……」
 オレは葉奈子に苛められた自分ににナッシュ・ゴールド・Jr.に蹴られた2号を重ね合わせてぽろぽろと涙をこぼした。
「ありがとう。吾輩の為に泣いてくれて。たかおは優しい猫獣人だな」
「ううん。オレも、虐待されたことがあるから」
「あの山田何とかいう女にか?」
 瞼を開いた2号はこっちを見た。
「ああ。とても辛かった……」
 ダメだ。あの頃のことを思い出すと涙が止まらない。
「そうか……吾輩もその話は人伝てに聞いて知ってる。――お前は吾輩よりも辛い目に合って来たんだよな……」
「2号……」
 あの時はもう、ここに帰れないんじゃないかと思ってた。
 また2号に会えて良かった。――真ちゃんの元に帰れて良かった。
 オレは2号を抱き締めた。
「たかおよ……少し苦しいのだが」
「あ……ごめん」
 オレは2号を解放した。いい匂いで柔らかい女の子達と違って、男に抱かれても2号も嬉しくないよね。
「たかお君。こんなところにいましたか」
 てっちゃんがやって来た。
「うん。今、2号と話してたの……」
 オレは涙を拭った。
「たかお君……泣いてたんですか?」
「うん……ちょっと昔の嫌なことを思い出して」
「じゃ、そのこと緑間君に話してきますね」
「ううん。真ちゃんの邪魔はしたくないから」
「たかお君……君はいい子ですね」
 うーん。オレ、てっちゃんより少しだけど背は高いんだけどな。オレより背の低いてっちゃんにいい子と言われてなんか複雑……。
 てっちゃんは近寄ってオレの頭を撫でた。オレはつい、
「にゃあん」
 と、鳴いた。
「――緑間君の気持ちがわかるような気がします」
「うにゃ?」
「――たかお君、前よりも色っぽくなったような気がします。緑間君も気が気ではないでしょう」
 それは、フェロモンとかいうもののせいかな。真ちゃんと寝るようになったからフェロモンとかそういうものが漂うようになったのかな。
「オレ――泣き顔見せたくないから、涙が乾いたら戻るよ」
「そうですね。ボクはもう戻ってもいいでしょうか」
「うん……心配してくれてありがとう」
「いえいえ。なんの」
 てっちゃんは戻って行った。
 涙が乾いたオレもバスケ部に戻って来た。

 キュ、キュというバッシュのスキール音は好きだ。気持ちが引き締まるようで。
「真ちゃん、パース!」
 真ちゃんはオレのパスを受け取ると超長距離シュートを撃った。真ちゃんはコートのどこからでもシュートを撃つことができる。それがオレのすごい自慢なんだ。
 オレと真ちゃんはハイタッチをした。
 体だけでなく、オレと真ちゃんはバスケの相性も良いのだ。
「やー、やられちゃったな。水戸部」
 コガが笑っている。
「…………」
 水戸部は相変わらず喋らない。
「ん、そうだね。あの二人のコンビに敵うのなんて、赤司達くらいしかいねぇか」
 水戸部はコクコクと頷いた。あの二人、どうやってコミュニケーション取っているんだろう。コガと水戸部も相当気持ち通じ合ってると思う。
「僕がどうかしたかい?」
「あ、赤司? 緑間とたかおがさ、見事なプレイ決めたからさ、敵わねぇよなって話してたんだよ」
「敵うのは僕達しかいない、って言ってなかった?」
「うん、言ったよ」
「でも、真太郎とかずなりも強くなっているからな。試してみようか。真太郎とかずなり、僕と光樹の2on2」
「ほんと? すげー!」
 コガはきらきらと目を輝かせている。オレの方に向かって頷いた真ちゃんがいつにも増して真剣な顔になっている。それなのに――ああ、それなのに。オレ達は赤司達に負けてしまった。

2017.12.10

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