猫獣人たかお 3

「たかおっちには、どんな服が似合うっスかねぇ……あ、これなんかどうスかね」
「却下」
「緑間っち厳しいなぁ。じゃあ、これは?」
「却下」
「じゃあ、これ!」
 それは、水着という、人間が夏になると海とか行く時に着る服(?)であった。しかも、女物。まぁ、これは獣人用みたいだけど。
「あっちに行こう。かずなり」
「ああ~、置いてかないで、緑間っち~。ただのジョークじゃないっスか~」
「お前のジョークは笑えん」
「でも、こんなたかおっちの姿、緑間っちも見たいんじゃないっスか? 本当は」
「……にゃあ?」
 真ちゃんが喜ぶなら、着てもいいなぁ、とかって考えている時だった。
「ふん。別に見たくはないのだよ」
 と、他の場所に行ってしまった。
「ああいう時は、緑間っち絶対見たいんですよ」
「にゃあ」
「だからね――」

「真ちゃーん」
 真ちゃんは紳士服(でいいのかな?)コーナーで服を物色していた時、オレの声が聞こえたのか、こっちを振り向いた。
「ぶっ!」
 真ちゃんは吹き出した。
「――な、何でそんな格好しているのだよ! かずなり!」
「真ちゃんが喜ぶと思って」
「……お前まで黄瀬に毒されたか」
 はーっと溜息を吐きながら真ちゃんは言った。
「にゃあ?」
「いいからそれは脱いで返して来い!」
「ええー。せっかく黄瀬ちゃんが買ってくれたのに~?」
「買ったのか、わざわざ……」
 真ちゃんは頭を抱えた。
「どうしたの? 真ちゃん。頭痛いの?」
「仕方ない。それは返さなくていい。……黄瀬め、後でリンチにかけてやる……」
 などと、真ちゃんが物騒なことを呟いていると――
「緑間っち~」
 と、黄瀬ちゃんが手を振ってこちらに駆けてきた。
「ね? 似合うっスよね。たかおっちのビキニ姿☆」
「黄瀬……」
「あ、なんか怖い顔……ちょっと、近寄んないで――ぎにゃああ!!!!」
 黄瀬ちゃんは真ちゃんに足技をかけられている。こうなった真ちゃんは誰にも止められないだろう。オレは目を覆って見ないふりをした。
「今度こそ、真面目に服を選ぶように」
「はぁ~い」
「……黄瀬ちゃん、大丈夫?」
「うん。今日は加減してくれてる方だよ。いつもはもっとすごいんだから」
 ――オレは、真ちゃんだけは怒らせないようにしようと思った。
「ああ。これならいいんじゃないスかね。カジュアルで」
「ふむ。なかなか悪くないな。着てみろかずなり」
「は~い」
「――待て。ここで着替えるな。試着室があるから、そこで着ろ」
 オレは試着室という部屋で水着から真ちゃん達が選んだ服を着てみた。カーテンを開けてオレは言った。
「どうかにゃあ」
「いいんじゃない?」
「そうだな。他にも、もうニ、三着見繕って買って行くか」
「そうスね」
「お前が払うのだよ。黄瀬。あんな悪ふざけをした罰だ。動物はピュアなのだよ」
「へいへい。全く、緑間っちったら素直じゃないんだから」
「何か言ったか?」
「――何も」
 黄瀬ちゃんはおててで口を塞いだ。

「疲れたのだよ」
 オレの服を抱えながら、真ちゃんは言った。
「だって、オレのことリンチにかけたじゃん。体力消耗しても仕方ないっスよ」
 黄瀬ちゃんが嫌味を言う。
「またかけられたいか?」
「冗談! たかおっち、緑間っち案外凶暴だから気をつけて」
「……にゃあ?」
「消耗したのは精神力なのだよ。ったく――」
「あ、マジバ行こう、マジバ」
 黄瀬ちゃん、真ちゃんのセリフ聞いてない。或いはわざと聞こえないふりをしているのか。
「かずなり、お前も行くか? マジバ?」
「え? でも、あそこ犬猫お断りじゃなかったっけ?」
「馬鹿。お前の姿をよく見てみろ。どこから見ても、立派な獣人なのだよ」
「あっ、そっか~」
 確か神様に人間の姿にしてもらったんだっけ。耳と尻尾はそのままだけど。
 でも、本当に影の薄い神様だったなぁ……神様なのに。ほら、ちょうどこんな感じの――。
「緑間君。黄瀬君。こんにちは」
 にゃああ! 噂をすれば!
「かげ様! ――じゃなかった、神様!」
「あ、猫の獣人じゃないですか。こんにちは」
 ――え? オレのこと、知らないの?
「ボク、黒子テツヤです。宜しく」
「こいつはかずなりだ。たかおかずなり」
 真ちゃんが代わりに紹介してくれた。
「にゃあ……神様じゃ、ないの?」
「ボクはただの人間ですよ。こっちが火神大我君」
「火神大我だ。宜しく」
 ん。この人、オレと同じ――? 耳と尻尾が虎っぽいけど。それに、何か見たことある……。オレを人間に変えてくれた神様を釣竿で支えていた男じゃなかったっけ? 耳と尻尾があるけど。
「彼も獣人ですよ。虎の獣人です。ボクが火神家からあずかったんです」
「っつーわけだ。宜しくな、たかお」
 タイガが手を差し出した。オレもその手を握った。タイガの手は温かかった。この男も悪いヤツではないらしい。
「マジバ行こうっス。黒子っち。オレ、おごるっスよ」
 黄瀬ちゃんはとても嬉しそうだ。もし、黄瀬ちゃんが犬の獣人で尻尾があったら、ぶんぶんと尻尾が千切れんばかりに勢いよく振っていただろうな、と思う。黄瀬ちゃんはどこか犬みたいだ。オレは、犬だってそんなに怖くない。
「ありがとうございます」
 神様――じゃない、黒子ちゃん……というのはなんか変だから、てっちゃんと呼ぼう。てっちゃんが黄瀬ちゃんに深々と頭を下げた。
「あ、でも、猫って玉ねぎとか食べれないんじゃなかったっけ? ハンバーガーには玉ねぎあるっすよ。大丈夫っスか?」
「獣人は人間と同じ物を食べることができますよ」
 てっちゃんが説明してくれた。ふぅん。そうだったのか。
「ちなみに、ボクはバニラシェイクがお気に入りです」
 オレも、マジバに行ったらてっちゃんと同じ、バニラシェイクを食べよう(注:本当は飲もう、が正しい言葉使いなんだそうだけど)と思った。

2016.12.22

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