猫獣人たかお 4

「今日は学校へ行くのだよ。かずなり」
「学校?」
 オレは首を傾げて聞き返した。真ちゃんはずれた眼鏡を包帯をした指で直した。
「学び舎とも言うな。そこではたくさんの人間が勉強しているのだよ。オレは大学に通っているのだよ」
「勉強……」
「取り敢えず行ってみた方が早いな。オレの大学には獣人がたくさんいるから、友達もすぐにできるのだよ」
 友達……。
「行く!」

 真ちゃんの言った通り、学校というところには獣人がたくさん歩いていた。芝生が綺麗な庭にオレ達もいた。
 わあ……オレの仲間がいっぱい……!
「よぉ、緑間」
 オレとおんなじ、猫の獣人が話かけてきた。その後ろからはちょっと悲しそうな顔をした背の高い男の人が。
「その子、緑間の友達?」
「ああ――たかおかずなりなのだよ」
「へぇ……オレは小金井慎二。オレのことはコガって呼んでくれよ。こっちはオレの飼い主の水戸部」
「…………」
 水戸部という男はぺこりとお辞儀をした。
「へぇー、コガ飼われてんの。オレと一緒だ! オレも真ちゃんに飼われてるから」
「…………」
「あ、水戸部がね、君もオレ――ていうのは、このオレのことね――と一緒か?って」
 コガが自分を指差す。
「え?」
「どこからかもらわれてきたのか、ということ」
「オレは元は野良だよ」
「…………」
「でも、名字がちゃんとあるじゃないかって」
「名字って?」
「名前の先に来るのが名字なのだよ」
 真ちゃんが説明してくれた。なるほど。オレの場合は『たかお』が名字と思われたのかな。
「ああ、たかおって言うのはね……仲間がつけてくれたあだ名。だってオレ、伸びをする時尻尾を高く上げるから」
「…………」
 水戸部はわかった、と言ったようにコクコクと頷いた。
「水戸部がね、いい名前だねってさ」
 水戸部、またもコクコク。
「――前から思っていたのだが、コガ、お前はどうやって水戸部の言いたいことを察するのだよ」
 真ちゃんが疑問を発した。
「えー、長い付き合いだからわかるじゃん!」
「…………」
 コガの台詞に水戸部が嬉しそうな顔をする。微妙な顔の変化はわかるんだが……言ってることまではなぁ……。コガすげぇよ。
「水戸部って、喋らないの?」
 ――オレが訊く。真ちゃんは、
「声を聴いたことがないのだよ」
 と、答えた。ちょっとそれ、すごくね?
 オレはコガを尊敬した。口を開かない飼い主の言いたいことがわかるなんて、すげぇ特技。飼い猫の鏡だよ。いや、飼い獣人か?
 オレもコミュ力には自信がある方だけど、コガには負けるなぁ……。コガが言った。
「あ、んじゃオレ、用事あるから。行こ。水戸部」
「…………」
「また会おうだってさ」
 ――やっぱりすげぇ。

「オレはお前を案内するから、一時限目少し遅れると、中谷教授に言うのだよ」
「ふみ?」
「ああ。教授というのは、大学で勉強を教える人のことなのだよ。――まぁ、助教授や講師が教えることもあるのだけど」
「にゃあ……」
 その中谷教授が優しい人だといいなぁと思いながら真ちゃんの後をついて歩いて行くと――。
「緑間!」
「――宮地先輩?」
 あ、真ちゃん嬉しそう。オレにもそのくらいのことはわかる。真ちゃんの友達かな?
「おや、そいつは獣人か?」
「その通りなのだよ」
「名前は?」
「たかおかずなり!」
 オレが大声で答えた。宮地サンは何故か苦笑した。
「元気のいい挨拶だな。……しかし、まさか緑間が猫の獣人を飼うとはなぁ……」
「オレも自分でわからないんです」
 あ、語尾が『なのだよ』じゃない。けーごというヤツかなぁ。
「宮地、緑間」
「木村」
 ちょっといかつい顔の男の人がこっちにやってきた。
「木村、こいつ、たかお」
「――かずなりなのだよ」
 へぇ……この人、宮地サンや真ちゃんと親しいんだ。
「こんにちは。たかおかずなりです」
「へぇー、偉いな。ちゃんと挨拶ができるなんてなぁ」
 木村サンがオレの頭をわしゃわしゃとなでる。この人は木村信介サン。宮地サンは下の名前を清志と言うそうだ。
「じゃあな。緑間。部活ちゃんと出ろよ」
「――わかってます」
 宮地サンと木村サンも行ってしまった。
「あの二人は部活の先輩なのだよ。オレも世話になってる」
「にゃあ?」
「オレはバスケ部に入っているのだよ。後で見学に連れてってやる。黒子やタイガも部員だぞ」
「タイガやてっちゃんも?」
「ああ。火神はダンクが得意なのだが、ダンクなどサルでもできるのだよ」
「――タイガは虎だよ。サルじゃないよ」
 オレの言葉に緑間がふっ、と吹き出した。
「そうだな。火神は虎の獣人だったな。――かずなり、お前は時々面白いな」
「にゃあ?」
 どういう意味かわからないけど、真ちゃんはオレのことを褒めてくれたんだろう。だから、オレは嬉しかった。
「さ、学内に入るぞ」
「にゃあ」
 オレがコンパスの長い真ちゃんの後をとてとてとくっついて行くと――。
「真太郎」
 声をかけてくる人があった。
「赤司――」
 オレは赤い髪に赤と金色のオッドアイのその青年を見た時、背中にぞくっと悪寒が走った。背は真ちゃんよりずいぶん低いのに何で――?
「おや。その子は?」
「――たかおかずなり」
 震えているオレの代わりに真ちゃんが答えてくれた。
「そうか、宜しくかずなり。僕は赤司征十郎。――と、それより真太郎。光樹を見なかったかい?」

2016.12.30

次へ→

BACK/HOME